【1度目は偶然】(徳リョ)…実はオフで続きありの話(笑) P4
 


 ★☆★☆★

 父と別れたリョーマは、まず手近なところで、子供コースの見学に向かった。
 そこでリョーマはある意味、とても驚いた。───悪い意味で。

 そう。リョーマはすぐに、見る気を失ってしまったのである。
 理由は簡単。そこにいた子供達は、いつも南次郎と遊んでいるリョーマにとっては、お世辞にも上手いとは言えない腕だったからである。
「・・・なんでこんな下手っぴなの?」
 子供用上級者コースを見に来たつもりが、初心者の方に来てしまったのだろうか?
ハテ?と首を捻りながら、リョーマはその近辺のコートをかなり広い範囲でぐるぐると見て回った。

「ちょっと・・・なんでこんな下手っぴばっかなんだよ!」
 日本語でブチブチと文句を垂れながら、リョーマは子供コースのエリアを離れた。つまらないことに時間を費やした自分が悔しくて、かなりご機嫌斜めである。
「あーあ。こんなコトならバカ親父のプレー見てた方が、まだマシってカンジ?」
 つまらないとぼやきながらムゥッと唇を突きだして、リョーマは正面出入り口まで戻ってきた。
掲示板を見て、父のいる場所を探すためだ。
「うーん、どれだっけ。何たらスペシャルセミナーとか言ってたっけ…?」
 大きな掲示板を懸命に見上げて、見つけた位置を頭に入れると、リョーマは再び歩き出した。
 こんな時でも、案内して、と誰かに頼ったりせず、自分の力でどうにかしようとする辺りが、良くも悪くも越前リョーマであった。

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「あれぇ?親父いないじゃん。違うトコだったかな。」
 辿り着いた目的地でキョロキョロと見回したが、そこには片手で数えるくらいの人しかおらず、セミナーが行われている様子なんて全然ない。
 リョーマはプレーが行われてる2面のテニスコートに目を凝らした。

 確かに父の姿はないのだが、今度の場所は先程のように暇なんかじゃなく、ただのラリーを見て分かるくらいに、素晴らしい腕前である。
 リョーマはココなら退屈しないし、まぁいっか、と心を決めて、試合が行われてるらしい奧のコートへ足を向けて、よく見える位置のベンチに腰を下ろした。


 試合を見ながら、リョーマは自分ならどう動くかを、自然と頭の中でシミュレートしていた。
幼い頃から自然と培われたその行動を、本人はまだ自覚していないが、誰もが羨む才能の一つと言えるだろう。
 パンパンッと、耳に心地よいボールを打つ音が響く中、リョーマの意識は目の前で行われる素晴らしいゲームに、すぐに夢中になっていった。


 それから15分後、キレのよいスマッシュを最後に試合は終了した。
勝利したのはリョーマから見ると向かい側コートでプレーしていた、年若く、いかにも精悍なスポーツマンというイメージの男の方だった。
最後に見事なスマッシュを決めた青年である。
 好ゲームを演じた2人の人物は、中央で握手を交わして少し何か話した後、さっさとコートを出ていってしまった。

 少し休憩したら、また出てくるかな?と思いながら、リョーマはしばらくソコて待ってみた。
しかし、やはりもう終わりなのだろう。どちらも出てくる様子はない。
「あーあ。やっぱ、もう終わっちゃったんだ。」
 見ごたえのあるゲームだっただけに残念で、自然と文句が口から出てしまう。
「初めからこっち来てればよかった…。そしたら全部見れたかもしれないのに。」

 見損ねた、最初の方もちゃんと見たかった。
 そんな気持ちのまま呟いたリョーマのぼやきに、いきなり頭上から静かな声が返ってきた。


「それは光栄だね。」
 驚いて仰ぎ見ると、そこには、さっきまで注目していたコートでプレーしていた男が立っていた。
「隣……座ってもいいかな?」
 しゃがんでニコッと人好きしそうな笑顔で覗き込みながら問われて、リョーマは軽く頷くと、横のスペースを空けた。
 きちんと声をかけてくるなんて、なかなか礼儀正しい人だ。

 でも、何だか妙な違和感を感じて、リョーマは何だろうと首を傾げる。
「ありがとう。」
 隣に座りながら礼を述べる声を聞いて、リョーマはすぐに違和感の原因に気づいた。
「・・・あれ?日本語?」
「君も日本語だったからね。俺は徳川って言うんだけど、君の名前も訊いていいかな?」
「ヤダ」
 テニス関係者にファミリーネームを言うと、大抵、父の話になって面倒なので、リョーマは男の言葉を一刀両断した。

 だが、彼にとっては自分の返事が、かなり意外だったのだろう。
 男前が『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』になって、すぐに困ったような微笑みを浮かべた。
その顔に、リョーマは少しだけ機嫌を良くして、ニッと悪戯な顔で笑ってみせた。所謂、小悪魔の微笑みというヤツであろう。
「嘘。リョーマだよ。」
 だから、名前の方だけ教えてあげることにした。
どうせ、父が現れれば、すぐに分かってしまうコトなのだ。
ムキになって隠しても無駄なことくらい、リョーマにだって分かっていた。

 リョーマの返事にホッとしたのか、徳川はまた柔和な笑顔で口を開いた。
「リョーマくんかぁ。今日は、見学だけなのかい?」
「・・・?」
 なんで?と目線だけで問うと、徳川は甘いマスクで優しげに瞳を細めた。
「だって、ココはテニスクラブなのに、ウェアも着てないし、ラケットも持っていないしネ。」
 パチンとウィンクをしてくる姿も、かなりサマになっている。

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