【Sweet Sweet Pain】 P8 (涼X拓) …何となくでたらめな英文字←アホか

★☆★☆★

「ふぅ…ごちそう様でした。」
 ひととおり食事が終わって、拓海は満足そうにそう言った。
「気に入ったか?」
「はい。もう、すげー、旨かったです。こんなのウチではぜってー食えねぇし。」
人差し指を立てながらそう言う拓海に、涼介は笑った。
「そうか。それなら良かった。じゃあ、下げて貰うから、向こうのソファに座って待っててくれ。」
「はい。」
 涼介に言葉に頷いて、拓海は立ち上がった。そして、2、3歩進んでからまた戻ってくると隣の席に置いていた花束を腕に取る。
「邪魔になったらイケナイから。」
 そう言って、腕に抱いた花に少し顔を埋めるようにしながら、それを持ってソファの方へと向かっていく。どうやら気に入ったらしい。
そんな拓海にフッと微笑って、涼介はTELを手に取ると食事を下げる手配をした。


 手早く料理は片づけられて、部屋の中は又2人だけになった。だが、涼介はすぐにはソファには来ず、拓海はヒョイと涼介の方を覗き込んだ。奥で何かしているみたいだが、拓海が居る場所からはよく見えない。
 何してるんだろ?と首を傾げて、手持ち無沙汰になった拓海は、手に取ったままの薔薇をフリフリと振ると、その中に顔を埋めた。
・・・それにしても、すげー匂い。薔薇ってこんなんだったかなぁ?

 甘い甘い薔薇の香り。まるで、今夜を象徴しているかのように。
・・・なんか、夢の中みたいっていうか・・・現実感ねぇなー。
 そう、今夜はまるで、夢の中にいるようだと、拓海は思っていた。
───この後、夢ではないのだと思い知ることになるとも知らずに。

「お待たせ。」
 急に涼介の声がして、拓海はハッと顔を上げた。
目の前にグラスが一つ、翳されている。

夕焼けのような色の液体に満たされた、コリンズグラス。
シンガポール・スリングと呼ばれるトロピカルな味わいのカクテルである。

「え?」
「後で旨いモノ飲ませてやるって言っただろ?コレなら藤原でも飲めるよ。少し甘い目にしてあるから。」
 どうぞ、と涼介は拓海にそのグラスを差し出した。
「あ、有り難うございます。…って、涼介さんが作ったんすか?これってカクテルってヤツ…ですよね?」
「もしかしなくても俺だけど?」
「・・・涼介さんって…ホント、何でも出来るんだ・・・。」
 感心したように拓海に言われて、涼介は苦笑した。
「カクテルなんてそんなに難しいものじゃないさ。それより、飲んでみてくれ。ちょっと甘い目にしてあるから、藤原でもイケると思うけど。」
「は、はい。じゃあ・・・」
 ゴクッと1度、唾を飲み込んで、拓海は挑戦!とばかりにグラスに口を付けた。先ほどワインに裏切られたので少し身構えているようだ。そんな拓海を涼介は楽しそうに眺めていた。
「!……旨いです。コレ。」
 1口含んで、拓海は肩の力を抜いてそう言った。興味深げにグラスの中身を眺めている。確かに酒の味もするのだが、とても甘くてまるでジュースのようでもある。
「そう?…口にあって良かった。」
 言いながら、涼介も自分用に持ってきたグラスを傾ける。こちらは拓海のモノとは別のようだ。オレンジのような色をした拓海のより量が少ないモノだった。

 また一口、自分のグラスの中身を口に含みつつ、拓海は涼介のグラスを見つめた。
・・・アレはどんな味なのかなぁ?
 その拓海の心の声を感じ取ったように、涼介はクスッと微笑した。
「こっちも飲んでみるか?」
 そう言って、涼介は拓海にグラスを差し出した。
「えっ!…あ、あの、俺、そんなつもりじゃ……。」
かぁっと頬を染めながら、拓海は両手を振った。手に持っていたグラスの中身が少し零れてしまう。
「あっ!」
 驚いて拓海が声を上げるのと、涼介が立ち上がって拓海の腕を取るのは同時だった。
「服は塗れなかったか?」
「はい。…あの、すいません。折角入れてもらったのに。」
「そんな事、気にするな。ココは品揃えよくてな。材料はカウンターに山ほど揃ってるから平気だよ。」
 そう言って、涼介は拓海のグラスを取ると塗れてしまった手をティッシュでキレイに拭ってやる。そしてその手に、今度は自分が飲んでいたグラスを握らせた。
「どうぞ。…こっちにも興味あるんだろ?」
 ニッと微笑ってそう言われて、拓海はしぱしぱと目を瞬かせて、ちょっと恥ずかしそうに笑った。
「えっと……有り難うございます。じゃあ、ちょっとだけ。」
 全くもって涼介の言葉通りなので、拓海は遠慮なく頂くことにした。洋酒は苦手な方なのに、カクテルは意外に飲みやすくて・・・要は好奇心がくすぐられるワケである。
 拓海はニコニコしながらくいっとそのグラスを傾けて、すぐにむうっという表情になった。その表情の移り変わりに、涼介はプッと吹き出した。
「・・・やはり、藤原はこっちだな。」
 そう言いながら、拓海の手からグラスを取ると、元のグラスを拓海に返してやる。拓海は口直しするように自分のグラスに口を付けると、ほうっと一息ついた。
「…意外な味ですね…ソレ。俺、こっちのほうがイイです。」
「そうだな。コレは藤原には強すぎるかな?でも、俺は結構好きだよ。名前が特にイイ。」
「名前?」
「そう。…コレは、エンジェルフェイスって言うんだ。まるで、藤原の事みたいだろう?」
 涼介はグラスを傾けると、それを飲み干した。そして、意味深に拓海に視線を送る。涼介の思わぬセリフに拓海は耳まで真っ赤になった。
「な…何言ってんすか、もう!」
 照れながら、拓海は誤魔化すように自分のグラスの中身を飲み干す。
「いい飲みっぷりだ。まだ、飲めるか?少し、つき合って貰おうかな?」
「え?はぁ・・・多分、飲めますけど。」
「よかった。実は俺は、料理よりこっちが楽しみなんだ。ココは自分で好きに作って飲めるからな。」
 そう言って小さく笑むと、涼介は拓海に断ってカウンターへと向かう。
拓海はこの時気が付かなかった。───涼介の笑みの、本当の意味に。

           << BACK          NEXT >>



             NOVEL TOP                TOP