【Sweet Sweet Pain】 P3 (涼X拓) …何となくでたらめな英文字←アホか

(SCENE 3 噛み合わない歯車)

───早朝の秋名。

 カァァーンッと、今日も軽快な音を響かせて、1台のハチロクが異常な速度で秋名の峠を駆け下りていく。
車体の側面には飾り気のない文字で、『藤原とうふ店』のロゴが入っている。
近頃この地域では、これまた異常な速度で人気上昇中の『秋名のハチロク』。
もちろん、運転しているのは藤原拓海である。

・・・おーし、来たな。相変わらず、いい音させてんなぁー。
 満足げな笑みを浮かべながら啓介は凭れていた愛車FDから少し離れると、車道の中央へと歩を進めた。

───キキィー!!
 甲高いブレーキの音を立てて、啓介から1メートルほど離れた地点でハチロクが停止した。

「もう!危ないじゃナイすか。啓介さん!」
「何が?」
「何が…って…轢いちゃいますよ!そんな道路の真ん中、出て来てたら・・・。」
「お前が?…はん、あり得ねぇな。俺はお前の腕は信用してるしな。」
・・・そういう問題じゃないだろ、と拓海は思うのだが、啓介は余裕の態度でニヤニヤ笑っている。どうやら言うだけ無駄のようである。
 拓海は仕方ない人だなぁ…と言いたげに溜息をついた。今日の挨拶はめずらしくも啓介の1本勝ちだ。(どーいう挨拶だ…(-_-;))

「……で?何ですか?また、こんな朝早く…」
 もう1度溜息をついて、拓海は啓介に来訪の理由を訊いた。用も無しに、こんな朝早く啓介が動くハズもないだろう。
「お前なー。…ったく、人を暇人みてーにゆーなヨ。…まぁ、暇だけどさ。」
 ポリポリと頬を掻きながら自分で突っ込む啓介に、拓海はプッと吹き出した。
ハハハッと珍しく声をあげて笑ってみせる拓海に、今度は啓介が安心したように溜息をついた。
「…なんだ、お前…結構、元気じゃねーか。」
 あーあ、心配して損したゼ…と付け足しながら、啓介は煙草を1本銜えて火を付けた。フーッと吐き出された煙を何となく目で追っていた拓海は啓介のそのセリフの意味を掴みかねて首を傾げた。
「…え?…どーいう意味っすか?」
 解らないモノは仕方ない。素直に訊いた拓海の仕種に啓介は笑った。
コトリと小動物のように首を傾げる…コレがホントのホントにあの秋名のハチロクのドライバーなのだ。このギャップが拓海の面白いトコロである。

「いやー…昨日さ、アニキが何か落ち込んでたからさ。お前とケンカでもしたのかなーって思って・・・。」
 思っても何も、昨日、涼介から聞いて知ってるのだが、啓介はとぼけてそんな風に聞いた。拓海の様子が気になってるのも本当だから。
「…ケンカなんて、別にしてないデスけど……。で、ソレで何で啓介さんがココに?」
 だが、拓海はポヤンとした顔でもう1度啓介に尋ねてきた。どうやら解らないらしい。
・・・こいつ…相変わらず、すげー鈍っ。アニキも苦労してんだなぁー。

 はぁっと心の中で溜息をついて、啓介はちょっとだけ涼介が気の毒になった。
「だから……お前の様子見に来たんだよ。お前も落ち込んでんじゃねーかと思ってさ。」
「へっ…?そ…そんなコトで来たんですか?秋名まで?……ホントに暇っすね、啓介さん。」 
「…うるせー。暇、暇ってゆーな!…ったく、お前は何で俺相手には、そー生意気なんだよっ!」
 啓介は拓海のほっぺをつまんでウニーッと引っ張った。おー、伸びる伸びる〜とか言いながら。
「!な…何すんすかっ!…ったく、21にもなって大人げねぇーっ!」
 パッと啓介から離れて、拓海は引っ張られた頬をさすりながら啓介をキッと睨んだ。啓介はニヤニヤと人の悪い笑みを返した。
「何だ、ホントに元気じゃねーか。…じゃ、落ち込んでるのはアニキだけ…かぁ。」
「えっ?…落ち込んでるって…涼介さんが?」
 急に表情を曇らせて、拓海は啓介に尋ねた。
「まぁ、今朝には何時もどーりになってたけどな。お前、アニキいじめたんだろ?」
からかうようにそう言った啓介に、
「苛めたって……そんなコト、しないっすよ。別に…あのっ…」
何か尋ねようとして、拓海は言いにくそうに口を噤んだ。
「?」
何だよ、言えよ…という代わりに啓介が首を振ると、拓海はもう1度口を開いた。
「あの……涼介さん、怒ってた……ですか?」
 シュンとしょげた子犬のような顔でそう聞かれて、啓介はウッと口ごもった。
ここで拓海を泣かせたりしたら、兄に毒を盛られる可能性はかなり高い。ふふふと毒を片手に不気味に笑う涼介が脳裏に浮かび上がって、啓介はゾッとした。
「…そ…そんなワケねーって。ちょっとツレなくしたくらいで、アニキがお前に怒るわけねーよ。だから、んな顔すんなよ。このままじゃ、俺が怒られるって…」
 怒られるというより殺される・・・と冷汗をかきながら、啓介は拓海の言葉を否定した。
「…でも……。…俺、昨日のコト、涼介さんが気にしてるなんて思わなかったから……どーしよう。俺…」
 一気に自分の世界に突入して涙を堪えるように眉を寄せた拓海に、啓介はあたふたした。
「おいっ、ちょっと待て。おいっ!」
 啓介は拓海を引き寄せると、自分と胸元にその顔を押しつけた。サラリとこういうコトをする辺り、似たもの兄弟である。
「…ったく、人の話を聞けよ、お前は…。アニキは気にしてねーって。だからお前も気にすんな。俺の言い方が悪かったんだよな…悪ぃ。」
 はぁっと溜息をつくと、啓介は腕の中で固まってる拓海の柔らかい髪をポンポンと軽く叩いた。途端に、拓海は真っ赤になって、ぱっと啓介から離れていく。
「お前って…ホンっト、時々、可愛いなぁ〜」
「な…何言ってんすかっ!何をーっ!」
ニヤニヤしながらそう言う啓介に、拓海は真っ赤になって抗議した。そういう態度が可愛いのだが、本人は無自覚らしい。

「イヤ、マジで今、そー思ったから。…アニキが2の足、3の足踏ンじまうのも、しょーがねぇかなって。あんなに、マジなクセしてさぁー」
 ホントはもっとずっと拓海を求めてるクセして、物わかりのいいフリを続ける涼介が啓介はもどかしかった。だけど拓海を見ると、その行動も納得出来てしまうのだ。
「え?」
 啓介のセリフに拓海は首を傾げた。やはり、解らないらしい。
「…まぁ、あのアニキの相手ってのも大変だろーけどな。アニキは何にでもディープだからなぁー。」
「は?」
 一体何がディープだというのだろーか?
「でも知ってるか?キョーミないモンには見向きもしねーんだぜ?アニキは。…例えどんなに周りが騒いでも自分で感じなきゃ動かねぇ。でも…本気になったモンには死ぬほどしつこいぜ?」
 拓海に夢中なのは他の誰でもなく涼介自身が決めたこと。車はきっと、出会いのきっかけでしかナイ。
「どーいう意味ですか?」
 拓海の言葉に、啓介は心の中で笑った。今、誰よりも涼介を本気にさせてる人間が拓海なのに、当の拓海はそのコトが分かっていない。一体何時になったら気づくことやら。
「分かんねぇ?…お前って激ニブ……ま、面白いからいっけどなー。お前のそーいうトコ。」
「啓介さんっ!!」
 ククッと喉の奥で笑う啓介に、拓海はムッとなった。
「…ところでさー…アニキってあっちの方もディープ?」
 拓海と涼介がまだ深い仲には至っていないと知りつつ、啓介はからかうような口調で拓海に聞いた。これは流石に鈍い拓海にも意味が分かった。
 拓海はまた耳まで真っ赤に染めると、
「啓介さんっ!!」
 思いっきり、啓介の名前を叫んだ。あんたって人はっ!と言うように、キッと睨みつける。でも、照れたそんな顔で睨まれても、恐いどころか面白いだけで・・・。

 啓介はギャハハッと笑いながら、拓海の機嫌を損ねる前に、退散するコトに決めた。逃げ足はかなり速い。さっさと乗り込んだFDの窓から、ひょいっと啓介は顔を出すと、最後に一言、拓海に告げた。
オマケがずいぶんあったようが、実は彼はこの一言を告げる為にココに来たのだ。
「藤原!!・・・アニキはお前が思ってるほど、大人じゃねーかもよ?」
 拓海が見ている涼介の姿が、涼介の本音では無いことを暗に告げる。お互い迷ってばかりいないで、そろそろ本当の兄に気づいて欲しい。
「え?」
 思ってもみない啓介のセリフに毒気を抜かれて、拓海はキョトンとした顔で啓介を見た。
「ま・・・後は自分で考えな。・・・じゃー又なー!」
 そう言い残すと、啓介はその場を後にした。一人いなくなっただけで、辺りはずいぶん静かになった。

「・・・涼介さんが・・・大人じゃない?」
 啓介のセリフを繰り返して、拓海は首を傾げた。一体どういう意味だろう?
「涼介さん・・・」
 名を呟くだけで、頭の中に鮮やかに彼の姿が浮かんでくる。拓海の中に一番強い印象を残し、今もずっとその心を独占する男。
思い浮かべると同時に生まれてくる切なさに、拓海は瞳を閉じた。
「・・・大人じゃないなんて・・嘘ばっかり。何言ってんだよ、啓介さん・・・」
 別に啓介は何も悪くないと分かっているけれど・・・。ごちるように小さく呟くと、拓海はハチロクに戻ってまた秋名の峠を駆け下りていった。

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