【幸せな夜、お寝坊な朝】 P3 涼X拓! 涼子姉ちゃん、6000Hitアリガトウです!
渉という男に対する拓海の口調にも興味は有るが、今、涼介の心を占めるのはただ一つだった。
「藤原は…本当に来るって?」
涼介は、樹をじっと見てそう尋ねた。
件の男と逢っていると聞いては、涼介が気になるのも仕方ないだろう。
「えっ?…いや、絶対とは言ってなかったけど……でも、拓海の奴、今日のコト、結構楽しみにしてたし…」
樹のそのセリフに、涼介は苦笑した。
「俺が誘った時は、余り乗り気ってワケじゃ無かったようだったけど…?」
そう返されて、樹はホケッ?とした顔をした。
「え?そうっすか?…うーん、初めはそうかもなぁ。でも、ここ2,3日、何か浮かれてたってゆーか、…嬉しそうな顔してましたよ?俺、アイツと付き合い長いし、そーいうの何となく解るんすよ。来ますよ。きっと。」
拓海は表情が読みにくい。でも、長い付き合いの樹には、ほんの少しの変化でもピンとくるのだ。
「そうか…。」
今、渉と一緒に居るだろう拓海の気持ちと、樹の今の言葉を信じようと決めて、涼介はほんの少し口元に笑みをはいた。啓介以外の近くにいた面々は涼介のそんな貌を見たのは初めてで、一瞬びっくりしたものの、
「じゃ、始めていよう。」
次に目にした時は、もういつもの涼介で、『アレ?今のは錯覚か?』と首を傾げつつ彼の後について店の中央へと場を移したのだった。
───それから、30分後。
「どうしたんだ?アニキ。」
窓際に居た涼介の動きが、ふと止まったことに気付いた啓介が涼介に声をかけた。
「ん?……ああ、車が近づいてるんだ。それらしい音が聞こえる…。」
このレストランの防音は大したモノなのだが、兄の聴力はそれをかなり上回っているらしい。それとも、拓海を想う余りの空耳だろうか?
「え?ドコだよ、何も居ねぇ……っと、ホントだ、何で分かったんだよ?アニキ」
急いで窓を覗き込んだ啓介の目にはその時、何も映らなかった。だが言ってる間に車の姿が目に飛び込んできた。確かに、それらしい車が1台近づいてきている。
「…いや、何となく。…勘かな?多分…拓海だ。」
啓介だけに聞こえる程度の声で、フッと微笑しながら涼介はそう言った。相変わらず、涼介の拓海センサーは優秀な様である。
「んなこと言って、乗ってなかったらどうするよ、アニキ?」
兄のその様子に、啓介はからかうようにニヤニヤと笑った。それに対しても、涼介はフッと余裕の態度で微笑しただけだった。
「ちえっ!余裕ぶりやがって……」
からかい甲斐ねぇなーっいう啓介のグチと、
「あ!…やっぱり、渉さんっすよ、アレ!拓海、来た来たーっ!」
という樹の声はほぼ同時だった。
間もなく、形と音が確認できるまで近づいたハチロクレビンを見て、啓介は、ん?あれ〜?という顔で首を捻った。
「あーっ!あのハチロク!アニキ、俺知ってるぜ、アイツ。そっかー、アイツが噂の『渉さん』かよー!」
啓介が大きな声で騒いだので、皆が何だ何だと近づいてきた。又しても、窓は走り屋たちで鈴なり状態である。明日の掃除は窓に指紋がいっぱいでさぞ大変だろう。
「知り合いか?啓介?」
「ああ。前にケンタと転がしてた時、絡んできやがったんだ、アイツ!赤城でこの俺に、だぜ?」
ニヤリと笑って啓介は自分を親指で指さした。
「それで、どうなった?」
赤城で啓介が負けるとは思えない。余裕な態度を崩しもしない勝ち気な啓介に、それでも詳しい話を聞こうと涼介は突っ込んだ。
「俺が負けるワケねぇって言いたいトコだけど、あん時は邪魔が入ってチャラになったんだよ。…アイツ、結構速ぇぜ?アニキ。ハチロクなのに上りで俺について来やがったからな!…まあ、負けねぇけどな、俺は。」
ギラギラと啓介の瞳に力強い輝きが灯った。涼介にも覚えのある、好敵手を見つけた時の輝きだ。涼介は瞳を閉じ、口の端を少し上げるだけの笑みを見せて啓介の言葉に頷いた。
「あ。やっぱ拓海だっ!出てきたっすよぉー、池谷先輩っ!」
近くにいた池谷に報告するようにそう言った樹の声を耳にして、皆がハチロクレビンに注目した。
助手席から降り立った青年と呼ぶにはまだ幼さを残した拓海の姿を見て、
「ええーっ!アレ?アレが秋名のハチロクか〜?嘘だろぉ?まだガキじゃねぇのかよー?」
まだ拓海を見たことのない奴はそう叫び、
「アイツ、アイツだよ!うおー、やっと間近で拝めるぜ!」
遠目で見たことのある奴らはそう叫んでいた。
一方、拓海とのバトル経験者の中にはこんなシーンも見られたのだが・・・。
「いや〜ん、拓海君ったら相変わらず超可愛いー、ねぇ、真子!」
「ちょっと沙雪、止めなさいって。…でも、確かに…。」
あーん、おもちゃにしたいーって感じで遠慮なく叫ぶ沙雪を真子は小さな声で止めた。だが、真っ向から沙雪のセリフを否定できなくて、真子は拓海を眺めながらウンウンと肯定している。
「送ってもらっちゃってすんません。」
ぽりぽりと頬を掻きながら、拓海は開けられた運転席の窓を覗き込んで渉に礼を述べた。
「いや…俺の方こそ悪かったな。イキナリ来て……次は気を付けるから。」
その拓海に、渉は何やら苦笑しながらそう答えた。さりげなく、次の機会があると告げているセリフに、拓海は全く気付かなかった。
「?……何だよ?何が可笑しい…んすか?」
苦笑の意味を尋ねてきた拓海に、渉はレストランを指さした。正確には窓際に鈴なりになっている者達を、だ。
「レストラン?渉さんも行きたいんですか?パーティー…」
「分かんねぇかなー?アレが…。お前、やっぱ鈍いぜ、かなり。」
違う違うと首を振って我慢できないようにゲラゲラ笑い始めた渉に、拓海はブスーッとした顔をした。
「…んだよっ!そんなん、あんたに言われる覚えねぇーよっ!」
唇を尖らせて言って、ぷいっと横を向いた拓海に渉はまた苦笑する。
「まぁ…そう尖るなって…。ほら、もう行けよ。店に入ったら分かるから。」
「…ったく、何言ってんのか全然わかんねぇよ。…ま、いーや。もう。」
「あ、おい!…ちょっと待った!」
そう言ってブスっとしたままハチロクを離れる拓海を、渉が窓から手招きして呼び寄せた。
「…?何っすか?」
再び車の側に寄った拓海は、渉の声をちゃんと聞こうと顔を運転席の方に寄せる。エンジンの音がうるさくて、顔を寄せないと聞こえないのだ。
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