【泣きたい夜に抱きしめて】 P5 (啓X拓)


(SCENE 2 魔法使いなキミ)


「んっ・・・け、啓介さん?あの・・・」
 ホテルの部屋に入ってすぐに情欲を込めたキスをされて拓海は戸惑った。
やはり、今日の啓介はドコかいつもと違う。
「何だ?」
 返事をしながらも、啓介の手は止まらない。そのまま、拓海の服を剥ぎ取ろうと動き回っていた。
「あっ…あの……ちょ…っ!」
 時々、際どい場所に触れられて、拓海の言葉はなかなか続かない。
「だから…何だよ?」
 尋ねながら、啓介は露わになった拓海の胸にちゅっと音をたてて口づけた。
「やっ…!」
 拓海の身体はその刺激に大きく跳ね上がり、咄嗟に腕を突っぱねて啓介の体を押し返してしまう。

「拓海?」
 ココまで来て今更、拒むつもりだろうか?
「…あの、・・・風呂とか・・・入んなくて・・・」
 真っ赤になった顔を逸らして言う拓海に啓介は苦笑した。
しどろもどろだが、言いたいコトは解る。シャワーと言わないところが何だか拓海らしい。
 啓介は何も答えずに拓海の腰に腕を廻して浚うと強引にベッドに押し倒した。2人分の体重を受けとめたベッドのスプリングが大きな悲鳴を上げる。
 倒された瞬間、ぎゅっと目を瞑っていた拓海は、スプリングの揺れが収まってからソロリと目を開けた。
すると、切なげに瞳を細めて自分を見つめている啓介の瞳に出会う。どうやら、ずっと見つめていたようだ。まるで、この短い時間すら逃すまいとするかのように・・・。
 その瞳に、ドクリと拓海の心臓が跳ね上がった。まるで金縛りにでもあったように、息をするのさえ苦しいような気分になる。啓介の瞳から目が離せなくなって、拓海もそのまま啓介を見つめ返していた。

 しばらくそうして視線を絡み合わせて、啓介はフッと微笑してキツイ瞳を和らげた。
そして、ゆっくりと拓海の頬を撫でながら、拓海の髪に顔を埋めて小さく囁いた。
「いらねーよ。・・・お前、シャンプーの匂いする。・・・いー匂い。」
 まるで犬のようにクンッと軽く髪の香りを嗅ぐと、啓介はそのまま唇を拓海の耳元に寄せてくる。甘く掠れた声で「だから・・・いいか?」と囁く啓介の髪に指をくぐらせて、拓海はその頭を抱き締めることで返事を返した。
───啓介の髪からは、馴染みのない、ほのかな線香の香りがする。
 ああ、やっぱり…と思いながら、拓海は降りてくる唇に合わせてそっとその瞼を閉じた。


「・・・・ぁ・・っ」
 淡く柔らかい光に包まれて、拓海は熱を帯びた躯を持て余すように苦しげな顔をしている。シーツの上を泳ぐ拓海の口からあえかな声が洩れ、その声に誘われるように啓介は顔を寄せて固く閉じられている瞼にそっと唇を落とした。
軽く、触れるだけのキスを顔中に降らせると、拓海がゆっくりと瞳を開いて戸惑ったように啓介を見つめてくる。

 涙の滲むその目を見つめ返して、啓介は微笑した。
もう何度かこうして同じ夜を過ごしているのに、拓海は未だに啓介に慣れない。
敵わないと解っているのに小さな抵抗を繰り返し、必死で声を抑えようとする。
躯の相性は悪くないと啓介は思うのだが、拓海には解らないようだ。

「…ったく、お前は…。この手、邪魔だぜ?」
 自分の胸を押しのけるように置かれた拓海の手を捕らえて、啓介はその指先に口付ける。小さな軽いキスのはずなのに、やけに官能的なキスだ。

「んなこと、言われても……っあ、や…!」
 口答えしてんじゃねぇとばかりに啓介の唇が手首にキツク吸い付いて、拓海はブルリと体を震わせた。
───手首へのキスは欲望のキス。こうして身体を重ねる時にしか、啓介はしたことがなかった。
 また上げてしまった声が恥ずかしくて、拓海は少し口を尖らせて啓介を睨んでみる。そんなことしても、啓介にとっては煽られてるとしか思えないのだが・・・。

 拓海のモノ慣れないこういった仕草は啓介の興奮を大いに高めてくれる。
・・・だが、ほんの少し困ってもいる。優しく包むようにしてやりたいと思う時でも、何時の間にか、つい奪うように抱いてしまっているのだ。
───愛おしいと思うのに、奪いたいとも思うのは、一体何故なのか。
 触れ合いは、いつでもほんの少しの罪悪感を啓介にもたらした。もちろん、その何十倍の悦びも、もたらしてくれるけれども。

「だから…ほら、手は俺の方に廻しとけばいーんだよ。それと…」
理性はさっさと手放しちまえっ…と、啓介は耳元で囁いてそのまま息を吹きかけた。
「んっ…」
 拓海はまたギュっと目を瞑って、上げかけた声を殺そうとする。
相変わらず強情っぱりだ。でも、腕は啓介の首に巻き付き、全身で縋り付いてきた。

 啓介はニヤリと笑うと再び指を拓海の体に忍ばせる。胸の辺りを軽く撫でて、脇腹へ微妙なタッチで滑らせた。
「あっ…んーっ…け、すけさ…っ」
 ビクリと飛び跳ねる体を押さえつけて、啓介はそのまま胸へと顔を埋める。
「はっ……ん、やぁ…やめっ…ぅっ」
 胸の飾りに唇を寄せただけで拓海は根を上げたように声を上げる。でも、止めてくれと言われても今更そんな無理はきいてやれない。
「ああっ!…いっ……んっ…も、やっ!」
啓介がカリッと胸の飾りを甘噛すると、拓海はまた手を啓介の肩口に置いて自分から離そうと力を込めた。

「まだ平気だろーが。ほら、力抜けって。ココも…ココもだ!」
「や……そんなん…っムリっ…ふ…んんっ…」
 あちこち触れながら言う啓介に抗議する拓海の唇を、啓介は許さない。噛みつくようなキスで塞いで、腕の中の体を強く抱き締めた。
誰にも渡せない。今だけはこの躯は拓海のものではなく、自分のものだというように。

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