何故なら、最も身近なディアッカに始まって、第3勢力に属していた者達が、こういう言動に出ることは、初めてではないからだ。
そう。意外なことに、穏やかで知られる歌姫ラクス・クラインでさえ、憤りはしないものの、彼に関する事については、どれだけ法廷で追求されても、これが本当にあの歌姫なのかと思えるほど凍った眼差しを返しただけで、一切語ろうとはしなかった。
彼にはどのような罪もなく、全ての責任は彼にフリーダムを与えた自分にあると、彼女は頑なな態度を崩そうとはしなかったのである。
恐らく、目の前に立つこの少女も、何か聞いているのだろう。
自分が、あのストライクのパイロットに対して、復讐心を燃やしていた…ということを・・・。
もしかしたら、ブラックリストのトップ…なんて扱いにされているかもしれない。
”情報源は、この馬鹿か・・・それとも腰抜けか?…全く、余計な真似を・・・”
いつの間にやら第3勢力に与していた悪友と、前よりはマシだが、今でもやっぱり気にいらない元同僚の男を次々と見やって、イザークは内心で毒づいた。
ここ、オーブを訪れることが決まった時、期待しなかったとは、言えない。
───あの、ストライクのパイロットに会えるかもしれない、という期待を。
「会わせてもらいたい。その人物に…」
歯に衣着せるなんて真似は、己の矜持に反する。
また、ご機嫌取りなんかするのもゴメンだ…という性格のイザークは、だから、いつもどおり、ズバリと核心に切り込んだ。
「元ストライクのパイロット───キラという名の、その人物に」
今、お前が話していたのは奴のことなのだろう?と問うように、カガリに真っ直ぐブルーアイズをあてながら、イザークは告げた。
それにギッと強い視線が返されるのを目にして、イザークは補足する。
「言っておくが・・・別に無体な真似をする気はない。停戦が決まった以上、それは許されないことだと分かっている。・・・ただ、会ってみたいだけだ」
「何のために?」
いかにも反対だ、絶対ダメだ…と言うような険しい顔で話に割り込んできたアスランに、イザークは無表情で返した。
「俺がアイツに興味を持っていたのは、お前も知っているだろう?」
「興味…ね。どんな興味だか、聞くまでもないな。───とにかくダメだ。キラは今、絶対安静なんだ。お前なんかと、会わせられるか!」
ムキになって言い返すアスランという、あまりにも珍しいその姿に、イザークは本気で驚いた。
幼馴染みで、とても仲の良い友人だったらしいとは聞いていたが、そもそも、このアスラン・ザラにそんなものがいたこと自体が、ハッキリ言って信じられない。
「コイツも分かりやすいだろう?…つーか、まるで別人だろ?」
ディアッカのその言葉に、半ば呆然としながら、イザークは頷いた。
「ああ・・・何だか、気味が悪いぞ?」
本気で鳥肌をたてたイザークは、言葉通り、不気味なものを見る目をアスランに向ける。
「煩い!・・・とにかく、ダメだと言ったらダメだ!」
アスランの返事は、とりつく島もない。
しかし、そもそも、これはアスランが返事をすべきことだろうか?とイザークが考えたところで、ラクスから同様の指摘が入った。
「アスラン。…それは、貴方が決めることではありませんわ」
「私もそう思うぞ」
イザークにとっては意外なことに、カガリもラクスに同意し、頷いた。
彼女がアスランに想いを寄せているのは本当らしいが、それに左右されない思考を持てる女であることに、イザークは少しだけ感心した。
「何だと!2人とも、何を言うんだ!コイツはキラを…!」
「おいおい、少し頭を冷やせよ、アスラン。俺も、お姫様達の言うとおりだと思うぞ?」
「姫って言うな!」
「へいへい。…とにかく、アスラン、お前なぁ・・・なんでキラの事になると、そう暴走するんだか…。アイツだって、子供じゃないだろ?」
カガリを軽くいなして、ディアッカはアスランに問いかけた。
「だが、今のキラは…」
恐らくアスラン自身も、自分の行動が出過ぎたものだということは、分かっているのだろう。
それでも、口を出さずにいられないらしい様子に溜息をつくと、ディアッカはアスランに最後まで言わさずに続けた。
「イザークは、確かに言葉も態度もキツイけどさ。自分で言った約束を破るようなヤツじゃない。手を出さないと言ったら、出さない。それは俺が保証する」
イザークと最も近しい友人であるディアッカらしい、イザーク評であった。
だが、しかし、アスランとて、仲こそ良くはなかったが、アカデミー時代からのつき合いなのだ。
イザークが、融通はきかないけれど、その分、性格は真っ直ぐで、曲がったことが嫌いなタチであることくらい、分かっているはずである。
それを暗に示したディアッカのフォローだったのだが、アスランはそれでも頑なに首を振った。
「お前の保証が一体何の役に立つ!…第一、言葉の暴力っていうものがあるだろうが…。イザークの場合、口を開けば、そのオンパレードだ!そんな奴を、キラと会わせられるか!」
どんなときでも冷静で動じない、かつてのザフトのアスラン・ザラには、決して見ることのなかった感情的なもの言いで、アスランが反論する。
その内容に、イザークは眦を吊り上げて、不快を示した。
「何だと、アスラン!貴様、よくもそんな侮辱を…。訂正しろ!」
案の定、低い沸点に火がついたイザークがアスランに噛みつくように意見すると、昔なら軽く躱しただろう彼は、同じくらい感情的に言い返した。
「何処が侮辱だ!真実だろうが!…それとも、身に覚えがないとでもいうつもりなのか?イザーク!」
胸座を掴みあって睨み合う2人に、ディアッカは額に手をあてながら首を横に振った。
「おいおい、お前らなぁ…」
大人げないぞ…とディアッカが言う前に、鈴のような美声が辺りに響いた。
・・・いや、その場を支配した、と言うべきだろう。
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