まぁ、気が狂ったりはしないだろうけどねぇ。多分、今お前が考えてるよりずっと、今夜は辛い夜になる。」
「別に・・・んな事は構わねぇ」
苦悩する姿をナルトに見られるなんて冗談でもゴメンだし、余計なトコだけ敏感なナルトに、同じ痛みを与えたくもない。
たとえカカシの思惑がどうであれ、今の言葉には従えない。
「あの子ならきっと、温めてくれるよ。それとも…」
カカシは間を取って、サスケをジィッと見た。
「そんなに、あの子を傷つけたくないんだ?」
「てめぇ!」
余計な一言(それもズバリ核心)をついてきたカカシに、サスケは適わないと知りつつ攻撃態勢に入る。
だが、その拳が届く前に、続けてカカシの言葉が耳に届いた。
「でも、もう傷ついちゃってるよ。傷つけたのは、お前だ。サスケ」
ハッキリと断定されて、サスケはグッと言葉に詰まって、握った拳を震わせる。
その語、チッと舌打ちをして腕を降ろすと、プイッと横を向いた。
「お前も…ホント、まだまだお子様だねぇ。ダメでしょ、好きな子にあんな態度したら。」
ヤレヤレと、ワザトらしくカカシは肩を竦める。
「そんなんじゃねぇ!」
「ま…部下の恋路をジャマする気も応援する気もないんだけどね、俺は。」
「そんなんじゃねぇ…って言ってんだろ!」
大体、いつだっててめぇはジャマなんだよ!と心で叫んでいるサスケである。
「そんな真っ赤になって反論されてもね……て言うか、お前、赤面すんの似合わないし。・・・ま、今夜のトコロは俺の言うコト、聞いときなさい。お前は今夜、ナルトと一緒に居るコト。ちなみにコレ、上司命令だから。」
ピシッとサスケを指さして言いつけると、カカシは反論も聞かずに姿を消した。
「…ッざけやがって、あんのクソ上忍!」
苛立たしげに怒鳴り、その後にサスケは大きな溜息をついた。
命令違反は簡単なことだが、カカシの一言は気になった。
───俺が……傷つけた。ナルトを?
守ったつもりだったのに。
・・・いや違う。分かっていた。
分かっていたから、あの時、ナルトの顔が見られなかったのだ。
傷ついた顔で謝られるのも、怒ったフリして突き放されるのも、嫌だったから。
だから、機会を伺っていたナルトを無視したのだけれど、その態度が更にナルトを傷つけてしまったのだと、カカシは言う。
───クソッ
誰にともなく悪態をついて、サスケはたっぷり十分はその場で逡巡を繰り返し・・・そして結局、彼の足は愛しい子の元へと歩を進めたのであった。
★☆★☆★
「ん〜、誰ぇ〜?誰かいるのかってばよ?」
さっきから何度か、妙に扉の外に人の気配を感じるような気がして、気になったナルトは扉を開いた。
「ンー・・・なぁんだ、やっぱ気のせいだってばよ。」
目の前のいつもの風景を見て、安心したように、けれど、どこか寂しげな口調で呟く。
(そーだよな。ココに来るなんてイルカ先生くらいだもんな…)
「イルカ先生だったら、声かけるハズだし。気のせい、気のせい。先生、しばらく忙しいって言ってたってばよ。」
一人でいる時には、いつも以上にお喋りが多いのは、ナルト自身が気づいてない、彼のクセだ。
気のせいとか言いながらもほんの少し、あのお人好し中忍が立っている事を期待していたのだろう。
淋しそうな口調のナルトがドアを閉めようとするのを、サスケは無表情に眺めていた。
「…う?…アレ?アレ?なんで動かないってばよっ!」
んぎぃーと変な擬音付で必死にノブを引いているらしいナルトに、そのドアと床の隙間に足を挟んで閉まらないよう固定していたサスケは嘆息した。
そうしてやっと、忍びの習性で気配を絶っている彼に、存在感が生まれる。
だが、必死になっているらしい金色の少年は、未だにその事には気づかなかった。
「・・・このウスラトンカチが…」
ここまでして気づかない、こんな忍者アリなのか?普通のヤツでも気づくだろー?
普段から、ドベだバカだと思っていたが、ここまで酷いとは…。
これでよく卒業できたものだ…と改めて思い、サスケは深い深い溜息をついた。
「ああーッ!サスケ」
やっとこさ、ドアの向こうに人が居るコトに気づいたナルトはひょっこりと顔を覗かせ、指をさしながら叫んだ。
「…ったく、てめぇ。忍者なら気配くらい読めっていつも言ってんだろーが」
「ウルセーってばよ!サスケにんなこと言われたくねぇってば!」
「…あのなぁ…ソレでお前がヘボしたら、俺まで迷惑するんだよッ!何が『気のせい』だ、このドベ!」
「むぅ〜、今は任務中じゃないからちょっと気ぃ抜いてただけだってばよ!・・・ん?」
いつもの通り、少ない語彙でまくしたててくるか?と思いきや、急に口を閉じて首を傾げた相手を、サスケは訝しんだ。
「何だよ?」
「あのさー、あのさー?」
「おい、用件を簡潔に言え。ドベ」
「だからさー、どうでもイイけど、何でお前、ココに居るってばよ?」
「・・・」
尤もと言えば尤もなナルトの言い分に、サスケは押し黙った。
ふざけた上司のふざけた命令を、どうナルトに説明すべきか、まだ考えていなかったのである。
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