【恋の予感】 P6 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)
「・・・男だから?だから恋じゃダメなの?友達でないとダメなの?」
「え?」
思ってもみない母の言葉に、啓介は驚いたような顔をした。
「だから!男だからダメなの?って訊いてんのよ!」
この耳は飾り物なの?と、母は容赦なく引っ張った。
「・・・って、普通ダメだろーが!」
と言った啓介に、フンと鼻息を荒くして母は仁王立ちになった。
「そんな事、誰が決めたのよ。世の中、ゲイなんていくらでも居るじゃない。」
オイオイ、普通は息子が道を踏みはずしそうになったら止めねーか?
啓介はそう思いながら、ガクリと首を落とした。
・・・やっぱり、ウチの親って変わってるかもしれねぇ。
「大体、普通って言葉に逃げてんじゃナイわよ!ホントはフラれて会えなくなる事が怖いんでしょ?」
母の言葉に、啓介は顔を上げてその目を見つめた。どうやら図星だ。
「啓介。どんなに頑張ったって恋は消えるモンじゃないわよ?だって、恋は頭でするモンじゃない。ハートで感じるモンなんだからね。」
身を起こした啓介の胸を、母はポンと叩いた。
「消えねぇモンなのか?…でも、オレ今まで結構あっさり冷めてたんだけど。」
「バカね。あんた、それは恋じゃナイわよ。ハートが初めから熱くないんだから。」
言われて啓介は考えた。…確かに、今の気持ちとは違うものだった。
「恋するとヤな事もいっぱいあるわよ?相手を貶めてるような気にもなるし、独占欲で自分がイヤになる事もある。…でも、それを補って余りあるモノもあるわね。後悔の無い恋ならね…。今のあんたは最低の恋よ。そんなの辛いだけじゃない。」
言い返す言葉も無い。流石は年の功だ。…言ったらぶっ飛ばされるだろうけど。
「勇気が無いなら諦めなさい。じゃないと相手にだって失礼ってモンでしょう?
大事にしたい人なら尚更、自分の気持ちにウソなんかつくモンじゃないわよ?」
その言葉に啓介はぐっと唇を噛んだ。・・・諦めるなんて、出来るわけ無い。
ならば、どうすればイイというのか。答えはもう解っていた。
解っていたけど、啓介は言葉に出してみた。甘えてると解ってるけど、誰かに背中を押してほしいと思ったからだ。
「・・・じゃ、どーすればイイって言うんだよ。」
啓介のその言葉に、母の返事は容赦ない。
「あんた、バカ?諦められないならチャレンジするしかないでしょう?何の為に走り屋なんてやってんの?コーナー挑む時の気持ちでガツンと行けばイイのよ!
ガツンと!!・・・一応、イイ男に産んであげたんだからネ、顔はバッチシよ。
後はその情けない中身だけ。そこまでは母さんも面倒見切れないからネ!」
この母と話していると、何だかさっきまで悩んでいた自分がバカみたいに思えてきた。よくもまぁ、こうあっさりと言ってくれるものだ。
でも、確かに…自分は恐れていただけなのかもしれない。恋をした事にではなく、嫌われるのが怖いなんて、我ながら情けないモノである。
「・・・すげぇや。一応やっぱ母親なんだなー」
自分でも知らない自分を、あっさりと見抜いた母に啓介は素直に感心した。
だが、このセリフは母のお気に召さなかったらしい。
ドカッと1発、今度は蹴りを入れられた。見事に鳩尾に決まる。マジでこの母は容赦が無い。
「ってーな!何すんだよ!」
文句を言う啓介に、
「何ってバカ息子を蹴ったに決まってんでしょ?」
言って、何処に隠し持っていたのやら、チャラッと啓介の目前にキーをぶら下げた。
啓介の愛車・FDのキーである。
驚いた顔で見つめる息子に、母親はニッと笑いかけた。
啓介がよく見せる、強気なニュアンスを込めた笑い方だ。
「どうせ、家ん中に居たってイイセリフなんか浮かばないでしょ?大好きな車ん中で好きなだけ告白のセリフでも考えなさい。こんなトコでウジウジ悩むより、その方がずっとイイでしょ?」
きっと、コレを自分に渡す為に母はこの部屋に来たのだろう。
そのワリには、かなり長いおしゃべりをしてくれた。・・・だが、そのおしゃべりのお陰で自分は浮上出来たのだ。
差し出されたキーを啓介は受け取った。
嬉しそうに、それを握りしめる。FDは、どんなコーナーを攻める時でも、いつでも自分と一緒に居てくれた力強い味方である。
「サンキューな!」
礼を言いながら、啓介はダッシュで部屋を飛び出した。
思い立ったら、即決実行!それがいつもの高橋啓介なのである。
「バーカ息子。」
溜息をつきながら見送る母の目は、セリフを裏切って嬉しそうに笑っている。
「なかなか、上手くやりましたね、母さん。流石は、年の功ってトコかな?」
呑気に言ってはイケナイ一言を言いながら続きの間から出てきた長男を、母親はギロリと睨み付けた。
「・・・あんた、いつからソコに居たのよ。」
「もちろん、初めから。」
ニコリと笑いながら言う長男の首を、母親は本気で絞めたくなった。
「だったら、何とかしなさいよねー。今頃ノコノコ出てきても遅いのよ!」
「俺が出ると多分、逆効果かな?と思って。それに、あっさりと藤原を手に入れられるのも面白くないし…な。」
にっこりと、涼介はわざとらしく笑ってみせた。
「藤原って言うの?あの子の相手。・・・ね?どんな人なの?」
「どんな人・・・って言われても、まぁ、啓介を虜にするだけはある…かな。」
脳裏に拓海の姿を思い描きながら、涼介はそう言って小さく微笑んだ。
息子のその表情に、母はピンとくる。
「何よ。あんたも満更じゃなさそうね。」
「…填ったら結構ヤバイですよ、アイツは。多分、啓介みたいに抜けられなくなる。
走り屋の憧れってヤツを全部持ってて、なおかつアレだけ可愛いとなれば…ね。」
オレはヤバイ物には手を出さないけど・・・と両手を軽くあげる涼介の前半のセリフを、母親は見事にスッとっばして聞いていた。
「何ですって!・・・『可愛い』?可愛い子なの?あんたが言うならよっぽどね。きゃー、でかした、啓介!きっちりモノにしてくるのよー!!」
ぐっと握り拳を作って目の前に居ない息子にエールを送る母親を見ながら、涼介は深い深い溜息をついた。
・・・やっぱり、ウチの親はかなり変だな。今回はこの母で助かったけど・・・
今後、もし啓介が拓海をGet出来たとしても、この母との騒動はますます回数を増すだろう。
・・・ま、受難はこれからってコトだな。がんばれよ、啓介。
涼介はこっそりと、母親とは違うエールを啓介に送ったのだった。
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