【Sweet Sweet Pain】 P2 (涼X拓) …何となくでたらめな英文字←アホか

(SCENE 2 RYOUSUKE VISION)

───高崎にある自宅へ向けてFCを走らせていた涼介は、不意に路肩へと車を寄せた。


「痛いな……」
 拓海と会った後は、いつだって会う前よりずっと切なくなってしまう。
胸が痛いと、思わず口から零れてしまう程に・・・。

 こんなに辛いなら、何故、あそこで手を引いてしまったのか?
きっと、もう少し強引に出れば、拓海は自分の腕の中へ堕ちてくる。
そんなことは、解っているのに・・・。
 拓海は自分を拒んでいるワケじゃない。拓海の中には、確かに自分に対する愛情がある。
なのに何故、あれほどに触れられることに臆病なのだろうか?

「俺も…傷つくことくらい……あるんだけどな。」
 ぼそっと、思わず呟いた言葉・・・でも、拓海には届かない言葉。
深く触れようとすると、かわされる。その度に、目に見えない傷が心の中に増えていく。
なのに、何故?と尋ねる事すら出来ない。拓海のあの瞳を見ると、言葉が出ない。
 自分が言葉を失う瞬間が有ることを、拓海と出会って初めて知った。

 『我慢強い男』だなんて、よくそんな嘘を言えたモノだ。
単に嫌われたくないという臆病から出た言葉のクセに……。

───自嘲するように苦く笑みを刻んで、しばらくそのままハンドルに突っ伏していた。

 心の中で、嵐のように凶暴な感情が渦巻いている。
「俺はいつまで…コレを抑えていられる?」
いつまで、抑え続けなければならないのだろうか?

───涼介は、誰に言うともなくそう呟くと、堅く目を閉じて両手を握りしめた。
痛みを堪えるように。・・・そして、感情を抑えるために。

 拓海の前でピエロのように”自分”を演じている姿は、なんて滑稽なんだろう。
「それでも・・・・」
 みっともなくても、カッコ悪くても・・・それでも、手に入れたい。
吹き荒れる感情の嵐のその奥に、光にも似た想いがある。

───その光を追い求めるように暫くそのまま時を過ごしてから、涼介は再びアクセルを踏みしめると何かを振り切るようにその場を後にした。

★☆★☆★

 フンフンフーンと、何やらご機嫌に鼻歌など歌いながらリビングに入っていた啓介は、煙草を吸ってる兄に出くわして驚いた。
「おいアニキ…何かあったんか?」
 自宅では吸わないハズの煙草に手を出すなんて……と目を剥く啓介に、涼介はごまかすように苦笑した。
「藤原か?」
 その兄らしくない表情に、啓介はピンときた。
兄をこんな風にしてしまうのは、後にも先にも拓海だけだと啓介は思っている。
 妙なところで鋭いヤツだな・・・と苦笑して、涼介は溜息をついた。
「・・・まぁな。」
「何?…もうフラれたんか?」
 カカカッと笑って言った啓介は、冗談のつもりだった。
兄は確かに藤原拓海にぞっこんだが、向こうもイイ勝負である。
どっからどう見ても、アレは涼介に惚れているだろう。
「まぁな。」
 だから、この兄の返事に啓介は心底驚いた。
「えぇ?!」
「・・・迫ったら、拒まれた。」
涼介は苦笑しながら、言葉を補足した。

・・・なんだ、そーいうイミかよ。脅かすんじゃねー
涼介の言ってる意味が解って、啓介はガクリと肩を落とすとニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた。
「…やるじゃねーか、アイツ。」
 大人しそうな顔して、アニキに流されねぇとは大したもんだゼ。

 自慢ではないが、啓介には、涼介の口車に乗せられた記憶が山のようにある。
とにかく、口が上手いし人を乗せるのが上手いのだ、この男は。
他人に言わせるとそういうのは『カリスマがある』と言うらしいが、啓介は時々騙されているような気もしなくはない。
「うるさいぞ、啓介。」
「何だよ?そんで拗ねてんのかヨ、アニキ?…何かアイツと逢ってからちょっと変わったよな〜」
「変わった?……俺が?」
「ああ。何か人間っぽくなったって言うか、……んなカンジかな?大体、アニキは何でも出来過ぎだぜ。特にそっち方面は苦労したことねぇもんなー。たまには苦労すんのも刺激的なんじゃねぇ?」
 いや、啓介もその点では人のことは言えない。嫌みなほどモテる兄弟なのだ。
「……人間らしい…か。お前、俺を何だと思ってたんだ?」
 啓介のセリフに、苦笑する涼介に、
「うっ!……ま、まぁ、それはともかく…」
 コレはマズイとばかりに目を逸らせて、啓介はあらぬ方向に視線を泳がせた。

「アニキ……襲っちゃえば?そんなに欲しいんならさ。」
 拓海も男であるからして、素直に抱かれるとは思えない。
ましてや大人しげな外見に反して、アイツはかなりの頑固者だ。
合意の上なんか待ってたら春は来ないかもしれない…と啓介はこっそり思っていた。
「バカ!何てコト言うんだ…って言いたいところだがな・・・」
 涼介はココで、バツが悪いという表情をした。
「実は、試したことがある。」 (ええっ?!そ、そーなの?Σ( ̄□ ̄;))
「えぇっ?!・・・マジかよ?ジョークだったのに…」
 啓介は兄の言葉に目をひん剥いて驚いた。
啓介の目に映る兄は、いつでも拓海に優しすぎるくらい優しい。
これを言ったら怒るかもしれないが、何か恋人というよりは保護者みてぇと心密かに思う時があるくらいだった。
「未遂さ。出来なかったからな。」
「え?」
「逆らわれるだけならまだしも…泣かれて震えられたら、お手上げだった。」
「・・・マジ?・・・ちょっと見てみてぇなー、俺。」
 啓介は拓海の泣き顔を拝んだことはない。
 親しくなるにつれて拓海の表情はだんだん豊かになってきているが、泣き顔は流石に見たことがなかった。
「啓介。」
 声のトーンが落ちた、静かに響くこの一言。
我が兄ながら、名前を呼ぶだけでこれだけ人を脅せるとは…とんでもない男である。
・・・まったく藤原に聞かせてやりてぇくらいだぜ、この声。
「分かってるって。・・・オレはまだ死にたくねぇよ。」
 拓海に滅多な真似をしたら、実の弟にでも平気で毒の1つや2つ盛るだろう、この兄は。
・・・冗談じゃねぇ。そんなん、絶対ゴメンだゼ!
 啓介はブルブルと首を横に振った。
「…ま、気長に待つさ。嫌われてるワケじゃないからな。」
 啓介にその気がない事を見て取った涼介は、フッと微笑した。
「何だ。…結局幸せなんじゃねーか。心配して損したゼ。」
 何だか惚気られている気がして、啓介はさっさと退散する事を決め込むと、じゃな…と手をヒラヒラさせてその場を後にした。
「心配…ね。からかいにきただけだろーが。」
 その啓介の後ろ姿を見送って、苦笑しながら呟く高橋涼介であった。

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