【『切ない』ということ】 P2 (涼X拓)
(SCENE 2 知らない2人)
息苦しさに眉を寄せて、拓海が目を覚ました。
涼介はそっと唇を離した。でも、顔は近づけたその位置のままで・・・
「・・・り・・涼介・・さん?・・」
ぱちぱちと拓海が目を瞬かせる。
一瞬ココが何処か判らなくて、いきなりドアップで現れた涼介の顔に驚いていた。
少しだけ顔を離して、フワリと涼介は微笑んでみせる。
───穏やかで優しい、いつもの微笑み
「酷いな、拓海は・・・」
───静かで柔らかな、いつもの声
でも・・・その声が紡ぐ言葉はいつもとは違っていた。
「え?」
拓海には涼介の言葉の意味が解らなかった。
「オレの腕の中で・・・他の誰かの名を呼ぶのか?」
「他の誰か?」
オウム返しに拓海は尋ねる。ホントに何もわからないのだ。
クスリと涼介はまた笑って、
「さっき、呼んでたよ・・・『ワタル』って・・・」
口元に笑みを浮かべたまま、そう答えた。
・・・・・あれ?
何だか違和感を覚えて拓海は首を傾げた。
・・・なんか・・・涼介さん・・・ちがう?
敏感に自分のコトを察したのだろうか?戸惑っているような拓海の様子に、涼介は小さく笑った。
そして、拓海の首筋にいきなり強いキスをする。
柔らかくて白い首筋の肌には、簡単に紅い痕が残った。
「ひゃっ・・・な・・何す・・?涼介さん!」
飛び跳ねるように力のこもった拓海の全身を、涼介はいともたやすく封じ込めた。
「何って・・・この状態でも・・・ホントに判らないのか?」
涼介の微笑みも声もいつも通りで・・・でも、その瞳の色がいつもと違っていることに、拓海はようやく気が付いた。
───いつも冷静な涼介らしくない、狂気を孕んだ眼差しだった。
「り・・・涼介さ・・・あ!」
突然、涼介が拓海の体の上にのし掛かってきた。
頭の上でまとめられた両手を、強い力で固定されてしまう。
「や・・・・いやです!」
ここまでされれば、拓海だって何をされようとしてるのか判る。
でも・・・拓海の知る涼介は絶対そんなマネをする人物ではなかった。
強引なトコもあるけれど・・・決してムリに何かを強制する人ではなかったのだ。
拓海は初めて涼介の事を『怖い』と思った。
───ここに居るのは『拓海の知らない涼介』だった。
腕の中で暴れ始めた体を、涼介は力尽くで押さえつけた。
口元に笑みを浮かべたまま、まるでその課程すら楽しむように・・・
「あ・・・や・・ヤダって!」
もう1度、今度は反対側の首筋に、噛みつくようなキスをした。
すると、押さえつけた体はまたビクリと魚のように跳ねて、拒否の声を上げる。
───抵抗するその仕草が、己をより煽ってしまっている事も知らずに・・・
この場合、上に乗って体重を掛けられる涼介の方が断然有利だ。
それでも、拓海は抵抗を止めなかった。───当たり前だ。
好きと言われて、好きと言って・・・こうして2人で居るのだけれど、だからといって何でも許せるワケじゃナイのだ。
いつかこんな日が来るかもしれないと、拓海だって漠然とだが解っていた。
子供じゃないのだ。キスだけで済まない時もあって当然だろう。
───でも、こんなのイヤだ。
それでも、こんなのは違うと、拓海は強く思った。
「んぁ・・・あ・・」
今度は唇に、強いキスを仕掛ける。
口腔に舌を差し入れて、涼介は思うさまにその中を蹂躙した。
何度もキスはしたけれど、これは今まで1度だってしたことにないキスだった。
強い力と彼の舌の熱さに、拓海は意識すら飛んでしまいそうになる。
だけど、拓海はそのキスには応えないし、流されたりもしない。決して。
目をきつく閉じて、拓海は何とか自分の意識を保ち続けた。
涼介の手が、拓海の服の襟元に掛かり、そのまま一気に下へと力が込められる。
拓海の服のボタンはあっさりと弾け飛んでしまった。
拓海は目を見開き、顔を左右に強く振って、涼介の強いキスから逃れた。
そして、そのまま強い瞳で涼介を睨みつける。
それは『涼介の知らない拓海』の姿だった。初めて見る拓海の姿だった。
普段のおっとりした拓海と違う。バトルの時の拓海とも違う。
強い強い瞳で自分を睨みつけている。
───でも、その瞳にはどこか怯えた輝きがあった。
そう。まるで、手負いの野生の獣のように・・・・
ああ、そうか。
涼介は思った。怯えている彼を見るのは初めてなのだ、と。
笑っている顔も泣いている顔も怒っている顔も知っているけれど、そう言えば怯えているのは初めて見るな・・・と、こんな時なのに、冷静にそんな事を考えていた。
クスリと涼介は笑った。
それだけで、拓海はビクリと体を震わせ、そして悔しそうに唇を噛んだ。
こんな拓海も悪くないな・・・と、涼介はひどく残酷な気持ちになっていた。
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