【『切ない』ということ】 P3 (涼X拓)
ゆっくりとした仕草で、涼介は拓海の頭や頬を撫でる。
───温かい手、優しい仕草。
その手は、いつもと同じ温もりを拓海に伝えて、拓海は何故だか泣きたくなった。
───いつもと同じようで、いつもとは違う彼がとても悲しかった。
でも、泣くことはしない。拓海はぎゅっと唇を噛みしめた。
ここで泣くことだけは、拓海のプライドが許さなかった。
「拓海が悪いんだよ」
いつもと変わらぬ優しい声で、涼介は残酷な言葉を紡いだ。
いつもなら拓海を暖かく包むその声が、今夜は逆に拓海を苦しめていた。
拓海は何も言えなかった。泣きそうな自分を抑えることだけで精一杯だった。
「何も知らない事だって罪なんだよ」
また、笑いながら涼介はそう言った。
言われても、拓海には何がどういう事なのか、さっぱり解らなかった。
解ったのはただ1つ…涼介が自分を苦しめるためにこの言葉を告げているのだという事だけ。
───その事が、ただ悲しかった。
唇を噛みしめて泣くのを堪えている拓海を涼介は穏やかに見つめた。
そして、不意に泣かせてみたいと思った。
自分の心をこんなにも乱してしまう拓海が許せなかった。だから───
「あ・・・涼介さん!」
涼介はまた、動き始めた。
さっきよりもずっと強い力で拓海の両手首を片手で拘束して、首筋や項へと紅い痕を残して口づけていく。
そのたびにビクリと跳ねる身体に、唇を離さないまま薄く笑みを浮かべた。
同時に、もう片方の手はなだらかな脇腹や胸元へと忍ばせる。
「や・・・ぁあ・・」
初めて与えられる快感にどうしていいかわからずに、拓海は身体を震わせながら涼介の腕から逃れようともがき始める。
だが、結局は徒労に終わった。力では適わない事を思い知らされただけだった。
もう諦めるしかないのかと、拓海が全身の力を抜こうとしたその時に、涼介の手が拓海自身を軽くかすめた。そして、力尽くで足を開かせようとして───
その時、拓海は本気で怖いと思った。初めて何をされるのか実感したのだ。
拓海は渾身の力を振り絞って涼介の腕を振り払った。そして、その勢いのまま、右手を大きく振り上げる。
バシンッと大きな音が涼介の左頬で弾けた。
「いや・・・イヤだ!!」
拓海は大声で叫んだ。涼介の中に居るはずの、いつもの涼介に聞こえるように。
見事に涼介の左頬にヒットした平手の力の慣性のまま、涼介の顔と身体は少し右に流された。───でも・・・それだけだった。
拓海の力も叫びも『拓海の知る涼介』には届かなかった。
ゆっくりと涼介は拓海の方へ向き直る。
その涼介の顔を見た途端、拓海を支配した感情は『絶望』だったのかもしれない。
───変わっていない。
涼介の瞳は、まだ狂気を孕んだままであった。
拓海は今度こそ涙を堪える事が出来なかった。
声もなく、ただ涙を流して涼介のその瞳を悲しげに見つめていた。
ホントは身体なんてどうなってもよかった。
女の子では無いのだ。初めてがどうのというモノでもないし、痛みさえ我慢すれば済むことだ。
───でも、互いの心の傷はきっと消えない。
こんな風に身体を合わせたら、きっと後悔する日が必ず来る。
特に涼介はそうだと拓海は思った。
本当の彼は確かに内面の激しい人だけれど、冷静な彼もまた本当の姿だ。
涼介はいつだって己を厳しく律っして行動していた。
だからこそ、彼は自分を傷つけた彼自身を決して許さないだろう。
涼介が自分から離れてしまう事を、拓海は感じていた。
もう、あの優しい笑顔も声も、自分のモノでは無くなってしまうのだ。
───拓海は流れる涙を堪えることが、どうしても出来なかった。
「もう終わりか?」
涼介は笑みを讃えたまま、また拓海へと手を伸ばす。
いつもと同じその声が、今は棘となって拓海の心に突き刺さる。
自分の声も叫びも涙も・・・今の涼介には何の影響も与えられないのだ。
拓海は全身の力を抜いた。もうどうなっても仕方ない。
「う・・く・・うぇ・・・」
涼介が拓海の身体をまさぐって、少しずつ開いていく。
でも、拓海はもう抵抗しなかった。もちろん応えもしなかった。
ただ時々、小さな声で堪えている嗚咽を漏らすだけで・・・
涼介は頭の何処かで、その嗚咽を聞いていた。
その場所から警報が鳴るように『止めろ』という声が聞こえてくる。
でも、もう手は離せなかった。
腕の中の身体は温かくて心地よかった。その泣き声も魅惑的で、涼介は自分の中の獣じみた感情を抑えることは出来なかった。
涼介の身体は、たやすく拓海の足の間に滑り込む。
それでも拓海は抵抗しない。顔の前で両腕を交差させて震えているだけだった。
涼介はゆっくりと拓海に覆い被さった。
───この哀れな獲物をじっくりと味わうために。
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