【君という花】 P2
 

 

 戦争がとりあえずの終局を迎えて、各々の勢力は、それぞれ軍事法廷を開き、まずは混乱している軍の暴走を防いで規律を正した。
 当然、第3の勢力に属する者達も、各々が元々属していた勢力にて、裁かれる事になった。
 彼等は、オーブ軍を除けば、各々の軍を離反した裏切り者という立場であり、本来ならば、それは死に相当する重罪である。
 だが、民衆という最も大きな力が、彼等に味方をした。
 考えれば、当然だろう。
 自らの身を守る銃すら持たない民衆達は、ただ、この戦いが早く終わることだけを願っていた。
だからこそ、終戦の大きな切っ掛けとなった第3勢力は、彼等にとって英雄なのである。
 国の礎たる民衆を敵に廻すわけにはいかない各勢力の中枢は、結局、第3勢力の面々に対して、無罪放免に等しき罰のみを与えた。
 そして、彼らは再び、それぞれが進みたい道を選ぶこととなり、繋いだ手を放して、各々の道を歩むことになったのである。
 
 代表的なところで、ラクス・クラインは、混乱したプラントをおさめるためにも是非に…とプラントに戻ることを請われたが、それを退けオーブに降りた。
 彼女は、オーブ籍のマルキオ氏と共に、両種族の架け橋としての生きる道を選び取ったのである。

 また、MSのパイロットであるディアッカ・エルスマンは、プラントに戻ることを選んだ。
 どのような立場で戦っていようとも、彼にとって最も大切なのは、生まれ育ったプラントであり、彼自身は、ザフト軍人としても誇りを失ったつもりもない。
 第3勢力に味方したのは、軍の傀儡のようにただ戦うのではなく、あくまで、プラントを護る者としての生き方を選んだ結果だったと、彼は主張した。
 終戦後に命があれば、どれほどの罰を受けることになろうとも戻ろうと、彼は心に決めていたのだ。

 ディアッカの他にも元の勢力に戻った者はいたが、第3勢力のほとんどの者は、オーブへと降り立った。
 灰となった国土を回復し、国家として新たに立ちあがる事を、亡きオーブの獅子ウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハが宣言し、彼等もまた、それを支えて生きる道を選んだのである。

>> PHASE-01 最初の1ページ

 こうして、世界が停戦を手に入れてから、数ヶ月。
 世界はコーディネイターとナチュラルが共存する為の平和条約を結ぼうと動きはじめており、その使者として、一人の青年がオーブの地に降り立った。

 彼の名は、イザーク・ジュール。
 若いながら、ザフト軍のエリートパイロットとして参戦した彼は、勇猛果敢な働きの数々により、今やザフト軍では英雄と称えられている。
 そして、現在、混乱したプラント内部をおさめるべく臨時評議会議員を兼任し、精力的に働いている彼は、今回、プラントの代表として、オーブを訪れたのである。

「ようこそオーブへ。イザーク・ジュール。我が国は貴殿の来訪を歓迎する。コーディネイターである貴殿とナチュラルである私が、こうして面と向かって言葉を交わせる時を迎えられたことは、本当に喜ばしい事だ。」
 イザークがシャトルから降りた時、並び居る者達から一歩前に出て、手を差しだしたのは、目に鮮やかな金の髪と強い意志を現す琥珀の瞳を持った、一人の少女だった。

 オーブ連合首長国、代表首長の、カガリ・ユラ・アスハ。
 かつて[オーブの柱]と呼ばれたウズミ・ナラ・アスハの子として、時代の表舞台に立った少女だが、彼女は決してお飾りの存在ではない。
 先の戦いでは、自らMSを駆ってあの戦場を駆け抜けた猛者であり、今も、このオーブを立て直すべく精力的に動き回っている。
 そして、その仕事を支えるための側近も揃っており、オーブは急ピッチで国家としての権利を取り戻したのだ。
 国の施政者としてはまだまだ幼い人物だが、懸命に国を立て直そうとする彼女には、オーブ国民の強い支持が集まっている。
 ウズミ・ナラ・アスハが残した、小さくても強き灯火として、彼女の名はプラントでも有名だった。

「有り難うございます、カガリ・ユラ・アスハ。オーブの新たな獅子に、こうしてお会いできて、こちらこそ光栄です。このたびは、我らコーディネイターとナチュラルの間に立ち、調停にむけてご尽力頂いていること、大変感謝しています。プラント最高評議会代表代行アイリーン・カナーバからも、心からの感謝を…と伝言を承っています。」
 イザークは、差しだされたカガリの手を取り、握手を交わした。

 本当に時代は、変わろうとしているのだと、この瞬間にイザークは強く思った。
かつての自分ならば、ナチュラルと握手することなど、屈辱以外の何者でもなかっただろうし、手を差しだされても決して取らなかっただろう。
 だが、今は違う。
避けられる戦は避けるべきであり、その為に努力する事こそ正しいと、そう思う。
 握った手は、少女らしくなく皮が固かったが、暖かかった。
自分と同じ、赤い血が流れる人の手だと、素直に認めることが出来たし、我ながら懸念していた嫌悪感も抱かなかった。

 パシャッパシャッとシャッターを切られて、目に入ったフラッシュの光に、イザークは僅かに眉を顰める。
”使者という立場にある以上、こういう見せ物的な役割を担うことも仕方ないと分かっているが……やはり面白いものではないな。”

 元々、イザークはあまり、写真を撮られることが好きではない。
 母親似の容姿のせいで、小さな頃から勝手に写真を撮られそうになったことは数知れず、煩わしい思いをさせられてきたのだ。
”・・・これも仕事だ・・・”
 ふぅと、内心で疲れの溜息をついたイザークに気づいたのか、カガリは集まる記者達を遮るようにして、声をあげた。

「インタビューを含めて、仕事の話は明日からだ。まずは、使者殿に休息をとって貰うことにしよう。ジュール氏に付き添いの方々は、彼についていってくれ。」
 そう言って示されたのは、彼女の護衛官らしい、屈強な体躯の男だった。



<< BACK          NEXT >>

 
NOVEL TOP                TOP