【君という花】 P12
 


 その考えは、半分あたりで半分はずれだった。

 アスランは別にカガリにそんな話はしていないが、アスランのキラに対する行動は常軌を逸していると、カガリは思っている。
 手を握る、抱きしめる、キスをする…が、日常茶飯事のように目の前で行われて、キラもまた、それに平然としているのだ。
 初めてそれを見た時は、目が飛び出るほど驚いて突っ込んだカガリだったが、話を聞くと、彼らにとっては幼い頃から慣れたスキンシップだと言う。
 そこで、カガリはこう結論した。
 コーディネイターは美形揃いだと言うし、男女の差など余り気にしないのかもしれない。
 そして、そこまで考えた時、カガリは、自分の弟はもしかして非常に危ういのではないか?と、そう気づいてしまったのだ。

 キラは可愛い。とってもとっても可愛い。
ハッキリ言って、女の自分より愛らしいと断言してしまう程に可愛い、とっても自慢の弟だ。
 容姿は自分達の母親らしい写真の人物にうり二つで可憐だし、性格だっておっとり穏やかな癒し系。
 ちょっと天然入っているあたりは愛嬌というものだし、構ってやりたいナンバーワンだとカガリは思っている。
 人望だってあるし、知性はもう、言うまでもない。

・・・それはもしかして、コーディネイターの男から見たら、充分、そういう対象になってしまうというコトなんじゃないだろうか?
 ちょっと怖い思考に頭がグルグルしてしまったカガリは、ある日ラクスにそのことを相談し、彼女がにっこり笑って肯定したため、現在の状況に至っている。
 つまり、カガリにあってるのか間違ってるのか、微妙な見解を植え付けてしまったのは、アスランとラクスの両方なのであった。

 そんなことを知らないイザークは、カガリの態度に不快を覚えたものの、ここでムキになって言い返しては余計に己の嗜好を疑われそうな気がしたので、コメントは控える事とし、もう一つ気になった点について考え込んだ。

”・・・それにしても、姉弟と言うのは、言ってはマズイんじゃないのか?”

 少なくとも、自分は今まで、オーブの獅子こと亡きウズミ・ナラ・アスハに息子がいる…なんて話は、聞いたコトがない。
 双子の弟がいるならば、後継者として育てられるのは、当然、女のカガリではなく、男のキラである方が、普通というものだろう。
 実際のところ、どういう事情なのかは知らないが、この2人に血の繋がりがあるのは、多分本当の事なのだろう。
 色合いが全然違うから、片方ずつ見ても気づきにくいが、2人の顔立ちはとてもよく似ている。
こうして並べて見てみると、男女の別があるにも関わらず、そっくりだ。
 ただ、気性がそのまま表情に出ていて、両者から受ける印象は、正反対だと言っていい。
───まるで、月と太陽のような双子
 だから多分、こうして改まって言われなければ、この2人が姉弟だなんて気づかなかっただろう。

 しかし、これは一国の未来を左右するかもしれない重大事なのではないだろうか?…とイザークは思う。
 キラも故アスハ氏の子なのか、2人とも違うのか、それともアスハ氏縁の血筋か何かなのか・・・詳しい事情は知らないけれど・・・。
 公表されていなかったということは、それなりに深い理由があったはずである。

 先ほどの話では、故アスハ氏はコロニー1つ用意してまで、彼───キラ・ヤマトを護ろうとしていた…という話だ。
 彼女はハッキリそう言ったわけではないけれど、彼女自身はそう思っていることくらい、話を聞いていれば解る。
 もちろん、彼だけの為に作ったコロニーというわけではなかっただろうが、それでも法外な扱いだったと言っていいだろう。
 それほどまでに手を尽くして、あのオーブの獅子が世間から隠そうとしていた彼の存在を、現オーブ代表たる彼女が自分の弟だと公言するのは、やはり好ましい事だとは思えない。

 そもそも、ナチュラルとコーディネイターの双子だなんて、普通、あり得ないのだ。
 中立国オーブとしては、理想的な象徴的存在と言えなくはないだろう。
だが、世情が安定していない今はまだ、悪影響の方が大きい。

 キラが故アスハ氏の実子であるならば、オーブはコーディネイター寄りだと見られかねないし、逆に実子でないならば、双子であるカガリもそうだと、公言する事になる。
 今、この少女が、荷が勝ちすぎる『オーブ代表首長』という肩書きを背負っていられるのは、彼女自身の尽力もあるだろうが、何より、『オーブの獅子ことウズミ・ナラ・アスハの子』であるからだ。
つまり、人々は彼女の後ろに、偉大なる故人を重ねて見ているから…である。

 キラ・ヤマトの存在が公になれば、オーブ内で政権争いの元になる可能性は高いし、そうなれば世界各国に混乱を招くことになる。
 何よりも、ブルー・コスモスにとって、彼はこれ以上はないほど理想的な『標的』となり、再び、奴等の愚かな活動を活性化させる起爆剤になるのは確実だろう。
 両種族の共存の象徴など、コーディネイターを決して受け入れない奴らにとっては、邪魔なものでしかないのだから。

”どう考えても、この事実は火種にしかならん”

 恐らく、ウズミ・ナラ・アスハも、それを危惧していたからこそ、彼の存在を公にしなかったのだろう。

”これは、忠告すべきなのか?やはり…”

 それが分からないほど、カガリは馬鹿ではないと思うのだが、弟可愛さに目が眩んでいるのかもしれない、とイザークは考えた。

 ここで、やっと立ち直ろうとしているオーブがペシャるのは、プラントとしても歓迎できない事なのだ。
何しろ、ナチュラルとコーディネイターの両者で話し合いをしようと思ったら、この国は欠かせない存在なのだから。
 それに、国の命運を賭けてまで中立であるという意志を貫いたこの国には、イザークもそれなりに敬意を持っている。
だから、出来ればこのまま立ち直ってほしいと、そう願っているのだ。
 何より、このオーブが破滅してしまえば、両種族の意思疎通は出来なくなり、再び戦争が起こるのは必至。
───それだけは、何としても避けねばならない。
今のプラントにはもう、それを戦い抜くだけの力が、残っていないのだから。

 もちろん地球連合軍も同じような状況だろうが、彼らは数で圧倒的に自分達に勝る。
 下手な鉄砲も数を撃てば当たる…なんて真似をしない保証は、どこにもないのだ。


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