(SCENE 2 カカシの助言?)
第7班、おしゃべり担当の2人が去った後、その場は再び沈黙が支配した。聞こえるのは、時折通り過ぎる風の音だけ。
たっぷり1分は、そうして居ただろうか?
サスケが、用がないなら帰ると言おうとした瞬間、カカシが口を開いた。
「プハーッ!…ったく、お前と居ると息が詰まるねぇ〜」
言うに事欠いて、何というセリフだろうか?
サスケはムッと表情を顰めた。
「てめぇが残らせといて、何言ってやがる!用がねぇなら帰るぜ」
言いながら、既に歩を進めているサスケの耳に、再びカカシの声が届いた。
「俺に対しては、いつもどーりのお前なのにねぇ〜」
意味深なそのセリフに、サスケは足を止めて、顔だけ振り向いてカカシを睨んだ。
そんなサスケに、カカシはニッと胡散臭い笑みを見せる。
「俺には?…アンタだろーが誰だろうが、俺はいつもと変わりねぇよ。」
「はい、ウソ!」
毎日毎日、お喋りコンビに言われて耳タコなセリフを、カカシは指を突きつけながら言った。
その言葉に、サスケは返す言葉を呑み込んでしまった。
いつもどうりではないことは、誰よりも自分が1番、分かっていた。
指の先から、冷えていく感覚。まるで、死んだのは自分であるかのようだ。
そしてナルトの事も・・・。
正直、彼に対して、どんな顔をしていいのか、分からなくなってしまったのだ。
考えた瞬間、カカシにも突っ込まれてしまった。
「だってナルトの事、思いっきり意識しながら無視してただろー?お前ってホント、不器用だね〜、サ・ス・ケ」
センテンスを区切って名を呼ばれた瞬間、サスケはヒュンと苦無を放った。
もちろん、サスケ曰く『腐っても上忍』なカカシには、掠りもしなかったが…。
「アッブナイなぁ、サスケ」
「うるせぇ!」
「ま、イラつく気持ちも分かるけどね。何せ、初めて人を殺しちゃったんだし。
まぁ、コレばっかりは慣れるしかないから。」
「俺は別に何とも思ってねぇ!イラつかせてんのはてめぇの態度だろーが!」
「あ、嘘ついてもムダだよーん。サ・ス・ケくん?」
びよーんと、一瞬で近寄ったカカシはサスケの頬をひっぱって伸ばした。
「な───ッ」
「それに、ソレはダメだぞ。サスケ」
急に真面目な声になったカカシに、サスケは怒鳴るタイミングを奪われてしまった。
「忍として生きる以上、汚い真似をするコトも非情に徹するコトも必要だ。今日のように、誰かの命を奪うことも、この先、数え切れぬ程あるだろう。」
サスケは、グッと拳を握った。そうしても、指先には温度が戻らない。
冷たくじわじわと凍える感触。冬でもないのにどんどん冷たくなっていく。
───これが、人を殺す、という事。
カカシは、そんなサスケをじっと見た。自分にも覚えのある感覚を、今まさに感じているのだろう少年を、考えの読めない目でじっと見下ろした。
「サスケ。忍である以上、誰かの命を奪うその感覚に、慣れる必要はある。だが、平気にはなるな。屠る痛みを、常に感じ続けろ。」
「カカシ……」
「いいか?何も感じなくなったら……」
言葉を止めたカカシを、サスケはチロリと見上げた。だが、食えない上忍の表情からは何も読みとる事は叶わず、サスケは嘆息すると言葉の先を促した。
「・・・なったら?」
「その先には、地獄しかないよ。俺は、そうやって壊れて堕ちていった奴らを、数え切れないほど見てきたからねぇ。」
「・・・」
軽い口調だったけれど、それは真実なのだろう。
カカシの言葉には、口調に反してずっしりと重い説得感があった。
もしかしたら、狂気に走ったとしか思えないあの兄も、その一人だったのだろうか?
そうだとしても、許すことは決して出来ないけれども・・・。
あの時の兄の心情を、知りたいと、今は少しだけ思う。
(知ったとしても、どうなるモンでもねーけどな)
何があったとしても、この恨みを消すことは、出来ない。例え、兄が己の行いを悔いる日が来たとしても、死んだ者たちが戻ることはないのだから・・・。
陰鬱な気分になったサスケは、もう1度深い溜息を吐き、考えても仕方ない事柄を頭の中から追いやった。
「それよりお前、今夜ちゃんと眠れるかー。何なら、ウチに来るか?特別に先生が抱っこして眠ってやるぞー」
両手を拡げたカカシに
「ふざけんな!」
ゲシッとサスケは蹴りでその手をはねつけた。寸前で、避けられてしまい、チッと舌打ちをする。
「お前ってホント、可愛くないよねぇ〜。これがナルトだったらもう、ギューしてチューなのになぁ〜」
「そんな真似してみろ!貴様、マジで殺す!」
ギランとサスケはカカシを本気で睨んだ。下忍とは思えぬ迫力である。
「まぁ冗談はさておき、お前、今夜マジで一人じゃ眠れないから。ナルトのトコでも行って来い。特別大サービスで、保護者代わりの中忍にも黙っておいてやるから。ただし、イケナイ悪戯はしないよーに。」
ホントに冗談か?…と疑わしい目でカカシを見ていたサスケは、続いた言葉に目を剥いた。
「な……何ぬかしてやがる!ふざけんなッ!誰が行くかッ」
驚愕の後、思った通り激昂しはじめたサスケに、カカシの態度は変わらない。
「でも、指先から足先まで、すっごく冷えてるデショ?」
「───ッ!」
驚きに見開く目で、肯定してしまった事に気づいて、サスケはフイッと顔を逸らせた。
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