自分は里など、どうでもいい。
第7班の者達には、ムカつく上司も含めてそれなりに思うところはあるけれど、それ以外には全くもって、どうでもいい。生きようが死のうが好きにしろと思っている。
だから、あんなに虐げられながらも、里人に認められたいと願い続けるナルトの気持ちは、分からない。恐らく、一生、理解できない。
けれど。
ナルトがその願いを胸に邁進するその横を、ずっと駆けていたいとは思う。
いつか、ナルトがその夢を叶えるまで。もしくは、志半ばで、果てるまで。
その時、自分が彼の隣に居られれば、最高だと思うのだけれど。
「・・・それも難しいな」
自分にも悲願がある。それは、自分の人生などより、大切なものだ。
その目的があったから、自分は今、生きている。いや、生きてこられた…と言うのが正しい。
だから、この悲願だけは捨てられない。それは、自分の生きる理由だから。
奪ってみせると誓った兄の命も、今日、奪ったあの命のように重いのだろうか?
想像して、サスケは首を振った。
今の自分では、考えるだけ無駄なこと。ハッキリ言って話にならない。
きっと兄は、あのカカシよりも、ずっと強い。今の自分では、暇つぶしの相手にもならないに違いない。
「・・・考えたって仕方ねぇ」
敵が強いならば、それより強くなるしかない。その為に、努力するしかないのだ。
けれど、誰かを守る為に強くなろうとするナルトと、誰かを殺す為に強くなろうとする自分。なんて、対局なのだろうかと、ふと考える時がある。
ナルトの前向きすぎる姿勢が、馬鹿みたいだと思うと同時に、少しだけ羨ましくもある。きっとそんな事は、一生、口にはしないだろうけれど。
恐らくは自分が知ることのない未来。
その時に、金の髪を日に煌めかせながら、ナルトはきっと夢を実現させているだろう。
ドベだけど、馬鹿だけど、けれど多分、ナルトにはこの里の誰よりも、その地位に相応しい志があるから。
「お前は、どうしようもねぇくらいドンくせーけどな…きっとその穴は、他のヤツらが埋めてくれるだろうよ」
幸いにも、自分たちの世代は、なかなかの粒ぞろいだ。
今、里の上位を占めている、何故かナルトに当たりが強い連中がいなくなる頃には、アイツらも使いものになっているだろうと、サスケは下忍仲間達を思い浮かべる。
皆、呆れながらもコイツのことが放っておけなくて、文句を言いながらもサポートを務めるに違いない。その筆頭は、サクラだろうか?
「・・・だから、それまで、お前はちゃんと生きてろよ、ドベ」
自分がそこにはいないだろうことが、辛くないわけではないけれど。
それでも、ナルトの夢が叶えばいいと、心の何処かで願いながら、サスケも休むべく瞼を閉じた。
・・・・・が、しかし。
「・・・・・・クソッ、眠れやしねぇ」
サスケは眠るのを諦めて、再び、目を開けると、不機嫌に眉を顰めた。
まあ、少しくらい眠らなくても、任務に支障を来したりはしないが、休めるときに休むのは忍びの鉄則なのに。
でも眠れないのだ。隣にある温もりが、やけに気になる。一体、何故なんだかと、溜息ひとつ。
ナルトと一緒に眠るのは、別に初めてのことじゃない。
里の外での任務ともなれば、全員野宿でごろ寝なのだ。寒い時に固まって眠るのも当たり前。
特に体温が高く暖を取るのにうってつけなナルトは、両側からサスケとカカシに挟まれるコトになるのだ。
意識のある間は、それでもなるべく、早まる鼓動を聞かれないよう僅かな距離を保つサスケだが、眠りに落ちてしまうといつの間にか、ナルトをすっぽり抱き込んでしまっているのが常だ。
その度に、自己嫌悪に陥るのだが、どさくさでも抱きしめることが出来て嬉しいのもホントなので複雑なところだ。
「・・・それにしても、ホントにぬくいな、コイツ」
ふと、あんなに冷えてた指先まで、ポカポカになっているコトに気づく。
まるで死をその手で掴んだみたいに冷えていたのに、その感触をもう思い出せない。胸にドスンと支えていた重みをすっかり消えて、今、あるのは柔らかな温もりだけ。
腕の中で、小さくまるまって無邪気に眠るナルトに、少し複雑に笑みを零す。
結局、カカシの言うとおりだったのは、悔しいが、これが年の功というヤツだろうか。
カカシが知ったら、確実に教育的指導を入れるだろうことを思いながら、サスケは自分を納得させた。
「なんか…やっぱり小せぇ、コイツ」
小動物を思わせる仕草と相まって、小さくて脆く見えるこの存在の、なんと暖かく揺るぎないことだろう。
この温もりを、失いたくないと強く想う。そして、守りきる為に、少しでも長く隣に立っている為に、もっともっと強くなりたいと、切に願う。
自然と顔を近づけて、呼気と共に微かに動く頬に、小さくキスを落とした。
「……ん…」
起きたわけではないだろうが、タイミングよく洩れたナルトの小さな声で、己の行為に気づき、サスケは一人、頬を染めた。
とりあえず、寝込みを襲うのはマズイだろう。そのくらいの認識はサスケにもある。
───よく考えりゃ、やべぇじゃねぇかよ!コレ
自分の想いを知ってるくせに、何てことを唆してくれるのか、あのどクサレ教師は!
───アイツ、絶対面白がってやがる!
どう転んでも、自分がナルトに手を出せないコトなど、きっとカカシはお見通しだろう。
───畜生!コレはコレで眠れねぇ!
目を開いてナルト観察などしてしまったコトをほんの少し後悔して、無駄な努力よ知りつつ、再度目を閉じる。
ドクドクと煩い己の鼓動。平常心はドコ行きやがった!と自分自身に憤る。
スゥスゥと聞こえる小さな寝息は、暖かく自分の喉元に当たって、かなり刺激的である。
───喜んでいいのか、嘆くべきなのか…分かんねー
そりゃあ、自分だって男なのだから、好きな相手を抱きしめて眠るこの状況が嬉しくないとは言わない。・・・が、困るのもまた事実である。
この、まさに『据え膳』という状態。だが、手を出せない自分をサスケは知っている。
───どうせ俺は不甲斐ねぇよ!くっそー、覚えてろよ、カカシ!
姿の見えぬ上忍に悪態をついて、それでもサスケは抱き込んだ腕に力を強めた。
ナルトが苦しがらない程度に抱きしめて、いつもより体を密着させてちょっぴり役得に浸る。
「「まあ、冷たさに凍えて眠れないよりかは、マシか(デショ)」」
異口同音。車輪眼を持つ師弟が、同じ時に同じ言葉を紡いでいたことは、誰も知ることのない小さな事実であった。
END
・・・ン年ぶりに更新してやっと完結。誰か読んでる人はいるのかなぁと思うものの、まあ、好きなものが書ければそれでヨシ。でも、よかったら感想きかせてやって下さいませ〜。
・・・・・・原作があの状態で、すっかり夢を壊された私は、ずっとナルト書いてなかったんですけど、たまにはいいなぁ。
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