No.1152の記事

自作振り返りシリーズ:工藤道隆

 工藤道隆の後日談+自分の感想です。
 読破された方向けですので、読破された方、読破する気がない方のみ、続きを読むをクリックしてください。

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 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。
 目の前の偶然に顔が綻び、思わず手をとって喜んでしまった。
「わたしのこと忘れちゃった?」
 顔をひくつかせてかたまっている類友君に、首をかしげて尋ねる。
「どちら様でしょう?」
 しかしこれに、類友君ではない人物が返答した。
 類友君とわたしの間に入り、座った目でにらみつけている。ショートカットの利発そうな女の子だった。

 ああ、しまった。

 デート中だったのか。
 うん、まずいまずい。相変わらず麻痺気味の脳のせいで、隣の女の子に気が付かなかった。
 私はお姉さん。ちゃんとフォローしてあげないと。
「えーと、名前も知らない。
 とりあえず一回きりの関係だよ」
 うん。完璧。
 と思ったんだけど、女の子の顔はみるみる赤くなり、類友君の胸倉をつかんだ。
「ちょっと工藤道隆ぁっ!?」
 あらら、なんかこじれてる?
 類友君の身の潔白を証明できたと思ったのに。工藤君はフルフルと首をふっている。
「彩葉さんといい、特別な女性が何人もいるみたいねぇ? あんた年上好きってワケェ!?」
 いろは?
「私の名前は初音だよ?」
 うわっ、睨まれた。
 なんだかピリピリムードのこの場に、携帯電話の着信音が鳴る。
「あ、電話! ごめん、あとでちゃんと説明するから」
 くどうみちたかと呼ばれた類友君は、携帯電話を女の子に見せつけつつ必死に訴えている。
 それを見た女の子は、さらに顔を真っ赤にした。
 どうしたんだろ?
 何げなく私も類友君の携帯電話を見ると、人の名前が表示されていた。
 着信相手の名前だね。
 えっと「沢木双葉」?
「工藤道隆が携帯を買ったのは高校を卒業してからよね?」
 顔は真っ赤なのに低い声でゆっくりと話す女の子。
「は、はい」
 類友君の顔がさらにひきつる。
「なんで双葉ちゃんから電話がかかってくるのかなぁ?」
「い、いや、それは……」
 あー、こういうの見たことある。
「そういえば、工藤道隆が第二校舎の屋上にいることもなぜか知ってたし……」
「色々あって、その……」
 修羅場っていうんだよね。こういうの。
 でもなんか変なの。
 修羅場ってもっと殺伐としてるイメージなのに、なんとなくそんなことないような感じ。
 女の子は怒ってるけど、本気じゃないように見える。
 多分。
 誤解だってことを前提に、許すことを前提に。それでもなんだか悔しくてすねているような感じ。

 うん。我がならいい推察。

「二人は仲良しさんだねー」
 なんとなくつぶやくと、二人は顔を見合わせて赤面した。

 ああ、なんかいいね。
 こういうの。
 相手が類友君だったからこそそう思えるんだと思う。
 どこか遠くを見ていて、何かをあきらめていたあの時の類友君。そんな類友君だったからこそ、あのときからは想像できないこんなシーンを見れることが嬉しいんだ。

「結構楽しいよね?」

 我ながら唐突だと思ったけれど、私は類友君にそう尋ねた。
 主語はつけなかったけど、きっとわかってくれると思った。
 人生、結構楽しいよね。
 考え方を変えるだけで、見方を変えるだけで、そう思えるん可能性もあるんだよね?

「はい」

 笑顔で応えてくれる類友君に、私の顔も笑顔になった。
















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 考え方を変えるだけで楽になるなら苦労はしない。

 そんな感想をいただきました。

 もちろんそれはわかっており、事実、物語の中では、主人公たちの問題は解決していません。
 ただ思考の行き詰まりにちょっとした活路を与えているだけです。

 おそらく問題を目の前にした自分ができることって、気持ちを切り替えて臨むことぐらい。しかしそれが大事な第一歩だと思うんです。
 絶望の中の一筋の光明、別の可能性がなければ人は動き出せないと思うので。
 さて、この作品は、自分がどうにもならない問題、解決できない問題に直面し、心が折れそうになった時に書き始めました。
 その時、私はこれを書くことにより随分と救われた気がします。
 そして。
 実は今まさに心が折れそうな状況なのですが、そのなかでこの作品を読みました。
 結果は、気休め程度にしかなりませんでしたね。
 ご感想のとおりなのかもしれません。
 でも、うん。
 気休めだって大事なことですよね。

 また、小説の手法として「別人物からの視点で一人の人物を描いていく」というのはなかなか面白いものでした。
 まず明かしたい工藤道隆の一面を考えるというのが先にあり、それを表現してくれるキャラクターの発案。
 そしてどう絡ませていくかという感じでストーリーを作っていったのを覚えています。
 工藤道隆という存在を少しずつ明るみに出しつつ、新たな一面と謎を提供するのに頭をひねりました。
 だから、すべて読み終えたあと、もう一度読んでいただけると新たな発見があったり、そのときの工藤の心境がもっとわかりやすいのかなと思います。
 興味と時間のある方は読んでみてくださいね。

 後日談なのですが、あえて本編じゃ絶対に見られないような道隆と美菜を書いてみました。
 もうあれです。
 EVA最終回の別の可能性レベルの変貌っぷりですね。
 パラレルワールドとして受け止めるかどうかは読者様にお任せするとして、書いててすげー楽しかったです。
 結構楽しいよね?