【恋の予感】 P4 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)

───数日後。

 ボリボリと頭を掻きながら、啓介は体を起こした。
ベッドサイドにおいてある煙草を手にとって、火を付ける。
 ベッドで煙草を吸うと家族に怒られるのだが、気持ちが落ち着かないこんな時はどうしても止められないのだ。

・・・俺、一体どーしちまったんだよっ!
 以前より目が離せなくなったと言うか、拓海のことが全く頭から離れなくなった。
───この間、彼の走りを改めて見たからだ。
そう思い込もうと、啓介は努力した。だが、そうではない。そうではないのだ。
「ちっ」
 啓介は舌打ちして、いつものように『落ち着き』を啓介に与えてくれない煙草を、ぎゅっと灰皿に押しつけた。

「まじぃ…史浩との待ち合わせに遅れちまうな。」
ふぅっと溜息をついて、啓介はそう呟くとシャワーを浴びるために部屋を出た。
 水でも浴びればスッキリするだろうか?
胸のモヤモヤの正体に、啓介はらしくもなくそんな事を思った。

「涼介はどうしてる?」
 ここのところ、レッドサンズのメンバーとは顔を合わせればこの話だ。
いつになくやる気を見せている兄に、皆、興味津々なのである。
 啓介はいつも通りの返事を返したが、不意に自分でも思ってもみない言葉がこぼれた。

「なぁ史浩。どうなるのかな?アニキとハチロクがバトルしたら…」
 史浩は驚いたような顔をした。
もちろん、言った啓介だって驚いている。
今まで、1度だって兄の勝利を疑った事など無い。
なのに、何故?

 「涼介が負けるワケがない」と史浩は言う。もちろん、啓介だって同感だ。
でも───でも…と啓介は思い、そして浮かんできた言葉を告げた。
「だけど、あのハチロクも負けない気がするんだ…」
2人とも、啓介にとって憧れの走り屋だ。だから、なんとなくあの2人のバトルは見たくない。どちらが負ける姿も見たくはないのだ。
「啓介…」
 戸惑ったような声で、史浩は啓介の名を呼んだ。

 涼介の勝利をいつものように願えない。
啓介は、何だか悔しいような気持ちになって、眉を寄せた。
最近、自分を苛んでいた気分はここからくるものなのか?
・・・いや、違う。バトルの事じゃねぇ。
 改めて自分の心に問いかけて、啓介はすぐに結論を出した。
そして、途方に暮れたような顔をした。
こんなに自分の事が解らなくなったのは生まれて初めてだった。

「啓介。・・・何か、まるで恋煩いでもしてるみたいだぞ・・・・お前」
ソレはちょっと違うか・・・と苦笑しながら、史浩は眉を寄せている啓介にそう言った。
軽い口調で。彼にしては冗談のつもりだったのだ。

「───!」
だが、その言葉に啓介は何も返せなかった。

───『まるで、フラれた男みたいな顔してるぞ』
前に兄が言った言葉が脳裏をよぎる。
・・・オレ、もしかして・・・・

 疑うまでもなく、唐突に啓介は自覚した。
自分が、藤原拓海の走りでなく、彼自身に興味を持っている事を。

───そして、とっくの昔に恋していた事に気づくまでに、そう時間は掛からなかった。


           << BACK          NEXT >>



             NOVEL TOP                TOP