【恋の予感】 P13 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)
「・・・で、どんな勝負だったんだ?教えてくれよ、アニキ!」
こうなると、興味があるのはもちろんバトルの内容である。啓介は目を輝かせて涼介に尋ねた。
「アイツ…また速くなってたぜ。驚いたな、たった半月であそこまで走りを変えるとはな…こんな短期間で進化するなんて流石の俺も度肝を抜かれたぜ。」
「走りが変わった?」
「ああ。ほんの少し、あのドリフトには欠点があったんだ。気付いてたか?啓介。」
啓介は兄の言葉に、ぶんぶんと横に首を振る。
「まぁ、大した事じゃない。あるタイミングで大きめのカウンターを当てるクセがあっただけだ。だが、ああいうクセは1度ついたら抜けないモンなんだがな…」
苦笑した涼介に、啓介は尋ねた。
「それが無くなってたってワケか。」
涼介は頷いて啓介に答えた。
「俺は前半部分でアイツの後ろについた。コピーして走ったのさ。秋名を走るには、恐らくそれが1番速い。」
それが出来るだけでも、涼介の実力は伺いしれる。見たから真似られるという程、拓海の走りは甘くない。
「だが、途中でアイツがミスってな。」
「!ヘアピンだな?アニキが抜いたって報告あったぜ!」
「そうだ。・・・どうやら、バトルには慣れてないらしいな。駆け引きなんて全然ないんだ。ホントにアンバランスで面白いよ。あのハチロクは。」
「・・・何でそのまま離さなかったんだ?」
兄の実力なら、可能だったはずだ。
「タイヤさ。」
「え?」
「ハチロクのコピーが、予想よりもタイヤに負担をかけた。だが、奴のタイヤには問題がなかったんだ。」
「何で?」
「それはまだハッキリしないな。分かってるのは、あの秋名で俺に出来ない何かをアイツはやってのけてるって事だな。でも、それでも負けるとは思わなかった。」
ふっと涼介は笑った。
「ミスって抜かれても、1度も諦めようとしなかった。…で、最後の複合コーナーで勝負してきたぜ。アイツ…粘りも度胸も天下一品だな。」
「アニキ…」
「ホントに良いバトルだったぜ。」
「アニキ…やっぱ、走るの止めるのか?」
啓介のその言葉に涼介は笑みを浮かべた。
「そうだな。…でも、走りを止めるワケじゃないさ。前線に出ないだけだ。俺は自分を良く知っているつもりだ。バックに回った方が自分をいかせると思う。」
「アニキ…」
「啓介。これからはお前がレッドサンズのNo.1だ。気を抜くなよ?」
「…ああ、解ってる。俺も腹くくったぜ。」
「よし!」
ニッと強気に笑った弟に、涼介は力強く頷いた。
「そういえば、啓介。アイツ、バトルの後に何て言ったと思う?」
「え?そのまんま帰ったんじゃねーの?」
「止まったんだ。めずらしく。」
・・・ちぇっ、やっぱアニキは特別なんだよなー
拗ねて睨む弟に顔が、さっきの拓海を思い出させて涼介は笑った。
「俺より速いなんて思ってない…だってさ。わざわざ呼び止めてそんなこと言うんだ。
・・・分かってないな、アレは。」
走り屋の心理にはとことん鈍い。おまけに自分の実力にも気付いていない。
だが、速い。それだけで十分、お釣りがくる奴だ。
「真正直で…真っ新で…この先が楽しみだな。アイツがどんな走り屋になるか……俺はアイツに興味があるよ、啓介」
拓海を知れば知る程、興味が尽きない事は啓介にも分かる。
複雑な顔になった弟に涼介は笑った。
「俺の理性に感謝しろよ?啓介。」
そういうつもりではないことをほのめかしながら、からかうように涼介は言った。
「・・・俺の事…気にするコトねぇぜ。アニキ」
やせ我慢なのは見れば分かる。啓介はウソをつけないタイプなのだ。
「ホントにそう思ってるのか?」
「・・・やっぱりちょっとは気にしてくれ。」
言った側から後悔していた啓介は、すぐに前言を撤回した。
やはり、出来ればこの兄だけは『恋愛面』で敵に回したくはない。
弟である啓介の目から見ても、兄は完璧でカッコイイ。…そして、何だか男の色気というものがあるのだ。言ったら笑われるだろうから、絶対言わないけれど……。
正直でよろしいと笑って、涼介は啓介の頭を軽く叩いた。
「心配するな。俺は車以外で危ない橋を渡る気はないからな。……でも、1人占めはするなよ?アイツの走りは俺の理想に最も近い。今度、ゆっくり話をしてみたいから1度家に連れて来いよ。お前も迫るチャンスがあっていいだろ?」
「えぇー?!・・・何か、イヤだぜ〜オレ。」
啓介が何を嫌がっているのか、涼介には分かっている。
「連れて来い!…いいな?」
だが、もう1度、涼介は念を押した。『啓介が嫌がっている理由』も涼介の楽しみの1つなのである。
「・・・分かったよ。ったく、アニキには敵わねーなぁ。」
しぶしぶと、啓介は承知した。
兄の言葉に逆らえないのは、幼い頃からの事である。
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