【君という花】 P14
 


「キラ?」
 カガリが自分を制止したキラに訝しげな声を掛けるのと同時に、それまで無言で状況を見守っていたとラクスがスッと立ち上がった。
そして、キラと代わるように、カガリの腕に手を添えて、歩くように促す。
「2人でお話されるのでしょう?キラ・・・では、私達は席を外しますわ。但し、三十分だけです。その後は、貴方はお休みの時間ですから」
「僕はもう…大丈夫だよ…ラクス」
 キラのその申し出に、ラクスは首を横に振った。
「ダメですわ。そのセリフは、お持ちするお食事を全部食べられるようになってから…というお約束でしょう?」
「うっ・・・」
 キラが言い返せずに言葉に詰まると、ラクスはうふふ…と声をたてて笑った。
「では、又、後ほど。・・・さあ、ディアッカも、こちらへどうぞ」
 穏やかに、だが、絶対に逆らえない歌姫の笑顔で促されて、ディアッカはたらりと汗を流した。
「へ?いやぁ…ええっと…でもなぁ・・・」
 チラリとイザークを見やると、貴様、俺が信用できないのか、と不機嫌な表情を返される。

”信用…してるような、してないような…。・・・ってか、大丈夫なのかよ〜マジで!”

 幼い頃からこれでもか、というほどイザークの癇癪に付き合ってきたディアッカならではの、心の声だ。
ちなみに実際に声に出して言うと間違いなくボコられるので、言わない。
「イザークは約束を守る方なのでしょう?貴方は先ほど、そう仰いましたわ。ディアッカ」
「ハイ。ソノトウリデス」
 ラクスの言葉に、ディアッカは棒読みで返した。
それ以外にいったいどうしろっていうんだ!…と、心の中で叫びながら。
 イザークにボコられるのも嫌だが、彼女の敵に廻るのは、もっと嫌だ。
「では、こちらにいらして下さいな?ディアッカ」
 再度、歌姫に促されて、スゴスゴと立ち去るディアッカの後ろ姿に、イザークはフンと鼻を鳴らした。

「ごゆっくり、どうぞ」
 にっこり笑ってそう言ったラクスは、最後に少しアクアマリンの瞳でイザークを真っ直ぐ貫くように見てから、扉をパタンと閉じた。

”この信頼を裏切るときは、それ相応の覚悟を…というところか?さっきの視線は…。なるほど・・・あれならば、第3勢力の盟主も充分、務まっただろうな”
 ラクス・クラインは大した女だ…と、彼女の真実の姿を見抜いたイザークは素直に感心した。

 さて…と、イザークは目に前に向き直って、気を引き締める。

”次に真実の姿を見極めなければならないのは、コイツだ!”

 真っ直ぐに、ひとつの仕草も洩らさぬように、視線を当てる。
その、蒼い炎を宿しているようなイザークの瞳を、キラは避けることなく静かに受け止めた。

「何故・・・人払いを?」
「お前が話しにくそうだったからだ」
「僕が?……貴方ではなく?」
「お前が…だ。違うのか?キラ」
「・・・」
「図星か。…全く、変なヤツだな?お前は…」
 ふう、とイザークは溜息を一つ吐く。
「ジュールさ…」
「イザークだ」
「・・・でも」
 知らない人を呼び捨てになんかできない…と、戸惑ったようなキラの顔。
これが多分、初めて見た彼の本当の表情だったと、イザークはこの邂逅を終えた後で、そう思った。

「コーディネイター同士は、目上の者以外には呼び捨てが普通だ。だからお前もそうしろ」
 もちろん、イザークは初めから、了解も取らずに呼び捨てている。
「・・・イザークも…十分、変だと思います」
 ちょっとだけ口を尖らせながら、キラがそう言うのを、イザークは短く肯定した。
「そうか」
 そこでフッと、少しだけイザークが笑ったからか、キラは強ばっていた肩から力を抜いた。
 空いたタイミングで、残った紅茶を飲み干す。
ここからが本番だと、イザークは気を引き締めた。

「・・・あの・・・僕と逢うことが、貴方の戦争を終わらせることだ…というのは、 どういう意味ですか?」
 なるほど。自分で言い出して何だが、恐らくこの申し出は受け入れられないだろうと思っていたのに、キラがそれを受け入れたのは、この言葉の意味を問うためだったらしい。
 多分、キーワードになっているのは、『戦争』の一言なんだろうなと感じながら、イザークは率直に答えた。
「ストライクのパイロット───その存在は、この戦争において、俺にとって最も心に引っかかってる存在だ。良くも悪くもな」
「・・・良くも悪くも?」
 悪くも…という言葉には、思い当たりがありすぎるほどある。
でも、良くも…と言われた意味が不明で、キラは首を傾げた。
 だが、イザークはあえて、その疑問には答えず、言葉を続ける。
「そうだ。…だから、逢ってみたかった。見えるようで見えない相手がどんな人物なのか、知りたいと思っていた。・・・俺にとっては、それだけが、 この戦で取りこぼした物だと、そう感じていたからな」
「・・・そう…ですか」
 恐らく、納得はできていないのだろう。
返事に反して、明かな疑問顔で、キラは首を傾げたままだった。


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