【幸せな夜、お寝坊な朝】 P4 涼X拓! 涼子姉ちゃん、6000Hitアリガトウです!
2人の様子を、窓際にいた者たちは全部眺めていた。
「なかなか入ってこねぇなー」とか「誰だ?あのハチロクレビンは?」とか、様々な声が飛び交っている。
「・・・何か、拓海君相手だとちょっと危ない構図かも…。」
沙雪が真子にこしょこしょとそう言うと
「ちょっ…何言ってんのよ、沙雪!」
真子は赤くなりながら、窘めるようにそう返した。だが、やはり沙雪の言葉を否定しない。
涼介は何も言わず、黙って拓海の様子を見つめていた。
「おい…アニキ。余裕ぶちかましてねぇで、迎えに出た方がいいんじゃねーか?」
渉の存在に心乱した兄を目にした事があるだけに、啓介は忠告するようにそう言った。
「いや……何か話をしてるようだし、邪魔をするのも悪いだろう。このまま……待とう。大丈夫、すぐに来るさ。」
───そう、大丈夫。今はもう、心は乱れない。穏やかだとは言い切れないけれど、もう自分を見失うような事はない。
涼介は窓の外に居る拓海の姿を見つめながら、自分の心を客観的に分析した。拓海は上着を手に掛けたまま、寒そうに立っている。ホントは駆け寄って、抱きしめたいくらいだけれど、それが逆に涼介を安心させた。上着を着ないのは、きっとすぐにココに来るつもりだからだ。
そんなこんなしているウチに拓海がまた車を離れて、今度こそハチロクはその場を後にした。窓から1回手が振られて拓海はぺこっと頭を下げると、車に背を向けて急ぎ足で店の方へと歩いてくる。
───カランカランッ
店のドアに飾られたカウベルが、本日最後の来客者を迎え入れる。秋名のハチロクこと、本日最も重要な人物である藤原拓海だ。
「こんばんはー」
きちんと挨拶をして店の扉をくぐった拓海は目をパチクリさせた。池谷はホッとしたように拓海に駆け寄る。
「よかったよー、拓海!俺、お前来ないのかと思って……おい、拓海?拓海?どーした?」
「え?……いや、皆、ドアのトコ来てるから……もしかして、もう終わりなんすか?」
シュンと眉を下げてそう言う拓海に、啓介は爆笑した。
「ぷっ…ぶ、ははははっ…お前って相変わらずマジボケ!んなワケねぇだろ?皆、お前を迎えてんだよ。」
「何だ…よかったぁ、終わってなくて。……って、マジボケって失礼だなー!俺のドコが!」
ほっと安心したように息をついて、続いて目を吊り上がらせて反論する拓海に、悲しいかな誰も味方はしてやれなかった。そう、親友である樹でさえも…。
「まあ、ソコが拓海の良いトコってゆーか、味のあるトコなんだしさ……そう、目くじら立てるなよ、な?」
ハハハ…と乾いた笑いと共に健二がフォローしたのだが、全然フォローになっていない。ついでとばかりに健二も拓海にギロッと睨まれてしまった。
そこにツカツカと涼介が前に進み出た。一瞬真っ直ぐに拓海を見つめて、すぐに瞳を和ませて微笑する。一瞬のこの間がポイントなのだ。
拓海はその微笑に目を奪われて、さっきまでの人相はドコにやら、見事にいつものポヤポヤ拓海に戻ってじっと涼介の目を見つめ返した。拓海と視線が合って、涼介は笑みを深めるとスッと手を差し出した。
「ようこそ。…待っていたぜ、藤原。来てくれて嬉しいよ。」
皆の前なので、呼び名は名字である。
「…はあ、……えーと、…んーと、…お招き有り難うございます?」
これでいいのかな?というカンジで、拓海は棒読みするように言うと差し出された手を取った。秋名の人間のボキャブラリーはどうやら似ているらしい。先程の池谷と同じセリフである。
「そう固くなるなよ。…まずは場所を変えよう。寒かっただろ?」
涼介はくすっと笑って、取った手を離さずに拓海を中央へと連れていった。その辺りにはアンティークな暖房器具が置いてあり、とても暖かいからだ。
ストンと示された席につくと、拓海はホッと息をついた。間髪入れずに横からマグが1つ差し出される。
「飲めよ。暖まるぜ?」
差し出したのは啓介だ。うんと頷いて、1口飲むと拓海は変な顔をした。
「啓介さん…何すか?これ!」
「何ってホットミルク。お前にちょーどいいだろ?」
からかいを含んだ声でそう言われて、拓海はむーっとした。
「俺…ガキじゃねーんだけど…。」
「ん?…ナマイキ言ってんじゃねーよ。高校生はまだガキだよ、ガーキ!別にいいじゃねーか、旨いだろ?それ。」
鼻先に人差し指を突きつけてガキガキ言われたのはムカつくけど、確かに暖くてちょっと甘いミルクは美味しい。むすーっとしながらも、拓海は両手でマグを持ってコクコクと口に含んだ。
思っていたよりも、喉は乾いていたらしい。あっという間に拓海はそれを飲み干した。マグを離して顔を上げた時、ニコッと笑ったその顔に皆が惹かれた。思わずほわっと笑った者とちょっとドキドキした者と。
───どちらにしろ、犯罪的に可愛いと皆が思ったことは言うまでもないだろう。
「満足したか?それとも、もう1杯飲むか?」
「…え?…い、いえ、いーです。ごちそう様です。」
ふわりと微笑しながら涼介にそう聞かれて、拓海は首を横に振ってそう返した。結局夢中でミルクを飲んでしまった自分がほんの少しだけ恥ずかしくて、照れたように頬を染めている。
「まだ何も食べてないだろ?何か取ってきてやる。ここに居ろ。」
所謂バイキング形式のパーティーなので、食べ物は各自で取ることになっている。拓海が『え?』っと思う間もなく、涼介はその場を離れていた。
「拓海……お前、高橋涼介に給仕してもらうかぁ?普通…」
樹が呆れたようにそう言ったが、それは啓介がさっさと否定した。
「いーんだよ!兄貴が好きでやってんだから。…ソレより、藤原!」
啓介が拓海に何か尋ねようとしたその時、ドーンというカンジで誰かが後ろから抱きつき、拓海の頭を抱えた。
「やっほー、拓海くん!久しぶり!私、解る?」
「ちょっと、話中に失礼じゃない。……ゴメンね?拓海くん。」
「…沙雪さんと真子さん?…お久しぶりっす。」
真子によって沙雪の腕が外されたので、拓海は首だけでクルリと振り向いて挨拶をした。
「いや〜ん、覚えててくれたのね!拓海くん、相変わらず可愛いー!」
「可愛いって……男に言う言葉じゃないっすよ…それ。」
分かんねぇ…という顔で拓海は首を傾げた。男ならまだしも、女性相手では拓海も本気で怒るわけにはいかない。この時、女はいいよなーと思った男達が数人いたのは、拓海の与り知らぬトコロである。
「可愛いモノは可愛いのよ。お姉さんが言うんだから間違いない!」
「・・・おい、お前ら、知り合いかよ?」
碓氷の2人と拓海に、啓介は問いかけた。周りの者達も耳ダンボでココの話を伺っている。単に拓海ウォッチングに熱心な奴らも大勢いたが、当の本人は何も気付いていなかった。
「は?…うん、まぁ、前にバトルしたコトあるし…。」
なあ?というカンジで拓海がそう言って、ウンウンと碓氷の2人が頷いた。
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