【恋の予感】 P8 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)
今度は啓介がポカンとする番だ。
───おそらく、いや間違いなく、啓介が初めて見る拓海の笑顔だ。
くすくすと、拓海に笑い続けられて、啓介は何だか恥ずかしくなってきた。
・・・オレってそんなに変かなー?と、思いつつ、
「しょーがねぇだろ?びっくりしたんだよっ!」
と言って、今度は啓介はぷいっと横を向いた。その頬はほんの少し赤い。
まさにどっちもどっち……の2人である。
「で、今日はどうしたんですか?また、走りに来てたんですか?秋名まで?」
きょろきょろと拓海は周りを見回した。他のメンバーを捜しているのだ。
「違う。オレはお前に会いに来たんだ。」
啓介は、きょろきょろしてる拓海の顎をくいっと取って、自分の方に向けさせた。
拓海はまた、じっと啓介の目を見る。
・・・やっぱ、でっけー瞳だなーこいつ。あ、髪は茶なのに目は黒なんだなー。
拓海の顎を掴んで目を覗き込んでる自分にハッと気が付いて、啓介は慌てて手を離してあたふたした。
「わ…悪ぃ。」
・・・?何か、やっぱ変な人だなー。まぁ、嫌な人ってワケじゃないし、いっか。
拓海は、ぼーっと啓介を見たまま、そんな事を考えていた。
「オレに何か用っすか?」
自分に会いに来たと言った彼に、拓海は単刀直入に用件を訊いた。
「いや…その、だから会いたかったんだよ。こないだは、何かケンカみてーになっちまったし。あん時は…突っかかって悪かったな。悪気はねーから、勘弁してくれ。」
ペコリと啓介は頭を軽く下げた。
拓海はびっくりしたような顔で啓介を見て、今度はクスリと声を立てて笑った。
瞳を嬉しそうに細めながら。
啓介は知らないが、親友のイツキでも滅多にお目にかからない、拓海の極上の笑顔である。
もちろん、啓介はその笑顔に目を奪われた。初めて本当の拓海に接したような、そんな気がしていた。
「別に…気にしてませんよ。でも、変な人っすね〜。そんなこと言う為に、わざわざこんな朝早くこんなトコまで来るなんて。・・・えっと、高橋さん?」
「啓介だ。」
どう名前を呼んでいいのか、一瞬戸惑いをみせた拓海に、啓介は間髪入れずに名前の方を告げた。
───名字ではなく、名前で呼んで欲しかった。
「・・・え?・・・でも、年上・・・」
「アニキも居るからな。名前で呼んでもらわねぇと分かんねーだろ?」
「あ・・そうか。・・・じゃ、啓介さん?」
「おう!それでイイぜ。」
呼ばれて、啓介はニカッと嬉しそうに笑ってみせた。向日葵みたいな明るい笑顔に拓海の方が戸惑ってしまう。でも好感度はかなりUPしたようで、拓海も無意識に笑顔を返したのだった。
「オレの方こそすいません。啓介さんの事、何かヤな人かな〜って思ってたから。
・・・オレ、苦手な人にはスッゲー態度悪いから・・・。」
拓海もペコリと頭を下げた。これでおあいこだ。
拓海のその台詞に、啓介はやはりそう思われてたか…と思いつつ、
「で、今は?・・・オレってヤな奴?!」
普通聞くか?そんな事…と、思うような事を啓介はマジで訊いた。
ぷっと拓海は吹き出した。
「イヤじゃないですけど…啓介さんって何か変!普通訊きますか?そんなの。」
どうやらツボに填ったらしく、拓海は笑い出した。
笑顔はやはりイイ。思ってたより、ずっとずっと可愛い。
「悪かったな。・・・気になんだからしょーがねぇだろ。笑うなよ。」
笑顔は嬉しいが、何だか手玉に取られているようで啓介は少し悔しかった。
「はい。…すいません。」
謝りながらも拓海の笑いは収まらない。
・・・何だかなー。何やってんだ、オレ・・・
ふぅっと啓介は溜息をつき、再び拓海の笑顔を見つめて、まぁいいや、と思ったのだった。
「あのさ…」
拓海の笑いが収まったのを見計らって、啓介はごくりと唾を飲み込んで呼びかけた。
───そう。彼はまだ、ココに来た『本来の目的』を果たしていないである。
・・・がんばれ、オレ。ココで言わなきゃ男じゃねー!!
心で自分を励ましながら、啓介は自分の方を見つめる拓海に言った。
「オレ…お前が好きなんだ。だから…その、友達からでいいから、オレの事好きになってくんねーか?」
真っ正直に、啓介は自分の気持ちを一気に告げた。
・・・やった。言っちまった。後はコイツがどう出るかだ。
最悪、殴られる覚悟くらいはして、啓介はじっと拓海の反応を待った。
拓海は…と言えば、ぼけっと啓介を見ているように見えるが、実はまだ頭の中で啓介の言葉を反芻していた。
・・・好き・・・友達・・何だ、そーいう意味か。あー、びっくりした。
と、まあ、こういう回路で結論に達した彼は、のんびりとした口調で返事を返した。
「はぁ、友達・・・オレでよければいいですけど、やっぱ変わってますね。啓介さん。」
「何で?」
「だって・・・普通、大人って、面と向かって友達になろう…なんて言わないっすよ?
ホント、啓介さんって変わってる。」
「そ、そうか?」
ぽりぽりと、啓介は照れくさそうに頬を掻いた。
「でも、面白いし・・・オレそーいうの好きかも・・・。」
「え?」
「あ!ヤベ、もうこんな明るくなってる!・・・オレ、行かなきゃ。」
思わぬ爆弾発言に驚いた啓介には全然気付かずに、拓海はハッとしたように辺りを見回した。この後、拓海は学校へ行かなければならないのだ。
「じゃ、オレ、もう行かせてもらっていいっすか?」
慌ててそう言う拓海に、啓介は半分呆けながら、「ああ」と返事を返した。
さっきの拓海の爆弾が、まだ効いているようだ。
「それじゃ、また。」
ニコッとまた、極上の笑顔をみせて、拓海はレビンに乗り込むとものすごい速さで秋名の山を駆け下りて行った。
「・・・アイツ、もしかして結構、小悪魔かも・・・」
言葉や笑顔を出すタイミングが、何とも啓介の弱いトコロを突いてくれる。
1人残されて、ぼそっとそんなコトを呟いた啓介は、顔を赤く染めながら、心中で拓海に白旗を振っていた。
───『先に惚れた方が負け』
誰かが言ってた、そんな言葉の意味を、身をもって知った啓介だった。
<< BACK NEXT
>>
|