【泣きたい夜に抱きしめて】 P4 (啓X拓)
・・・んなコト、言ってられるんは今のウチだぜ?
啓介は知っているのだ。まだ何も言ってはこないが、涼介が拓海を取り込んでゲームの続きをしようと目論んでいるコトを。
あの兄がこの類い希なる走り屋を捨て置くはずがない。そして、兄はこうと決めたら絶対にやり遂げる人物だ。
拓海は必ず、走り屋としての本性を暴かれて、巻き込まれることになるだろう。
「〜って言っても、この辺で秋名以外つってもなー…」
う〜んと啓介は考え込んだ。余り詳しくはないのだが、他に走れる場所など在っただろうか?
その啓介に、拓海はおずおずと声を掛けた。
「あのー…赤城はダメなんすか?」
「えっ?!…そりゃ、ダメってこたーねぇけど、遠すぎるぜ。お前、何時間かかると思ってんだよ?朝までに帰ってこれねーよ。」
(注:信じないよーに(笑)走ってる時間をプラスするとでも思ってくれぃ(笑))
苦笑しながら言う啓介に拓海は頷いた。
「いいです。俺。」
「えっ?…って、お前、配達あんだろーが。」
「イイです。明日はサボります。」
「拓海…お前…」
啓介は上手く声が出なくなる程驚いた。責任感の強い拓海の口からこんな言葉が出るなんて。
いつもは啓介が配達サボってつき合えよと言っても、絶対首を縦に振らないのに…。
「行きましょう、赤城へ。…でも、ウチの車は置いていかねーとダメだから、横、乗せて下さい。オレ、啓介さんの走りを横で見ていたいです。」
そう言って、拓海はニコリと小さく笑った。
「………いいのか?ホントに?」
啓介は一瞬迷った。
きっと、拓海は啓介を心配してこんな事を言い出したのだ。ホントは、気を使うなと言うべきだろう。でも・・・・・・。
・・・やっぱ、俺ってコイツに甘えてるよなー。
時々、啓介は自覚する。
自分の方が年上なのに、拓海にワガママばかり言っている。それも、子供みたいに独占欲丸出しのモンがほとんどだ。今だって、拓海に気を使わせている。
でも、それでも、この魅力的な申し出を断るなんて、もったいなくて出来ない。
何時だって胸の奥にある願い。
───ホントは一時だって手離したくないくらい、拓海の側に居たいのだ。
それぐらい、惚れ込んでいる。きっともうこの恋から抜けられないし、頼まれたってそんなのはゴメンだ。
コクンと拓海が頷いたのをきっかけに、啓介はまた拓海に手を伸ばしその身体を引き寄せた。啓介より一回り細くて暖かいその身体を、宝物に触れるように両腕で包んで髪に顔を埋める。シャンプーの香りが鼻を擽って、啓介は小さく微笑んだ。
「よし。…じゃ、行くか。赤城へ。ホントにもう、帰さねぇからな。」
ぐいっと拓海の身体を離すと、啓介はわざと元気良くそう言って、拓海をFDの中へと押し込んだ。
───淡い月の光だけが、そんな2人を見つめていた。
「・・・はーっ…。悪ぃ、拓海。俺、今日はあんまし乗れてねぇな・・・」
2度ほど赤城の山を上下してFDを止めた啓介は、車から降りると苦笑してそう言った。
近くの自販機で缶コーヒーを買って、1本を拓海へと放り投げてくる。
飲めよ、とジェスチャーで示す彼に、拓海は軽く会釈で礼をするとプシュッと缶を開けて1口含んだ。自分の好きなヤツをきちんと選んでくれているのが嬉しくて、そっと小さく微笑んだ。
「そんなコト、ないっすよ。…絶好調ではナイみてーだけど。」
ニッと笑って、拓海は啓介に言った。ホントに、啓介が言うほど酷くはない。でも、本当の彼はもっと速いと拓海だって解っているのだ。拓海のその言葉に啓介も微笑んで返した。今のは誉め言葉と受け取っておこう。
「サンキュッ」
小さくそう言って、啓介はまた少しコーヒーを飲むとふぅっと小さく溜息をついて視線と遠くへと飛ばしてしまった。
拓海はそんな啓介の元へトコトコと近づくと、じっと啓介の様子を見つめる。
「ん?どした?拓海。」
自分に気づいた啓介が、作ったような顔で笑って声を掛けてくる。その笑顔に拓海は胸が痛いと感じた。これくらいで啓介の気が晴れるとは思わなかったけど、自分は少しも役に立てなかったのだろうか?
「…啓介さん…ゴメンなさい。ホントは走りたく…なかったですか?」
しゅんと凹んでそう言う拓海に啓介は少し驚き、苦笑して「バーカ」と小さく呟きながら、拓海の身体を引き寄せた。啓介が持っていた缶コーヒーが、カラカラと地面で音をたてて転がっている。
「…んなわけねーだろ?…何、気ぃ使ってんだよ。お前は…」
そう言って、頬に手を当てる啓介を拓海はじっと見つめた。そして、頬を包む彼の手を取ると軽く頬ずりしてその掌に口づける。
───それは、口づけと言うには余りに淡い触れ合いだったけれども……。
「拓海……。」
啓介は、再び自分を見つめる拓海の顔に引き寄せられるように顔を寄せて、軽く口づける。
「バカだなー…お前。こんな風に俺に隙見せたらどーなるか…もう、解ってんだろ?」
すぐに口づけを離し、至近距離で苦笑しながら言う啓介に、拓海は今度は自分から口づける。
カンッと、拓海の手にあった缶コーヒーも地面で乾いた音をたてた。
───いつもは拓海からはしない・・・恋人のキス。
そのキスが、啓介の中に眠る何かに火を灯した。
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