【1度目は偶然】(徳リョ)…実はオフで続きありの話(笑) P3
 


 (SCENE 2 偶然?必然?運命の出逢い)

 リョーマは、一応、小さい頃から遊び代わりにテニスはしていたが、スクールやクラブと名のつく場所で正式に学んだことはない。
 彼にとって、テニスは日常的な遊びであり、特に頑張りたいと思うものではなかったのだ。
 だから、この場所を訪れるのも、今日が初めてなのである。

「ふぅん。…思ってたよりマトモじゃん。」
 広い敷地をもつ施設は、このアメリカでは少なくないが、それを差し引いても立派な設備を持つ施設である。
初めて見るリョーマでもそのくらいは分かるくらいに立派の一言に尽きるものだったのだが、素直でない子供は素直でない感想を述べた。

 屋内外、どちらでもプレー出来るのはもちろんのこと、それ以外の設備も万全の施設である。
かなり金がかかる上にレベルが高いクラブだろうと、容易に想像がついた。
「親父・・・ホントにこんなトコで働いてんの?」
 そう。南次郎は、別に遊びに来ているわけではないだ。一応、きちんと報酬の出る『お仕事』なのである。
 もっとも、常時来ているわけではないので、いわゆる臨時コーチというヤツだ。

 この施設は、南次郎がプロ時代に親しくしていた友人の家が経営しており、そのツテでごくたまに、コーチ役を引き受けていた。
 もちろん、常任にならないか?という話も出ているのだが、南次郎はずっと首を横に振り続けているのである。
 その理由は簡単かつ単純なものだ。
毎日こんなトコに来てると、可愛い息子と遊ぶ時間が減ってしまうという、極めてふざけた理由であった。

「おう!やっと俺様の偉大さが分かったか?どうだ、凄いだろう!」
「バッカじゃないの?誰もんなコト言ってないよ。」
 ニヤニヤとしながら告げる父に、リョーマは冷たい視線と言葉を飛ばすと、プイッとそっけなく顔を背けた。
そしてそのまま、またグルリと好奇心を目に浮かべて、もの珍しげに周りを見回している。

 なかなか、よい傾向かもしれない。何事も、興味を持つことから始まるのだから。
 今日を機会に、本格的にテニスを始める気になる…という展開までは望んでいないが、家でクサッているよりはよっぽどマシだろう。
 それに、他の子供達が楽しそうに懸命にテニスをしてる姿を見れば、リョーマもチョットくらい、やってみたいという気になるかもしれない。
元々この子は、じっとしてるのが苦手な、活動的な性格なのだから。

 自分と2人でするテニスと違って、ココにはリョーマを本気にさせる何かがあるかもしれない。
 そんな期待を微かに抱きながら、南次郎は手早く着替えた後、引き受けた特別コーチという任務を果たすために、コートへと向かうコトにした。
「リョーマ。俺はちょっくら仕事してくっから、お前、その辺、適当に見てくるか?それとも、父親のカッコイー姿を拝みてぇってんなら、一緒に来い」
「ヤダ。」
 あっさり一言で答えると、リョーマはふらりと歩きだした。
「おい、リョーマ!どこ見て廻ってもいいけど、ココの敷地内から勝手に出るなよ!それから、お菓子くれるって言われても、誰にもついて行くんじゃねーぞ!」
「ウルサイなぁ!子供じゃナイんだからそんなの言われなくても分かってるよッ」

 振りかえり、大きい目をつり上げて怒鳴り返している小さな姿は、もちろんドコをどう見ても子供である。
 加えて、愛らしい顔立ちとそれに反した生意気っぷりは、ある種の男心を刺激してしまうのか、最近変な輩に言い寄られることが多い。
 リョーマ自身は、生意気だが根っこはまだまだお子様なので、恐らく身の危険など感じていないのだろうが、南次郎にとっては頭痛の種である。
 それを警戒しての最後の一言だったのだが・・・
「・・・ったく、分かってねーんだよなぁ、あのガキんちょは…。」

 でも、あの素直でないトコがまた可愛いのだ。
目に入れても痛くないほど、あの子を溺愛している自覚が南次郎にはある。
「ま、大丈夫だろう。ココは質のいいヤツが多いからな。」
 金さえ出せば入れるという道楽クラブなどではなく、本気でテニスに取り組む姿勢のある者しか入れず、また続かないトコロなのだ。
 このクラブでは、全てが本人の自主性に任せられている。
施設は場所・設備・講師など、強くなるために必要な道具を提供してくれるだけだ。
 決まったカリキュラムなどはなく、何をどうやって学んでいくのか、コーチ陣に相談することは出来ても、結局決めるのは自分自身。
 だから、やる気のない者は続かず、やる気さえあればあまり顔を出せない者でも続けていくコトが出来る。

 そんな施設の特徴柄、ココにはプロも多数、顔を見せる。それが、このクラブの影なる『売り文句』だ。
 時間の都合をかなり自由に設定出来る事と、プロ専用のコートがある事が最も大きな利点であろう。
 南次郎も、昔は時間があればココに顔を出していたので、その良さはよく知っていた。
 真剣にテニスに取り組む、志を同じくする人間が集まる場所。ホンモノ達の集う場所。

 ココは、熱くなれない我が子に見せるには、ちょうど良い場所かもしれない。少なくとも、退屈はしないだろう。

───テニスは面白い。

 南次郎は、ただそのことだけを、愛しい息子に伝えたかった。
言葉では決して伝えられないソレを、直接肌で感じて、そして、気がついてほしい。
そこには、素直でない我が子への、素直でない親心があった。

           << BACK                NEXT >>


 
NOVEL TOP                TOP