忘れえぬ痛みと共に】(サスナル) P3
 

「そうよ!何もかもサスケ君の言う通り。…先生、自分の落ち度くらいちゃんと自覚して下さい!子供じゃないんだから!」
 らしくなく物思いに耽っていると、横合いから、元気よいサクラの声が飛んでくる。
いつもより元気よく感じるのは、きっといつも通りであろうとしている彼女の意気込み故だろう。
───うーん、サクラはまだまだ…だね。
 サスケほど動揺を隠し切れてはいないけれど、努力は認める…というところだろうか。
下忍でコレなら充分合格点なのだが、ソコはソレ。これまで多くの忍者候補達に不合格の烙印を押してきたカカシの採点は、やはり厳しかった。

「サクラ…お前ねぇ…」
 ナルトの手を引いて、ギュッと握りしめてる少女の瞳が、ジッと自分を挑むように見ているコトに、カカシは苦笑する。
「何もかもサスケの言う通り…って、それはちょーっと贔屓なんじゃないの?」
 ナルトを庇って叱られると覚悟していたサクラの予想に反して、カカシは苦笑して冗談を返してきた。

───ま、今回のトコロは見逃しましょー。
 ホントなら、叱らなければいけない。分かっていない人間にはそうするべきだ。
だが、サクラは己のしたコトを充分理解している。だから、その必要はないだろう。
それに、仲間を想う彼女の心は、自分の願い通りとも言えることだから・・・。

 辛いコトをたくさん知るその前に、仲間との絆を確固たるものとして掴み取り、決して離さずに居るコト。それが、カカシの教育方針だ。
 守るべきモノがない者は、怖いモノが無い分、とても強い。
だが、大切な何かを信じ、守り続けようとする者は、それ以上に強くなれる可能性がある。
 その事を、幼い彼らに伝えねばならない。
───それは、カカシが、己の師から受け取った、最後の教えだから。

「そんなコトないわ!客観的な意見です。…ね?サスケ君」
 今回は特別にお咎めナシ…という、言葉に隠されたその意図を察して、少しだけ嬉しそうに微笑むとサクラはサスケに話を振った。
「フン、まぁな……おい、時間ねぇんだろうが。早く行くぞ。」
 サクラの方…否、サクラと共に居るナルトの方を一切見ないまま、簡単に相槌を打つと、サスケは颯爽とその場を後にした。

「…ぁ、…」
 恐らく、話しかける機会を伺っていたのだろう。
普段からは考えられない程大人しく立っていた金色の少年は、小さな声をあげて顔を上げた。
 透き通るような青い瞳に、悲しみの翳りが揺らいだのを感じて、サクラとカカシは一瞬言葉を失う。
それを察したのだろう。ナルトはいつもの笑みを作って見せて、
「2人とも、早く行こうってば!」
 元気よく言うが早いか、ザッと音を立ててその場を後にした。

 サクラはギュッと唇を噛みしめて俯いた。
多分、悔しかったのだろう。結局また、ナルトにあの顔をさせてしまったコトが・・・。
───お前の作り笑いなんか、俺ら、もう簡単に見破れちゃうんだけどねぇ〜。
 そろそろ気づいて、そして1度でいいからこの腕の中で泣いてほしい。
誰かの為なんかじゃなくて、自分自身の為に・・・。

 その時がきっと、人を傷つけるコトに敏感で、自分が傷ついているコトに鈍感なあの子が、真実、自分達に心許した瞬間となるのだろう。
 時間が掛かっても、きっと自分達はその瞬間に立ち会える。
どこぞの中忍みたいに、きっとあの子の心の中に入っていける日が、きっと来ると信じてる。
「・・・全く…忍者がそんな派手な音を立ててちゃダメだろーが。ホラ、サクラ。俺らも行くぞ。」
「うん」
 ポンと軽く頭を叩かれて、サクラは面を上げた。泣いても嘆いてもいない、力強い声。
強い意志を秘めた緑の瞳は、カカシと同じ決意を思わせた。
───ホントに、イイ部下だよ、お前達は。
 3人が3人とも、愛しいと思う。コレが、部下を持つというコトなのか。
 忍として、あらゆるコトを知ったつもりでいたカカシだが、いまだに日々、この子達に教えられるコトがある。
───コレが、人生の醍醐味って奴なのかね〜
 とっくに、人の心なんて失ったんだと思っていた。狂わないだけ、自分はマシなのだと。
 でも、そうじゃなかった。心はきっと、眠っていただけだったのだ。
起こしてくれたのは、懐かしい金色の輝きだろうか?
 どこか照れくささを感じながらもそんな事を思って、カカシはサクラを伴ってその場を後にした。

「はーい、報告完了。サスケ以外は解散〜」
「「「・・・・」」」
 何でサスケ君だけ残されるのよ!と、いつものサクラなら怒鳴っただろう。でも、サクラは少し表情を歪めただけで、コクンと頷いた。
 そして、ボーッと突っ立って反応しないナルトの袖を、ツンツンと引っ張った。
「ほら、ナルト!さっさと行くわよ」
 人払いされた以上、ココにいるわけにはいかない。居ても、サスケに言える言葉など見つからない。
でも、カカシなら、きっと何かあるのだろう。・・・一抹の不安は感じるが。
「ナルト!」
 耳元で大声で叫ぶと、ビクッとナルトの体が大きく震えた。まるで今初めて、聞こえましたと言うかのように・・・。
「…サ、サクラちゃん、耳が痛いってばよぅ〜」
「アンタがボケーッとしてるからでしょ!」
「へへーん!俺ってばただボーッとしてたワケじゃないってばよ!サスケが居残りさせられてる間に、どんな修行しようか考えてたってばよ!」
 ココでいつもなら『フン、ウスラトンカチが…』など、彼特有の悪態が返ってくるところだったが、今回は違った。気まずい沈黙が、一瞬あたりを支配した。
「じゃーな!」
 殊更、元気な声を張り上げて、ナルトは駆けていった。その背中が小さくなるのを見送ってから、サクラは残る2人に軽く会釈すると、自分もその場を後にした。

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