【幸せな夜、お寝坊な朝】 P7 涼X拓! 涼子姉ちゃん、6000Hitアリガトウです!
「涼介、啓介。そろそろ出ないと…。」
史浩が促すように声をかけてきた。気づけば店の中にはもう自分達だけである。
「おう!…アニキ…っ、て、おい……」
手を挙げて史浩に返事をした啓介は、兄を促そうと振り向いた。するとソコにはもう、ちゃっかり拓海に上着を掛けてやり自分も上着の袖に腕を通そうとしている兄がいた。
・・・ったく、やってられねぇぜ。けっ!
ちょっとヤサグレてしまった啓介は自分も上着を羽織ると
「じゃーな。…そいつ、明日も配達あんだろ?さっさと帰してやれよ!!」
と声をかけつつ、さっさと店を後にした。これ以上つきあてられるか!というトコロだろう。
───カランカランッ
本日、最後の客を送り出して、店のドアのカウベルは高らかな音を立てた。
涼介・拓海・史浩の3人が出てすぐ、店の中はカーテンが閉められる。
「じゃあ俺も帰るよ、涼介。…藤原君もまたな。」
「はあ。…お、おやすみなさい。」
「じゃあな、史浩。俺はもう少し、コイツの頭が冴えてから出るから。」
右手を挙げて挨拶をした史浩に、拓海はペコリと頭を下げて挨拶した。冷たい外の空気に当たってかなり頭が冴えたようである。でも表情は相変わらずボーッとしていた。
★☆★☆★
史浩の車がその場を去り、涼介と拓海はしばらくソコに佇んでいたが、涼介は「車取ってるから…」と拓海の耳に囁いて側を離れた。
「…なんか…変なカンジ…」
さっきまで、あんなに人が居たのに、今はレストランのツリーの横に一人佇んでいる自分が不思議になって拓海は呟いた。
「どうした?拓海…何が変なんだ?」
自分一人しか居ないと思ったのに、何時の間に戻ってきたのか、涼介から声を掛けられて拓海は驚いた。
「どうした?」
サラリと前髪を撫でられるのが気持ちいい。やっぱり、まだ少し火照ってるみたいだと頭のドコかで思いながら拓海は猫のように眼を閉じた。
「ん……なんか、さっきまで皆居たのに…寂しいなって…」
「寂しい?…俺が居るのに?」
微笑を浮かべてそう言う涼介に、拓海はパチパチと眼を瞬かせた。そして、涼介と同じく微笑んでみせる。
「そっか……涼介さん、居たんだ。」
「ヒドイな。俺を忘れていたのか?」
「そんなコト…ナイですけど。」
だってさっきは居なかったから…とぶつぶつ言う拓海に涼介は冗談さ、と微笑んだ。
「…それより、拓海。訊きたいコトがあるんだが、イイか?」
「訊きたいこと…ですか?」
「それは?…見たところ本のようだけど。」
拓海が胸に抱いている書店の袋に包まれたモノを指さして涼介は尋ねた。さっき拓海の上着と一緒に置いてあったものである。
「はぁ。本ですけど。」
だから、ソレはわかてるよ、バカ!と、啓介なら突っ込んだだろう返事を返して拓海はキョトンとした。
「…いや、それは解ってるんだけど。」
苦笑した涼介に、拓海はまた首を傾げた。
「…なんかウチの車の本だって言って、渉さんがくれたんすよ。俺、前から車のこと勉強したいって言ってたの、覚えてたみたいで。」
その言葉に、涼介は苦笑を深くした。
「なるほど。……先を越されてしまったな。」
何となく、そんな気がしていたのだが、予想は見事に当たったらしい。
「先?…何のことですか?」
「いや。こっちの話だ。……それより、ちょっと見せて貰っていいか?」
この本は、渉から拓海へのクリスマスプレゼントなのだろう。きちんと包装されていないところを見ると、かなり大ざっぱというか飾らない人物らしい。
「はい。もちろん、いいですよ。」
拓海は本を袋から取り出して、涼介に差し出した。「有り難う」と礼を述べて、涼介はその本に軽く眼を通してみる。
「いい本だ。拓海に合わせて、分かりやすい易しいのを選んでくれてる。・・・イイ奴なんだな。」
微笑してそう言った涼介に、拓海は嬉しそうに笑った。
「はい…ちょっと、強引すぎるトコあるけど…イイ人です。それに、すげー、速いし。でも、何か刃向かいたくなるってゆーか、つい反発したくなっちゃって。」
自分でもよく分からないらしく、拓海はうーんと頭を傾げた。
「そう言えば、拓海の友人も言ってたな。拓海は渉さんには変な口きいてるって。」
「え?!…あ、樹のヤツだな〜!!」
ココにいない友人に、拓海はちぇっと舌打ちした。覚えてろよ!というカンジだ。
「先越されてしまったけど、俺もあるんだ。」
「…だから先って…」
何ですか?と訊こうとした拓海に、涼介はどこから出したのか、柔らかいモノを拓海の首に掛けた。
「クリスマスプレゼント。」
涼介はドコか嬉しそうな顔をしてそう言った。
それは上質の、萌葱色のマフラーだった。以前、涼介がしていたものと色違いのものだ。余り華美ではないが、触れてみるととても優しい肌触りで高価なモノであることがわかる。
涼介の予想に反して、拓海は何故か浮かない表情を浮かべた。
どんな風に喜んでくれるだろうか?と楽しみにしていた涼介は、なぜ拓海がこんな顔をするのか解らなかった。でも、そう言えば、時々、こんな風に元気がなくなる事がある。
「どうした?気に入らないか?」
このマフラーは以前涼介が拓海に掛けてやったことがあるものだ。拓海はあの時、とても暖かいと嬉しそうに微笑った。だからきっと、今度も喜んでくれるはずだと涼介は思っていたのだ。
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