【君という花】 P1
     とりあえず、木石というわけではないのだから、それなりに異性と関係をもったことくらいは、当然ある。
もっとも、初めからお互いに遊びと割り切っていた関係ばかりで、相手の名前も顔も覚えていないのだが・・・。

 まだまだ若いのだから、たった一人を決める必要もない。
死ぬつもりはないけれど、この戦時だ。いつ何があるかわからない。

 そんな風に考えていたのは、もしかしたら、たった一人と心に決めた相手と死別する恐怖から、無意識に逃げていたからなのかもしれない。
 だから───誰かを愛するという自分にとってはまだ未知なる現象について深く考えたことは、今まで一度もなかった。

それでも、ドラマや物語でよくあるような一目惚れなどというふざけた事象は決してあり得ない事だと・・・自分がそれを体験するその瞬間までは、ずっとそう思っていたのである。

>> PHASE-00 プロローグ

 コーディネイターとナチュラルの長きに渡る戦争は、両者が大きな破壊力を持つ兵器を持ちだしたことにより、どちらも滅ぶという最悪の結果を迎えようとしていた。

 だが、そこに、どちらの勢力にも属さない第3の勢力として現れた者達がいた。
 彼等は、種族の違いなどで人と人が殺し合う世界はおかしいと、今の在り方に意義を唱え、たった3隻の戦艦で戦場を駆け抜けた。

 この戦いは、もはやどちらかが滅ぶまで終わりはないだろうと、誰もが諦めていたその戦争を、たった3隻の艦で一体どうしようというのか?
 誰もがその行動を無謀だと思い、何もできるはずがないと思っていたその場面を、彼等は信念と力で乗り越えた。
 そして、長きに渡る戦いで疲弊していた両勢力の最終兵器を共に破壊し、戦う術を失わせることで、争いに染まった世界を停戦へと導いたのである。

 その、無謀でありえない状況を、第3勢力が可能にした背景には、色々な要素があった。

 その内のひとつは、プラントのアイドルであり、どのような時でもコーディネイターとナチュラルの共存を世界に呼びかけ、平和への願いを歌い続けたラクス・クラインの存在である。
 彼女は、プラントに住むコーディネイターの尊敬と思慕を集める存在であり、軍がどれほど彼女の裏切りを強調したとしても、それは変わらなかった。
 彼女の言葉には、力があり、説得力がある。
それは同時に、彼女自身が持つ、信念の強さでもあったのだろう。
 プラントにいた時は、美しい姿で、安全な場所で、平和の象徴として歌っていた歌姫は、この戦場において、第3勢力の盟主として立ち上がり、自ら戦艦に乗って戦場を駆け抜け、全ての者に停戦を呼びかけた。
 その姿に、心打たれたザフト軍の軍人は、恐らく、数え切れないほどいただろう。

 そして、中立国であるオーブの存在も、また、大きいものだった。
 大西洋に浮かぶ美しい真珠と謳われた、海に囲まれている平和の国。
地球上にありながら、ナチュラルだけが人なのだと主張する連合軍の考えを最後まで否定し、中立国としての立場を護り続けたオーブ連合首長国。
 ナチュラルとコーディネイターはどちらも同じ人間であり、手を取り合って生きるべきであるという信念を、かの国は自らの国土を灰にしてまで貫いた。
 そして、未来への希望を託した1隻の艦を、宇宙へと放ったのである。

 そして、最後の一つ。
そのオーブの艦と共に宇宙に舞い戻った、浮沈艦・アークエンジェル。
 宇宙という場において、誰よりも戦上手であった、ザフト軍クルーゼ隊の猛攻を退け続けた彼等は、元々は、地球連合軍であった。
 だが、長きに渡る戦いで得た様々な想いと、連合軍の非情なる作戦に対する不信感が、彼等に自分達が真に望んでいる世界は何なのか?を、見極めるチャンスを与えたのだ。

 時代に流されるままに戦い続け、自分達が得たものは、一体、何であったのか?
戦ってまで得たいと願っていたものは、一体何であったのか?

 それを改めて己自身に問うた彼等は、オーブと共に滅んだウズミ・ナラ・アスハの言葉に賛同し、オーブ艦クサナギと共に、宇宙の戦場へと舞い戻ったのである。
 艦に名付けられたアークエンジェルという名の通り、大天使としての役割を、果たすために・・・。

 つまり、第3勢力とは、3つ目の勢力であるのと同時に、3つの勢力から志を同じくする者達が集まった集合体でもあったのである。

 そんな、烏合の衆と呼んでも差し支えないほど小さな力であった彼等が、どうして、世界を停戦に導くなどという偉業を、成し遂げることが出来たのか?
 そこには、最強のMSが彼等の味方をしていたことが、大きな要因となっていたと言っても、過言ではないだろう。

 かつて、ラクス・クラインの手引によりザフト軍から奪われた、自由の翼・フリーダム。
 これまでもMSと違って、核をエネルギー元としたその機体の特徴は、何と言っても圧倒的な火力を持つことにある。
 その火力でもって、兄弟機のジャスティスと共に、連合軍が放った核の脅威から、プラントを救った英雄でもあるフリーダムは、一風変わった戦いを信条としており、あの戦場で生き残った戦士達の中では、既に伝説となっている。
 死を前提にした戦場にありながら、叶う限り命を奪わない戦いを続けたあの機体は、それでも、他の誰をも圧倒するほどの戦闘力を見せつけた。
 そして、最後には、この戦争の後ろで、世界の滅びのシナリオを描いていたとされる人物を倒し、宇宙に散っていったのである。

 そのフリーダムのパイロットは、未だ、謎の存在であった。
だからこそ伝説となり、その驚くべき偉業の数々だけが、世間に広まっている。
 生きてオーブにいるのでは…という話が有力だが、未だ、確たる情報はなく、その人物は、彼を知る者達の心の内だけに存在しているのだ。



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