ナルトが『誰かいるような気がした』のは、決して彼の気のせいでも、人恋しい寂しさがもたらしたものでもない。
実は彼、うちはサスケは、ココに着いて更に10分以上、右往左往しながら悩んでいたのである。ナルトにどう説明すべきかと・・・。
いつもなら簡単にはじき出せる…いや、悩むことすらなかったろう事だが、ナルトが絡むとどうもうまくいかない。
・・・ああ、チクショー!まだどう言うか決めてねぇってのに、コイツに気づかれるなんて。
いや、10以上も扉の前でウロウロされて、気づかない方が忍びとしては大問題だ…という点を棚に上げて、サスケは内心で狼狽えた。
が、やはりそこは、うちはサスケ。決断も早い。
・・・しょうがねぇ。そのまま言うか。カカシの言うまま…ってのはムカつくがな。
決心したサスケが口を開いたのと、疑問符一杯のナルトが口を開いたのは、同時だった。
「なぁ、なぁ?あ、カカシ先生が何か言い忘れたことあったとか?」
「・・・・・・ぇ」
しかし、珍しい事にサスケの声は非情に小さく、ナルトの声にかき消されてしまった。
「は?」
俯いて告げられた声が余りにも小さくて、ナルトは耳に手をあてて聞こえませんのジェスチャーをしながら、サスケに問い返す。
すると、スゥーっと息を吸い込む音が聞こえたかと思うと
「だから泊めてくれって言ってんだよ!」
今度は一転して大声で怒鳴られて、ナルトはクワンクワンと目を回した。
その隙に、サスケはスルリと彼の横を通り過ぎて室内へと潜り込む。
「ジャマするぞ」
「…ッ…ってぇー、何すんだよ、サスケ!」
「ソレくらいで目ぇまわしてんじゃねーよ、ドベ」
はぁ〜と呆れた溜息と共に言われた言葉に、再びナルトが逆上する。
「ウルセーッてばよ、この馬鹿ッ!」
「馬鹿はてめぇだ、このウスラトンカチ」
先程よりも怒りを含んだその声がすこし遠くて、ナルトは室内へと視線を移す。すると、ソコには見慣れたうちはマークが見えた。
「サスケ?」
その肩が何やらフルフル震えてる気がして、ナルトは首を傾げつつ自分も家に入る。
「何だってばよ?」
「てめぇこそ何だよ、コレは!」
振り向いたサスケがズイッと突き出したのは、先程までナルトがウキウキと待っていたカップ麺。
「へっへー、ソレってばこないだ発売されたばっかの新商品だってばよ!…って、ああーッ!とっくに3分過ぎちゃったってばよッ!」
一大事とばかりに時計を見ながら叫んだナルトの横を、黒い影が過ぎる。
「ん?・・・って、うわぁ!」
ナルトの叫びはほんの少し遅く、哀れにも湯立ちすぎたそのカップの中身は、ジャバジャバと音を立てて流しの中に消えた。
「ぎゃー!何すんだってばよっ、サスケ!」
「ウルセーッ!マジでこんなモンばっか食ってやがったのか、この馬鹿!そんなだから、てめぇはチビなままなんだよ!」
「あああ、俺の好物がぁ〜!流れるぅー、流れてくッってばよぅ〜」
既にサスケの言葉など聞いてもいない。シンクに縋り付いて嘆く少年の金色の髪を見下ろし、サスケは何度目かの溜息をついた。
「・・・ったく、しょうがねぇな。すぐに何か作ってやるから、叫ぶな」
クシャリと目の前の金色のホワホワに手を突っ込むと、ガシガシと乱暴に撫でた。
「ふぇ?」
ホント?と言いたげに見上げられて、サスケは瞬間、耳まで赤くする。
こんな仕草があどけなくて、同い年の男に言う言葉ではないけれど、可愛く見えて困るのだ。醜態を晒すまいと、サスケはフイッと視線を逸らせた。
「まぁ、俺も食うしな。礼代わりだ」
「・・・てか、お前、ホントに泊まる気だってば?」
「悪ぃかよ、別に・・・」
好きで泊まりに来たわけじゃねぇと続けようとしたサスケだったが、目の前のナルトの表情に口を噤んだ。
「へっへー、しょうがねぇから食ってやるってばよ!」
それはそれは嬉しそうに、ニッコリ笑ったのだ、ナルトが。
今までサスケが一度も見たことがないほど、無防備全開という感じの笑顔で。
「サスケ?」
フリーズしてしまったサスケを覗き込んだ瞬間、サスケはグイッとその顔を押しやって自分は後ろを振り向いた。顔を見られないように。
「・・・いーから、てめぇは向こうに行ってろ。ジャマ!」
その時のサスケは、頬と言わず耳と言わず、上から下まで真っ赤であった事は、誰も知らない秘密である。
★☆★☆★
「…ふぅーん、なぁんだ、カカシ先生の差し金だったのか。どうりで変だと思ったってばよ。」
材料がねぇとか、味が薄いとか、些細な事で何度も繰り広げたケンカのせいか、いつもよりドッと疲れた2人は、早々に床についた。
・・・と言っても、ナルト宅に客用の布団などあるはずもなく、二人は同じ布団の中である。
「ああ」
ちょっと拗ねたような口調でナルトが言うのに、サスケは短く相打ちをうつ。
「何でかなぁ。まぁ、いーけどさ。・・・ってよくねぇ!ラーメン、捨てられたってばよ!」
「あんなモン、食ってんじゃねぇ!ナルト!…てめぇ、前も注意されてただろーが!」
一時、野菜食え〜とカカシがナルトに付きまとっていたことは、しっかりチェック済のうちはサスケ。
1歩間違えればお前も変態上司と同じストーカーだ、しゃーんなろー!と、内なるサクラに思われてることまでは、流石に知らない。
「───うう〜。だって、美味しいってばよ。俺ってばラーメンが1番好き」
「好き嫌いばっか言ってんじゃねぇ!栄養偏るくらい分かんだろうが。…たく、明日から俺とサクラが何喰ったかチェックすっからな。まともなモン、食っとけよ。…サクラは怒ると怖いぞ」
悔しいかな、こういう時は、自分は元より上司であるカカシやお人好し中忍よりも、サクラが1番、ナルトに対して効力がある。
惚れた弱みというヤツなのか、ナルトは彼女の言葉には驚くほどに従順だ。
───むかつく
自分で考えて不機嫌になったサスケは、まだ、何やら、ヒドイだのオーボーだのと、抗議の声をあげているナルトの頭をガシッと掴まえて、己の胸元へ引き寄せた。
「ハニふんら!」
鼻を強かに打ったらしいナルトの叫びにも、頓着せずにサスケは目を閉じる。
「いいから、さっさと寝ろ!ウスラトンカチ。明日も任務なんだからな」
言いながら、俺はもう寝ると態度で示すように、鼓動も呼吸も調整し、眠ったフリをする。
すると、すぐに騙されたナルトは、案の定、しばし文句を垂れた後、大人しくなって、ものの数分で眠りに落ちた。
「・・・ったく。だからお前はドベって言われんだろーが」
こんなにあっさりと乗せられてどーすると嘆息しながら、すっかり熟睡モードに入ったナルトをチラリと見下ろす。こうなれば、煩かろうが蹴られようが、ちょっとやそっとでは起きないのは承知の上だ。
コレが忍者だと言って一体誰が信じるだろうかと、思わず首を傾げるサスケである。
「これじゃあ、火影の夢は遙かに遠いな」
ナルトの夢は火影になること。
この里の長になって、皆に認められて、そして自分の手でこの里を守るのだと、誰に何を言われても、その願いを貫こうとするナルトの気持ちは、正直、サスケには理解できない。
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