【『切ない』ということ】 P9 (涼X拓)

 拓海はギュッと涼介の服を掴んだ。
───抱き返したかったけど、涼介の腕がキツくて解くことが出来なかったので。
 そのまま顔を涼介の肩口に埋めてしまい、拓海は目を閉じて体の力を抜いた。
「俺は・・そりゃ、涼介さんよりはずっと子供だし、ちょっと・・鈍いらしいけど、・・・でも、言ってくれればちゃんと考えます。」
「ああ」
「だから・・・オレの事まで勝手に決めないで下さい!」
2人で居るのだから、2人で考えればいい。
 真っ直ぐに涼介の目を見つめながら、キッパリと拓海はそう告げた。
 ここに、普段はおっとりとしている拓海の、隠れた本性が現れている。
真っ直ぐに自分を見つめる、強い瞳と揺るがない強い意志。
いつだって涼介の心を釘付けにしているモノの、正体なのかもしれない。
 
「・・・そうだな。・・・ごめん、拓海」
耳元で、低く囁いて、ギュッと涼介は拓海の体を抱きしめた。
拓海の気が高ぶっているのを目の当たりにして、逆に涼介は落ち着いたようだ。

 低くて穏やかな涼介の声を聞いていると、拓海もだんだん落ち着いてきた。
・・・すると、今度は逆に自分の失態が恥ずかしくなってくる。
 子供じゃないのにぼろぼろ泣いて、何やってんだよ、オレ〜〜
拓海はカーッと耳まで赤くなって、もぞもぞと涼介の腕の中で小さくなってしまった。
でも、懸命に顔を隠しても真っ赤な耳は涼介から丸見えだ。

 その様子に、プッと涼介は笑った。
途端に、なおさら真っ赤になって、拓海は恨めしそうな目で涼介を睨んだ。
「〜〜ヒドイ、涼介さん」
どうやら拓海は怒ってしまったようだ。
体をひねって、するりと涼介の腕から抜け出してしまう。
離れようとする拓海を、涼介は背中からもう1度抱きしめた。

もう・・・逃がしてやらない。
 涼介はそう思った。これからも、きっと、こんな風にすれ違うこともあるだろう。
もっと拓海を苦しめてしまうかもしれない。傷つける事だってあるかもしれない。
それでも───
「逃がさないよ。」
「?」
 呟くような涼介の台詞の意味が分からなくて、拓海は首だけで後ろを振り返ってコトリと首を傾げた。
 涼介はゆったりと拓海に微笑みかける。すっかりペースを取り戻したようだ。
「もう、この手から逃がしてなんかやらない。」
少し意地悪に、涼介は言ってみた。すると、案の定、拓海は拗ねてしまう。
「オレ・・・逃げたいなんて言ってないです!」
「ホントに?」
「(まだ言うか?この人は〜)ホントですっ!!」
「・・・オレがイヤな奴でも?」
「えっ?」
複雑な顔で、涼介は笑った。
「心は狭いし、計算高いし、嫉妬深いし・・・我が儘なんだ。俺は。」
くすくすと、笑いながらそんなこと言われても信じられない。
・・・からかってんのかなぁ
ぷいっと拓海は涼介から顔を逸らし、前を向いてしまう。
「・・・それでも・・・俺の事、好きでいてくれるか?」
 少し言葉を切って、拓海のうなじに唇を寄せながら、今度は真剣な声で涼介は尋ねた。

 拓海はハッとした。涼介がふざけてるワケじゃない事を感じたから。
そして、先程の自分の言葉の通り、考えてみる。
───涼介の言おうとしている事と自分の気持ちを。
 でも、どんなに考えても涼介が『イヤな奴』だなんて拓海には思えない。だけど、もう1つの問いには簡単に答えられるから、拓海は思ったまま告げることにした。
「涼介さんがイヤな奴だなんて思わないけど・・・でも、それでも・・・」
 ぎゅっと、自分を抱きしめる涼介の腕を抱きしめて、
「オレは涼介さんが好きですよ?」
小さな声で拓海は呟いた。

「・・・オレッてイイ奴だよなぁー」
 FDの中で、煙草の煙を燻らせながら、啓介は1人ごちた。
深く深く、煙草の煙を吸い込んで、また大きく吐く。
 ホント言うと、チャンスだと思わないでもなかった。ちらっとだけそう思った。
「でも・・・あんな瞳で見られちゃなぁ・・・」
 つくづく、自分は拓海に弱いのだ。泣き顔なんて、特にダメだ。
涙を溜めたあの瞳を見たとたん、何とかしてやりたいと思ってしまった。
「ま・・・いっか。」
 人が見たらバカだと思うかもしれないけれど、これで良かったのだと啓介は思っている。
・・・アニキと居る時が、1番イイ顔するもんなー
 涼介に負けてるつもりはないけれど、啓介が拓海の顔の中で1番気に入ってるのは、涼介と居るときのあの笑顔だから。
───だから、あの笑顔を守れれば、それでイイ。

「よっし。いっちょ、走りに行ってみっか。・・・今日のオレは速いゼェ〜」
啓介はFDのセルを回して、車庫から飛び出した。
 家を通り過ぎる時、ちらりと部屋の方に目をやると、涼介の部屋に灯りが灯っているのが見えた。
啓介は、ふぅっと小さく溜息をついて、
「ホント・・・オレッてイイ奴だよなぁ〜」
もう一度、同じ台詞を呟くと、何かを振り切るようにFDはスピードを上げて走り去って行った。

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