「ふふふ…お二人とも、仲がよろしいのですね」
この2人にこんなセリフが言えるのも、この場でそれが発言できるのも彼女くらいだ、とディアッカは本気で思った。
優しい口調の、その歌声と同じくらい心地よい美声。
すべてが、かつての歌姫そのままなのに、何故だろうか?
”・・・お黙り、愚民ども…って、俺の耳には聞こえたぞ?”
はぁ…と大きく溜息をついたディアッカは、周囲を見回し、そう聞こえたのは自分だけではないと知った。
さっきまで、犬猿の仲そのままに言い合ってた2人が、カチコチに硬直していたからである。
「良い案がありますわ。…イザーク。キラには私から、貴方の希望をお話してみましょう。その上で、彼が会ってもいいと言えば面会を、そうでなければ、今回はご遠慮頂くということで、如何でしょうか?」
固まってる元婚約者を無視して、ラクスはイザークにのみ確認した。
「はい。……お願いします、ラクス嬢」
少々、引きつった顔だったが、何とか体面を守ったまま、イザークは反射的にラクスの言葉に答えていた。
・・・そこには、逆らえない何かがあったのだ。
「ラクス!しかし、それは…」
「何ですか?アスラン?」
ニッコリ笑顔で黙ることを強要されたアスランを見て、コイツも苦労してたんだな…と、かつて婚約者同士だった2人の関係を思い、イザークとディアッカの心の声はハモった。
ラクスは確かに美人で優しい女性だが、それだけではない。
政略的だったとはいえ、かつて彼女の婚約者に抜擢されたのが自分でなくて本当によかったと、この時、内心で2人はホッと息を吐いていた。
「ですが、今のキラには…」
それでも、尚、言い募ろうとするアスランに、今度はカガリが呆れたように声を掛ける。
「アスラン、もう止せよ。・・・大体、お前、ちょっと過保護だぞ!・・・言っとくけど、アイツは私の弟なんだからな。お前のじゃないぞ!絶対、誰にもやらないんだからな!」
”・・・おいおい、花嫁の父のセリフだろーが、それは…”
内心でカガリのセリフに呆れて突っ込んだディアッカは、イザークの呼びかけで我に返った。
「・・・おい、ディアッカ」
「なんだ?」
「・・・ストライクのパイロットは…女なのか?」
眉間に皺を寄せて、イザークは納得できない…という顔をしている。
「いや、男だ。…弟って言ってるだろ?」
「・・・それで、どうして、ああいう対応になるんだ?」
恐らく、カガリの態度に、イザークも自分と同じツッコミを心の中でしたんだろうと察したディアッカは、両手をひょいとあげて、お手上げのポーズをした。
「俺に聞くなよ、そんなコト。・・・まぁ、キラに会ってみれば、アイツらの態度も、ちょっとは理解できると思うけど…」
キラの、どこか面倒みてやらないといけない気持ちにさせられる不思議な引力を知っているディアッカは、イザークにそう答えた。
キラが持つ、あの独特の雰囲気を、口で説明するのは難しいのだ。
ますます解せない…と眉を顰めるイザークに、ディアッカは笑う。
多分、ニコルみたいな奴か?と、イザークが想像してるのは、容易に想像がついたからだ。
「・・・俺はさ、イザーク。お前は…会うべきだと思うよ、キラに。これからのお前自身のためにも、お前の中で燻ってるものに、ちゃんとケリをつけといた方がいいと思う」「ディアッカ…」
「もう少し、キラの方が落ち着いてから…っていう点では、アスランに同感なんだけどな。・・・でも、いつでもアイツに会えるってわけじゃないしなぁ?
とにかく、会う時には、言動には気を遣えよ。でないと・・・」
「なんだ?俺は別に、アスランが怒ろうが何しようが、怖くないぞ」
「いや…アスランじゃなくてだな…」
チラリとディアッカが視線をやった先には、微笑むピンクのお姫様。
別に怖いとは思わないが、イザークとしても、彼女は得体が知れない…要は、敵に廻したくない人物である。
「・・・フン。まぁ、事を荒立てる気はないさ」
今の「フン」は了解の意なのだと察して、相変わらず素直でない友人の変わらなさに、ディアッカは肩を竦めた。
***
「イザーク。どうぞ、中へ。キラが会うと言っていますわ」
あれから、「では、善は急げですわ」というラクスの言葉により、アスランを除く一同は、カガリの邸にあるキラの部屋へと移動した。
ちなみにアスランは、最後まで反対だと異を唱えていたが、息切れしたところで、ラクスがおっとりと口を開いた。
「あらあら、アスランはお疲れのご様子。…ご無理はいけませんわ」
頬に手を当てて、フルフルと首を横に振るその姿はまさしく、癒しの歌姫の名に相応しい可憐な動作であったが、彼女の真の姿を知った今となっては、その動作にすら、黒いオーラを感じずにはいられない。
…が、しかし、ここで先ほどから邪魔で仕方ないアスランを排除してもらえるのは有り難いことなので、イザークは黙したまま、それを見守ることにした。
すると、思った通り・・・。
「お客様のお相手は、どうぞ私共にお任せくださいな。さあ、どうぞご遠慮なさらずに、アスランは休んでいてください」
と、労りと言う名の命令の元に、アスランは、赤茶の髪を持つ青年に捕獲され、どこかへ連れていかれたのである。
”・・・あれは確か、バルトフェルド隊の・・・”
奇妙な格好をしていた地上部隊の隊長のことは、イザークもよく覚えている。
あの時は、こんな隊長の下では苦労するだろうな…と、副官であった彼に同情したものだが、歌姫の笑顔の下で使われている現状を見ると、あの頃の方がまだマシかもしれん…と、思わず再度の同情を覚えた。
もちろん、余計なとばっちりはゴメンなので、顔には一切出したりしないが・・・。
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