【『切ない』ということ】 P4 (涼X拓)
(SCENE 3 後悔の夜)
涼介の愛撫は巧みで、拓海の弱いポイントを確実に突いてきた。
慣れていない拓海がソレを堪えられるワケもなく、喘ぎ声を上げて細い身体を震わせている。
「感じてるのか?」
どこがいい?と、涼介は耳元で意地悪に囁き、そのまま耳の中へと舌を忍ばせた。
途端に、拓海の顔は真っ赤に染まってしまった。
確かに・・・感じてしまっているのだ。…身体だけは。
拓海は頭を大きく振って、涼介の舌から逃れる。
そして、気丈にも再び涼介を睨みつけた。
・・・ホントに強情だな・・・
クスリと涼介は笑い、また拓海の身体をまさぐり始めた。
「やめ!・・・も・・・やだ・・」
触れられると、反射的に拓海は涼介を突き放そうとした。
だが、そんな小さな抵抗など、何の足しにもならなかった。
───自分を組み敷いている涼介。
───自分の言葉を聞いてもくれない涼介。
どれもまるで知らない人のようで、拓海の瞳からまた新たな涙がこぼれ落ちた。
「ひぁ・・・ぁあ!」
足を抱え上げられて、拓海は悲鳴を上げた。その時───
バタンといきなり、涼介の部屋のドアが開かれた。
「アニキ!」
部屋に乱入してきたのは、涼介の弟、啓介だった。
実は啓介は拓海の叫び声が微かに聞こえた時に、この部屋の前まで来たのだ。
しかし、兄と拓海が恋人という関係であることは知っていたので、ヤボなマネはマズイと部屋の外で少し戸惑っていた。
だが、再び聞こえた拓海の泣き声混じりの悲鳴に、驚くより先に部屋に飛び込んだのである。
部屋に入った瞬間、とんでもない場面に啓介は絶句した。
「ア・・・アニキ!・・・な・・何やってんだよっ!!」
すぐさま啓介は、拓海に覆い被さっている兄の背に取り付いた。
涼介は自分に手を掛けた啓介を、強い力で突き飛ばす。情けなくも啓介、見事にはじき飛ばされた。それでも、啓介は怯まなかった。
再度、兄に取り付いて、拓海に覆い被さっている兄の身体を力尽くで引き起こし、背中から羽交い締めの状態にした。
「アニキ!…自分が何してっか…解ってんのかぁっ!!」
耳元でガンガン響く啓介の声に、涼介は突然、我に返った。
まるで今目覚めたばかりのように呆然として、そしてゆっくりと自分の下へと視線を移す。
そこには、拓海が居た。当たり前だ。自分が組み敷いていたのだから。
拓海は泣きながら、身体を大きく震わせていた。目をそらし、歯を食いしばっているその姿に、涼介の胸にズキリと強い痛みが走る。
「・・・俺は・・・」
呆然と、涼介は呟いた。自分で自分が信じられなかった。
啓介はそんな涼介の様子にホッと息をつくと、促すように両手に力を込めて、兄を拓海の上からどかせると、自分も兄の両腕を放した。
涼介の重みが無くなった事に気づき、拓海がゆっくりと目を開いた。
「・・・拓海・・・大丈夫・・か?」
こんな時にこんな陳腐なセリフしか言えない事を悔やみながら、啓介はそっと拓海に触れようとした。その途端に、拓海はビクリッと体を震わせ、その手から逃れようと無意識に体を遠ざけた。
───怯えているのだ。
「・・・」
その拓海の様子に辛そうに眉を寄せて、それでも啓介は何も言わずに手を伸ばし、拓海の頭をそっと撫でる。
頭に触れたその感触の優しさに、拓海は啓介の顔を見上げた。啓介が穏やかな顔で、拓海と視線を合わせると、拓海は顔を歪ませた。
ぽろぽろと、その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
迷子の子供が親を見つけた時に泣き出してしまうような、そんなカンジだった。
「・・・大丈夫。・・・もう大丈夫だから・・・」
だから泣くな、と、啓介は拓海の頭をゆっくりと引き寄せて軽く抱きしめる。
そのまましばらく拓海の嗚咽が止まるまで、ポンポンとその頭を軽く叩いてやった。
「アニキ・・・」
啓介は、視線だけを兄に向けた。
涼介は無言で俯いたままで、啓介にはどんな表情をしているのか見えなかった。
「こりゃ、ちょっと・・・ねーんじゃねぇか?」
こんな事は言わなくても涼介だって解っている事は百も承知で、啓介は言った。
言い方は穏やかだったが、内心はハラワタが煮えくり返る程の怒りだった。
───啓介だって拓海にはホンキだから・・・
「…とにかく、拓海は今日はオレが預かるぜ?」
自分の名が出たことに、拓海はまたビクリと震えた。
涼介は何も言わなかった。・・・いや・・・言えなかったのかもしれない。
そのままゆっくりと拓海を立たせて、軽く服を整えてやると、啓介は細い肩をそっと抱いて、拓海を連れて歩き出した。
部屋を出る時、拓海は泣きはらした赤い瞳で、涼介をじっと見つめた。
でも、涼介はまだ動かず俯いたままで、拓海を見ることすらしなかった。
拓海は一瞬、また泣き出しそうに顔を歪めて・・・啓介に連れられて涼介の部屋を後にしたのだった。
自室の扉をガチャリと開けて、啓介は自分の部屋に拓海を連れて来た事を少し後悔した。
───足の踏み場もないほどに、散らかっているのだ。
・・・客間にでも連れて行けばよかったな・・・
ほんの少しそう思ったが、今の拓海を1人にするのはやっぱり不安だった。
啓介は自分の足で、散らばってる荷物をかき分け無理矢理踏み場をつくると、拓海をベッドに連れていって座らせてやる。
まるで魂が抜けたような拓海の大人しすぎる様子に啓介の胸も痛んだ。
でも、ここで自分まで凹んでいても仕方がない。
啓介はムリに笑みを浮かべて、ゆっくりと拓海の髪を梳いてやった。
安心させるように、何度も何度も・・・。
しばらくして、バタンとドアが閉まる音が聞こえてきた。
足音が啓介の部屋の前を通り過ぎて、階下へと降りていく。・・・そして、外からFCのエンジン音が聞こえてきた。
拓海は引き寄せられるように顔を上げて、音が聞こえてくる窓を見つめた。
FCの音はすぐに遠ざかっていく。だが、その音をいつまでも聞くかのように、拓海はずっと窓を見つめ続けていた。
啓介は、何も言わずにそんな拓海の姿を眺めて、ふぅと小さく溜息をついていた。
「拓海?」
拓海が落ち着いたのを見て取って、啓介はそっと呼びかけた。
拓海は真っ直ぐに啓介の目を見つめる。
───この瞳が凶器なんだよなぁ、コイツの場合。
ふと、啓介はそんなコトを思った。捕らえどころのない拓海の瞳。
何故だかいつも透き通って見えて、何故だかいつも自分の心を騒がせた。
きっと、あの兄ですら、拓海の瞳を見るとこんな気持ちになるのだろう。
<< BACK NEXT
>>
|