美奈神が書きたい放題書くところ
女神の騎士の後日談+自分の感想です。
読破された方向けですので、読破された方、読破する気がない方のみ、続きを読むをクリックしてください。
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豪快にして繊細。
剛剣を振り回すアレスの姿は勇ましく、美しい。
異形の者との戦いでは、ラヴェルナはほとんど役に立つことはないが、足手まといにもならないぐらいの心得はあった。
離れた場所で見ていて、危なくなったらすぐ逃げる。
誰にでもできることのように思えるが、愛する男が目の前で戦っているのに、何のためらいも遠慮もなくそうできるのは、一種の才能だ。
しかしいざとなれば、ラヴェルナは平気で命をかけてアレスをたすけるために動ける人間。愛する人のために何かしたいという気持ちよりも、愛する人間を生き延びさせたいという気持ちを優先できるだけなのだ。
だからこそアレスのパートナーが努められる。
轟音。
分厚い異形の者の外骨格が叩き割られた音だ。
絶命する異形の者を認めたあと、アレスは剣を振ってまとまりついた体液を飛ばし、悠然と剣を背に納める。
ラヴェルナはこの瞬間が好きだった。
単純に動作そのものが美しく見えるのも理由のひとつだが、何よりアレスが生き抜いたことば嬉しいのだ。
アレスは確かに強いが、異形の者との戦いはいつも死の香りが漂う。この瞬間は不安から解放される時でもあるのだ。
その時。
いつもとは違う何かが起きる。
アレスのまえにまばゆい光が発生したのだ。思わず目をそらすが、光の中に人影を見つけ、目を細めて凝視する。
そのシルエットは美しく柔らかい曲線を描いていた。
そして徐々に、しかし確実に人の形へと変わった。
(……女神)
その姿に、ラヴェルナ思わずそう感じた。
重力に逆らう事なく真っすぐと伸びた、長くきらめく金色の髪。
まるで彫刻かのような、理想的な顔立ち。
そして、女性の柔らかさをしっかりと感じさせつつも、すらりとした細い肢体。
理想の女性像をそのまま体現したようなその存在は、そう思わされてしまう。
しかし、それよりもラヴェルナを驚かせるものがあった。
「ベローナ……お姉ちゃん」
精悍でりりしい顔立ちから想像できない声と表情。まるで常闇の森で母の姿を見つけた迷子のようだった。
まさか。
ベローナは異形の者が滅べば再会できると行っていた。
今倒した異形の者が最後?
そんな馬鹿な。
いつ来るともわからなかったひとつの終焉。それがこんなにも突然に。
そして、予想もしていなかった結果に。
女神は実在した。
幻想の可能性の方が高かったのにもかかわらず、頑なに信じ、求めた存在を目の前にしているアレス。
無理だ。
その言葉が頭を駆け抜け、足がすくんだ。
アレスの想いは充分すぎるほどわかっているし、相手の美しさは女神の名に恥じない。小娘の自分では逆立ちしても適わない女性の魅力があふれ出ている。
見つめ合う二人。
駄目だ。
このまま見ているだけでは、自分の存在は無いも同じ。
だけど、足が動かない。
何かが二人を包んでいる気がした。何人たりとも足を踏み入れることのできない領域のような。
その領域内で世界が完結され、それ以外は存在しない。
しかし。
それを無理やりこじ開けて入らなければ。アレスとともに歩んできた時間、なにより自分の気持ちが意味の無いものになってしまう。
けれど足が動かない。
それどころか、ありえない感情が生まれている。
祝福する気持ちだ。
悔しいけれど二人はお似合いで、悔しいけれどアレスの想いが成就したことが嬉しい。
だけど!
ラヴェルナが苦労に頭を支配されている姿をよそに、アレスとベローナは手を取り遠ざかって行く。
(ま、待ってぇな)
口が開かない。
声が出ない。
このままでいいのか?
アレスのことを思えばきっとこのままの方がいい。
けれど! だけど!
「待ってぇな!」
一転する世界。
目の前の光景が瞬時に切り替わり、ラヴェルナは軽いパニックに陥りそうになったが、同じような経験があることを思いだし、深呼吸をひとつ。
今、自分のいる場所は昨晩借りた宿のベッドの中。
「なんちゅう夢や」
これほど鮮明な夢を見たのは初めてかもしれない。
「しっかし」
夢を思い返したラヴェルナは、腹の底がぐらぐらと沸き立つ感覚に見舞われた。
情けない。
いくら夢の中だとは言え、なんという体たらく。
女神が実在して、それが絶世の美女だったから何だというのだ。
自分の想いはこんなものじゃないだろう。
「気合入れるでぇ!」
ラヴェルナは握りこぶしにぐっと力を込めた。
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夢オチでしたが、女神が実在したバージョンを書かせてもらいました。
作中では、どちらかと言えばラヴェルナ寄りの地文が多かったので、女神は実在せず、ユージンが見せた幻覚というイメージが強いかと思いますが、そうとも限りません。
なんせファンタジーですから。
異形の者とかいるぐらいですから。
さて、不毛な二人という簡易説明をつけている本作。人から見れば理解できないようなこだわりは、得てして苦しく険しいものです。
あとがきにも書きましたが、こういう愚直なまでの一途な想いってなんかいいんですよね。
またこういうのが書ければなぁと思います。