ともあれ、リョーマのあまりのクサり具合に、南次郎も一応、助言はしてみたのだ。
「んなにヤリたいなら、続けりゃいいだろーが・・・」
退屈そーに、ボーッと外を眺めてるリョーマにそう言ったのだ。
すると、リョーマはその日の内に、大事にしていたボールも靴も、全部自分で処分してしまった。
おそらく、彼なりの、『誰が何を言っても止めるったら止めるんだ』という、意思表示のつもりなのだろう。
まあ、その処分の仕方が、ゴミにするわけでなく近所の子供にあげるという、極めて合理的な方法だったので、さすがの南次郎も文句は言えず、溜息一つで説得を諦めたのだった。
「はぁぁ〜…でも、なぁーんか家ん中の空気が重いんだよなぁ〜」
オマケに、いつものように息子を構っても、イマイチ楽しい反応が返ってこない。
ハッキリ言って、それは南次郎にとっては拷問に等しい日々なのであった。
いきなりの父の呟きに、同じリビングにいたリョーマがチロリと目線を走らせる。
その目はハッキリと、『何?俺に文句でも言うつもり?居たくないならどっか行けば?』と言葉にせずに語っている。
(いったい全体、お前は誰に似たんだ。その『俺様』な性格は…)
息子のキツい視線に、南次郎は口を噤んで、また溜息を吐いた。
誰がどう見ても南次郎譲りの性格なのだが、彼にはその自覚がなかった。その辺り、この親子は本当に似たもの同士なのである。
(ホントは…テニスに本気になってくれると、万々歳なんだがなぁ)
元プロのテニスプレーヤーであり、今でもテニスを追求し続けている南次郎としては、できればリョーマにも同じ道に進んでほしい。
それは、多分、どこの親でも持つ、身勝手だが自然な欲求というヤツだろう。
何よりも、南次郎は父というだけではなく、この世で最もリョーマの中に潜んでいる才能に気づいている人間なのである。
昔から、リョーマは遊び代わりに南次郎とテニスをしてきた。
だが、それはまだ、遊びの域を出てはいない。本人も、遊びのつもりでいるのだろう。
でも、何に己の情熱を注ぎ込むのか?という事は、本人が決める事だ。
こればかりは、親がどうこう言っても無駄なのである。
本人の意思でないと、本気にはなれないし、本物にもなれない。
つまり、全てはリョーマ次第なのである。
(とはいえ、このままクサり続けられるのもちょっとなぁ〜)
ハッキリ言って・・・その辺に見えない地雷でも埋まってるような空気というか、何だかこう冷たい雰囲気が充満してて、居心地悪くてしょうがない。
リョーマには身の内に溜まってしまった鬱憤を晴らせる何かが、絶対に必要なのである。
(しょーがねぇなー)
頭から『じゃあテニスやれ』なんて言うのはバカな親の行動だと分かっているし、素直でない息子はそんな事を言っても、絶対に『ウン』とは言わないだろう。
太陽が西から昇っても、それは有り得ないコトだ。
だから、南次郎は、ふいに閃いた絡め手を使うことにした。
取りあえず、暗雲立ちこめる我が家から、この暗雲の元を連れ出すことが先決だ。
「リョーマ。お前、明日の日曜も暇なんだろ?」
「え?・・・・んー…まぁね」
「じゃあ、俺についてこい。」
「はぁ?」
「明日、いつものテニスクラブに行くから。お前、暇ならついて来いや。」
「・・・俺、別に行きたく……」
「ストーップ!何もテニスしろって言ってんじゃねぇよ。お前の好きにすればいい。でも、このまま家の中に居たら、カビが生えるってーの。優しいお父様が外に連れてってやるって言ってんだから、黙って大人しくついて来やがれ」
「・・・誰が『優しいお父様』…だよ、まったく。」
ヤレヤレという感じでワザとらしい溜息をついて立ち上がると、リョーマは返事もせずにドアへ向かって歩を進めた。
「・・・おい」
何も言わずに去ろうとする息子に、南次郎が返事を促す。
「ま……たまには親父につき合ってあげるよ。俺は素直で優しい息子だからね」
面倒くさいケド、という態度で了承の返事をしながらも、リョーマはここ数日では1番の軽やかさで立ち去っていった。
「…一体、どこが素直で優しいんだか…あんのクソガキが…」
ともかく、なんとか連れ出すコトは出来そうだ。
南次郎としては、成功の確率2割くらいとみていたのだが、言ってみるものである。
やはりリョーマも退屈を持て余していた、というコトなのだろう。
「んじゃあ、クラブに電話入れっかな。」
口から出任せで出た予定を本物にするために、南次郎は受話器を取ると古い友人に電話をかけ始めた。
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