【1度目は偶然】(徳リョ)…実はオフで続きありの話(笑) P6
 


(SCENE3 初めてのGAME)

「ふーん。…なかなか、サマになってるね。」
 有名メーカーのウェアに上から下まで身を包み、赤いラケットを持つ姿は、なかなか堂にいったものだ。
白と赤と黒の見目鮮やかなコントラストも、彼にとてもよく映えている。まるで、グラビアから抜けだしたかのようにしっくりくる。
初めに近くで見た瞬間にも思ったけれど、本当に綺麗な顔をした少年だ。

「その言葉って、プレーしてから言うモンじゃないの?」
 リョーマは挑戦的な態度で徳川にラケットを突きつけて、憮然と言った。
どうやら彼のプライドを刺激してしまったらしいと気づいた徳川は、素直にリョーマの言葉を認める。
「確かに…それが道理だね。でも、テニス嫌いなのにラケット持ってるなんて……」
 クスッと声をたてて笑う徳川に、リョーマはツンと顔を背けた。そんな仕種は、まるで気まぐれな猫のようだ。それも、とびっきりの高級猫。
「別に嫌いって言ってないよ。俺は、好きでもないって言っただけ。」
 徳川の言葉を端的に否定しながら、リョーマはスタスタと空いてるコートに向かう。

 ソコはこの後、使用許可をとっていないコートなのだが、空いてるのに使って文句を言われることもないだろう。その辺りは、かなりアバウトなクラブである。
 リョーマは知らないが、ココはプロのテニスプレーヤー相手に開放されてる特別なコートなのだ。
 ガードマンも立っているハズなのに、何故、リョーマが一人でココに来れたのか?
 南次郎と共に居たリョーマを知らない徳川はその疑問に首を傾げたが、そんな気持ちは少年への好奇心に比べれば取るに足らないモノである。
「ねぇ。ヤルの?ヤラないの?」
 動かない自分に焦れた様子で、トントンとラケットで肩を叩きながら告げてくる少年のセリフに、徳川は笑顔を返した。
「もちろん、お相手仕りますとも…。」
 まるで、お共をかってでる騎士のように片腕を胸にあてて、軽く礼をするという戯けた仕種までつけて答えると、徳川は身を起こしてパチンとウインクを寄越した。
その、日本人らしからぬ仕種に1瞬キョトンと呆けた後、リョーマは少し顔を赤く染めて、バーカと照れ隠しに呟いて返した。

 リョーマはプロテニスに興味がないので、この徳川という男が、テニス界で期待されている新人であることは知らない。
 が、周りの居合わせた数人の選手は突然始まった、テニス界期待の新人と、見知らぬ子供という組み合わせに驚いて、ちらちらと様子を伺ってきた。
 見られることに慣れてるリョーマと徳川は、その騒がしさをあっさりと無視し、プレーを開始したのである。

★☆★☆★

───驚いたな。
 正直、徳川は開いた口が塞がらないほど驚いていた。
自分の練習をそっちのけで見学しはじめた周囲の選手達も、多分同じ意見なのだろう。
周囲のざわめきは先程より大きくなって、何度も驚愕と感嘆の声が聞こえてくる。

 目の前にいるのは、確かに子供だ。
年は確認していないが、どう見積もっても十才かそこらにしか見えない。
 だが、その実力は、とても十才の子供とは思えぬものだった。

 確かに、子供の腕力だからサーブもスマッシュも徳川にとっては相手にならないというくらいの威力しかない。
 だが、ゲームメイクは確かだし、攻撃パターンも複数ある。
今までテニスを習っていないなど、とても信じられないほどに、優れた技術力を持っている。
 そして、何より驚いたのは、少年の不屈の闘志であった。

 当たり前だが、自分と比べると実力は雲泥の差だ。
でも、目の前の子供は最後まで、諦めようとはしなかった。
最後の最後で奪われた1ポイントは、間違いなく彼の実力のなせるワザであろう。

『ゲームセット!ゲームウォンバイ徳川』
 最後のポイント後、どこからともなくコールが響き、それと同時に惜しみない拍手がわき起こる。
 だが、この拍手を贈られているのは自分ではないと、徳川にも分かっていた。
全ては、目の前で上がってしまった呼吸を整えている少年に与えられている賛辞である。
 徳川は周囲の者と同様に拍手をしながら、ネットへと足を進めた。


「何で勝ったクセに拍手してんの?」
 怪訝な顔で見上げてくるリョーマに構わず、徳川は笑顔を絶やさなかった。
いや、絶やせなかった。それほどに、この少年と出会えたことは、幸せだったから。
「楽しいゲームだったよ、リョーマくん。ありがとう」
 手を差し出されて、少し戸惑った様子を見せたけれど、リョーマは嬉しそうにその手を握った。
 まだ柔らかく、小さな手だ。自分がキツく握り込んでしまったら、簡単に砕けてしまいそうなほどに・・・。
 こんな手からあれほどのプレーが生まれるとは、この目で見てなければ、きっと信じられなかっただろう。

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