2005年3月の漫筆



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2005年3月14日(月) 「けいすけ、人権擁護法について言及する」

 私は日本の在り方や政治家批判を人前でして馬鹿にされた経験が何度かある。 「そんな話はつまらない」、 「そんなことを俺らが話したってどうにもならないだろ」、 どうやら日本人は政治や法律について話す人間を嫌う傾向があるようだ。 だから私も歳を重ねるごとに人とはそういった議論をすることを避けるようになった。 だが今は危急存亡の秋(とき)である。 私は人からどう思われようとも、 土曜日の日記 にも書いた『人権擁護法案』についてもう一度書きたいと思う。

 数年前にマスコミがメディア規制法は言論の自由を奪うから反対だと 一大キャンペーンを起こしたことは記憶に新しい。 そのメディア規制法が人権擁護法だ。 しかし、今回はマスメディアがほとんどと言っていいほど取り上げない。 それはなぜかと言えば、今回自民党の法務部会に提出された法案では メディアへの規制が凍結されたからである。 つまり、あれだけ言論統制だの封殺だの国民の権利を奪うなと主張していたにもかかわらず、 自分達に害が及ばなくなればもうどうでもいいわけだ。 すべてとは言わないが、この国の報道機関は本当に腐ってる。

 テレビでは一切取り上げられない人権擁護法案が今のまま成立すると、 人権委員会なる組織が法務省の外局として新設され、委員会から人権擁護委員2万人が選抜される。 その委員は「人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、 法律又は社会に関する学識経験のあるもの」から選ばれるらしい。 そんな人物がこの世に存在するのかどうかは分からないが、 簡単に言えば一般人は排除され、 これまで人権運動を行ってきた活動家のみが選ばれるということである。 極めて偏った人選がなされることは想像に難くない。

 では、その委員会および委員にはどんな権限があるのか。 人権擁護法案第四十四条にはこうある。

 一 事件の関係者に出頭を求め、質問すること。

 二 当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の所持人に対し、その提出を求め、又は提出された文書その他の物件を留め置くこと。

 三 当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問すること。

 平たく言えば、身柄拘束・証拠品押収・家宅捜索を行う権限が委員会にはあると明記されているわけだ。 それも裁判所の裁定なしにである。 裁判所の令状に基づく強制捜査ですら、第3者の立ち会いのもとに公平性を期すこととされているのに、 この法律には捜査される側の人権も捜査の不当性を弁護証明する権利も一切存在しない。 まさに戦前の治安維持法、特高警察そのものである。

 しかも人権擁護法の第二条には何が「人権侵害」にあたるかの定義がまったくなされていない。 どのようにもいかようにも拡張解釈ができる。 例えば、在日外国人に「おはようございます」と挨拶しただけでも、 挨拶された人間が日本語で挨拶することを強要されたと訴えれば人権侵害になってしまう可能性すらある。 日本から日本語が消える日、これは笑い話ではない。

 なぜなら、この法案には「国籍条項」が明記されていない。 従来の人権擁護委員は「市町村議員の選挙権を有する」とされていたが、 今の法案では「市町村の住民」となっている。 つまり日本人以前に、外国人どころか、密入国した不法滞在者であろうが北朝鮮の工作員であろうが、 人権委員会が指名さえすれば、誰でも人権擁護委員になることが出来るということだ。 おまけに、人権擁護委員に通報することができる人の条件には、 観光ビザで日本に観光に訪れている外国人も含まれるというのが法務省の見解だ。

 おまけに、人権委員会の行動を監視・抑制する機関は存在するのかという問いに対し、 法務省は「ない、存在しない。人権委員会は独立している」と明言している。 捜査令状なしの強制捜査が可能な警察以上の権限を保有する委員会が司法からも独立し野放しにされるということだ。 そんな馬鹿な。ここは本当に法治国家か。

 ただ、14日の自民党法務部会では、 日本国籍を持つ者に限るとの「国籍条項」を新たに盛り込む修正案が浮上している。 しかし、国籍条項だけが問題ではない。 そもそもの取り締まるべき人権侵害の定義からあいまいなのだ。 それに、人権委員会が国籍条項は差別と認定して即刻撤廃される可能性もある。 今国会への再提出を急ぐ人権擁護法案推進派議員に騙されてはいけない。 そして、自民党の推進派だけでなく、民主党と公明党も同法案に賛同している現在、 人権擁護法案が自民党法務部会を通過して国会に提出された場合は、 ほぼ間違いなく可決されるということも忘れてはいけない。 この法案に反対しているのは赤狩りをおそれる共産党だけだ。

 だが、この土壇場にきて一筋の光明が見えはじめた。 救う会全国協議会 拉致問題の解決に障害となる「人権擁護法案」に断固反対する緊急声明 を表明したからである。 あくまで希望的観測だが、強行採決を目論む推進派も救う会の意向だけは無視できないはずだ。

 とにかく、明日15日午前中に日本の自由主義社会がこれからも続くかどうかが決まる。


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