【泣きたい夜に抱きしめて】 P (啓X拓)

もう、どのくらい、こうして突っ立って、あの窓を眺め続けているだろうか?
ゆうに30分は過ぎただろう。体もかなり、冷えてきている。

・・・そろそろ帰るかな・・・
 後ろ髪を引かれる思いだ。
だが、これ以上此処に居てもどうにもならないと自分に無理やり言い聞かして、啓介はFDへと足を進めた。
 運転席のドアを開けて、もう1度だけ…と、拓海の部屋の窓を見つめる。
月の光に照らされて、少し開いた窓から揺れるカーテンが覗いていた。

「・・・おやすみ。イイ夢、見てろよ。」
 自分の夢なら、なおウレシイけれど・・・。
届かない挨拶を呟いて、啓介が車に乗り込もうとしたその時に、突然拓海の部屋が白い蛍光灯の明かりに包まれた。

───点くはずのない、部屋の灯り。

「!」
 啓介は驚いて拓海の部屋を振り返り、そのまま車のドアを閉めてまた窓を見つめた。
・・・俺に気づいた?・・・まさかな。
 でも、せめて…せめて、あの部屋の電気が消えるまでココに居よう。
啓介は切なげに目を細めて、もう1本煙草を銜えた。
 何かしていないと、動いてしまう。
あのインターホンを押して、拓海を連れ出してしまう。
 心の中から溢れそうな、胸が痛む程強くなってしまっている『会いたい』という感情を堪えるように、啓介はギュッと手を握りしめる。
 まだ数本入っていた煙草の箱は、啓介の手の中でグシャグシャになっていた。


 思考がハッキリしない、おぼつかない足取りで、拓海はまた部屋へ戻ってきた。
水で潤した喉に満足して、ベッドに軽く腰を下ろす。
・・・何か、目ぇ、冴えちゃったなぁー。
 一体、どうした事だろうか?
らしくない自分に、拓海は少し考えこんだ。
何だか、不思議な気分である。コレが俗に言う『胸騒ぎ』とか言うモノだろうか?

 何をするでもなく、ボーッとベッドに座っていた拓海は、不意に自分の体に冷たい空気が当たったのを感じて、小さくブルリと体を震わせた。
 条件反射で窓を見ると、少し開いた窓から吹き込む風に、カーテンが少し揺れているのが目に映る。

・・・アレ?窓、開いてたんだ。・・・ちぇっ、だから喉乾いたのかー。
 目を覚ました元凶に気付いて小さく溜息をつくと、拓海は窓に近づいて窓を閉めるのに邪魔なカーテンを少し開いた。
 その時、窓の外に或るほんの小さな光に、拓海の目が吸い寄せられた。
いつも見えないモノには、人間敏感なモノである。
特に、こんな風に闇が拡がる時間には。…動物の本能というヤツだ。

・・・なんだぁ?アレ・・・

 不信に思い目を凝らした拓海は、そこに思いがけない人物を見て、今度は驚きに目をひん剥いた。
───先程の小さな光の正体は、その人物の手にある煙草の火であったのだ。


 拓海の部屋の電気が点いて、啓介は切望するようにじっと、その窓を見つめ続けていた。
あの窓さえ開けば、自分は拓海を見ることが出来る。───拓海に会う事が出来る。

 でも、やはり、声をかける事は出来なかった。
拓海の眠りを邪魔したくないという気持ちが半分。
そして、今の不安定でカッコ悪い自分を見られたくないという気持ちが、もう半分なのかもしれない。
 会っても会わなくても、後悔しそうだ。
だから、らしくないと解っているけど、啓介は運を天に任せることにした。
そして、祈るような気持ちで、部屋の窓を見つめ続ける。

 会いたいと願う啓介と、会うべきでないと思う啓介。
運命の天秤は、どうやら前者に傾いたようである。

 窓の外に居る自分に気付いた拓海は、慌ててその窓を開いて吃驚した顔をしている。
「よお。」
 軽く手を挙げて、啓介は拓海に挨拶をした。
「?・・・啓介さん?・・・なんで?」
 朝はともかく、夜は必ずTELを入れてくる啓介なのに、一体どうしたというのだろうか?
思わず、疑問を口にした自分に啓介が苦笑したのに気が付いて、拓海はハッとしたように窓から乗り出していた体を引いた。
何とかいう演劇でもあるまいし、とても人と話をする体制ではナイと気付いたからだ。

「と…とにかく、今降りますから!」
 そう声をかけると、拓海は部屋の電気も開いた窓もそのままに、脱兎のごとく部屋を後にした。

 そーっと音を立てないように外に出ると、拓海は啓介の側に駆け寄ってきた。
急ぎすぎて、少し息が上がっているようだ。
「・・・悪い。起こす気は無かったんだ。」
勘弁してくれ、と、苦笑しながら啓介は拓海に謝った。
「別に・・啓介さんのせいで起きたわけじゃナイですから。」
 その拓海の返答に、啓介は安心したような残念なような、複雑な気持ちである。

「それより!・・どうしたんですか?こんな時間に?」
 コレが本題!とばかりに焦って尋ねてきた拓海に、啓介は微笑した。
ニコッと口元だけで小さく微笑む。
───それは、拓海が初めて見る、啓介の寂しげな微笑みだった。
「?・・・けーすけさん?」

 いつもと同じ拓海だ。
自分の突然の行動に戸惑っている様まで、いつも通りだ。
当たり前の、そんなコトが、こんなにも嬉しいと思うなんて・・・・。

「・・・ゴメン!」
 言いながら、啓介は側にいる拓海の体を強い力で引き寄せると、きつく抱き締めてしまった。 
会ってみると温もりを確かめたくて仕方なかった。
いや、きっと初めから、自分はこうしたかったのだろう。
 抱き締めた体は温かかった。堪らないほど、それが嬉しい。
涙が出そうなほど嬉しくて、啓介はさらに強く拓海の体を抱き締めていた。

「!・・・啓介さん?!」
 突然抱き締めたりするのはいつもの事だけど、今夜の啓介はドコかいつもと違っている。
らしくない啓介に、拓海は酷く戸惑った顔をした。

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