【恋の予感】 P5 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)

(SCENE 3 啓介の悩み)

「はぁー」
 啓介は大きな溜息をついて、リビングの机に突っ伏した。
 ここ2〜3日の啓介はずっと、こんな調子だ。
ハッキリ言うと、拓海への恋心を自覚して以来、ウジウジと悩んでいるのである。

・・・いくらなんでも、こりゃねーだろ〜神様。
 柄にもなく、苦しいときの神頼みまでしてしまう。
それくらい、啓介は困っていた。

 自慢じゃ無いが、啓介はモテる。
そして、それなりにいわゆる『おつき合い』というものもこなしてきたのだ。
・・・ただし、もちろん女性とである。男を相手にしたことも無ければ、男相手にその気になった事もない。

・・・なのに、何でアイツなんだよ〜
 恋をしてしまったのは自分なのに、啓介はグジグジ言わずに居られなかった。
───コレは、してはイケナイ『恋』だと啓介は思っていた。

 『藤原拓海』の位置は、涼介と同じく啓介が追いかける走り屋であるはずだった。
興味があるし、ライバルになりたいし、出来れば友達になりたいとも思った。
・・・なのに、何故『恋』なのか?
 啓介は自分が信じられなかった。何だか拓海を汚してしまうようで、自分がすごくイヤだと思った。

・・・こんなハズじゃねぇ!なんで・・・何でなんだよ!畜生!!
 コレでは拓海に近づけない。
何をするか解らない自分も怖いし、何より嫌われるのがもっと怖い。

「はぁー」
「何よ啓介、まだ凹んでんの?あんたって子は、ホント情けないわ。・・・男ならもっとシャキッと決めなさいよ!シャキッと!・・・ったく。」
 でかい図体で、あいかわらずリビングの机に懐いて溜息をつく啓介に、呆れた声がかかる。もちろん、この遠慮ない口調は母の物だ。
「・・・」
 顔だけ動かして啓介はジトッと母を睨んだが、はぁーっと大きく一つ溜息をついて再び机に突っ伏してしまった。

 オヤ?・・・これはかなりマイッてるみたいねぇ・・・
 いつもなら絶対食ってかかってくる啓介のいつにない反応に、思っていたより息子が落ち込んでいるのがよく分かる。これは今までになく状況が悪いようだ。
 ・・・ったく、ちょっと顔が良いからってこれまで大した努力もしてこなかった報いね。ヤレヤレ。
 とにかく兄弟ともにモテたので、自分からアタックした経験が少ないのだ。

 ・・・しょーがないなぁ。
ふぅ、と小さく溜息をつくと、母親はガタリと啓介の前に座った。そして、腕を伸ばして、目の前に突っ伏している頭を軽く撫でてやる。

「!」
 啓介は驚いた顔をして起き直り、母と視線を合わせた。
ニコっと母は笑った。昔いたずらした時によく見せた、少し困ったような微笑みだ。
「どーしたの?らしくないじゃないの・・・そんなにツレない相手なの?」
おかーさんに言ってごらん、といった風情で話し掛けてきた。

・・・こんな親でも、やっぱり母親なんだな・・・
 有り難いと思いつつ、そんなばち当たりな台詞を脳裏に思い浮かべる・・・が、
「うるせっ!」 
ぷいっと啓介は横を向いてしまった。意地っ張りなのは性分だ。どうにもならない。
「・・・あんた、人がせっかく相談にのって上げようとしてんのに・・・!」
 フーと拳骨に息を吹きかけて、母はボカンと啓介の頭を殴った。
ハッキリ言って、かなり容赦ない仕打ちである。

 その上、ビシッと人差し指を啓介の鼻先に突きだして
「いーい?年長者の意見ってのは貴重なモンなんだからネ!バカな意地張ってるとせっかくのオイシイ獲物、取り逃がしちゃうんだからね?そうなったら絶対あんた、後悔するわよ!絶対よ!」
 母の正論のようで、かなり変なセリフと思わぬ迫力に、啓介は痛む頭の文句の1言すら言えなかった。

「大体、何よ。ウジウジしちゃって、まー、情けないったらありゃしないわよ。
モテない君じゃないんだから言うだけ言ってみればイイじゃない。」
「!・・・そんな問題じゃねーんだよ!」
 母の言葉に、吐き捨てるように啓介は言い返した。
怒りがその瞳を燃えるように輝かせている。虚ろだった啓介の瞳に、いつもの輝きを灯しているようだ。
「じゃ、どんな問題よ。人妻にでも惚れた?それとも友達のモノなの?そんなの、本気なんだったら、勝負するくらいの根性見せなさいよ!」
「ちげーよ……アイツは……アイツはそんなんじゃねぇっ!」
 言いながら、啓介は苦しそうな表情になった。
啓介の脳裏に、鮮やかに拓海の姿が浮かび上がる。
 ぼーっとした姿、怒った姿、真剣な姿…次々に思い浮かべて、笑った姿を1度も見た事がない事に気がついた。
「・・・こんなんで、どーしろっていうんだよ…笑っちまうゼ。」
 悔し気にそう言って、啓介はまた黙って顔を両手で覆ってしまった。

「何でそんなに悩んでるのよ?恋してるなら、まず告白くらいしてみなさいよ。始めなきゃ何時までたったって進歩しない事くらい解るでしょう?」
「オレは……オレはアイツの友達になりたかったんだよ!!」
恋したかったわけじゃねぇ!と、母親に怒鳴りつけて、啓介はハッとした。
別に、この母が悪いわけじゃない。悪いのは全部自分だ。
「・・・悪ぃ・・・でも、もう放っといてくれよ、頼むから・・・」
 啓介は素直に母親に謝った。

 悪いことをした時は素直に謝れるくらい潔いのに、何故『好き』の一言を想い人に告げられないのか…まるで、悪いことでもしていると思っているような息子の態度に、母親は歯がゆい思いを噛みしめた。
 ふぅともう1度、溜息を付いて気を落ち着かせると、また啓介の頭を撫でてやる。
キツイ瞳で睨んできた息子に、穏やかに微笑み掛けた。
「恋をするのが、そんなに悪いことなの?啓介。…あんた、まるで自分を責めてるみたいに見えるんだけど・・・」
 母のその言葉に、啓介は泣き笑いのような顔を見せた。
「そんなに悪いコトなんだよなーオレにとっては…。だって、相手、男なんだぜ。
それも、オレがすげぇと思うような走り屋だ。いっぱい話して、オレの事知ってもらってさ…ずっと一緒に走って行けるような・・・そんな友達になりたかった。
でも、結局気が付いたらこーなっちまってた。…オレってホントバカみてー」
 自嘲気味に啓介は笑った。らしくない笑い方だ。

           << BACK          NEXT >>



             NOVEL TOP                TOP