【恋の予感】 P12 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)
涼介は苦笑して、拓海に瞳で問いかけた。
『どうしたんだ?』と言いたげな涼介の瞳に促されて、拓海はキッと涼介を睨む。
「…どうしても気になってるコトがあるんですけど…教えてもらえますか?」
声が固い。やはり不満があるらしい。涼介は小さく首を縦に振って促した。
「オレが追いついてくるのを待ってたのは…何でですか?」
拓海のその問いに、涼介は失笑した。
・・・なるほど・・・な。
昔の啓介と同じだ。拓海は手を抜かれたと思って怒っているのだろう。
・・・手を抜いたワケじゃないんだけどな。ホントに面白いヤツだ。
車への知識は皆無といったトコロだろう。だが、速い。そのアンバランスさに心で笑って、涼介は拓海にその理由を告げてやった。
手を抜いたわけじゃない。ましてや車のせいでもない。全て、自分は思い通りに、己の力を出し切って戦ったのだと拓海に告げた。
「タイヤなんて言い訳にはならないさ。条件は同じだ。…負けは負けだ。」
───それが涼介の正直な気持ちだったから。
タイヤの異常を耳にして、一瞬、拓海はきょとんと不思議そうな顔をした。
だが、涼介の言葉が彼の本心である事は解ったようで、勘違いした自分に恥ずかしそうに頬を染めた。
その様子にクスリと笑って、涼介はFCに乗り込もうとした。
「オレは…あの…」
すると、拓海が涼介を呼び止めた。何だ?と思ったら拓海は涼介が想像もしないような事を言ってきたのである。
「その…オレの方が速かったとは、そんな風には絶対思ってませんから…」
この拓海の言葉を聞いて、涼介はもう笑いが収まらなかった。
声に出して笑ってしまった。
こんな風に自然な笑いがこみ上げるのは、ホントに久しぶりである。
「つくづくヘンなヤツだぜ。」
思わず言葉にまで出してしまった。
「お前いいやつだよ。気に入ったぜ…」
ますます、涼介は拓海が気に入った。啓介とは、ほんの少し違う意味だけど。
そして、最後に一言、言い残して、涼介はその場を去っていった。
「小さなステージで満足しないで、広い世界に目を向けて行けよ…また会おうぜ。」
拓海がこれから成長しようとしている段階である事が涼介には解った。
多分、彼はその方法を知らないだけなのだろう。だから、少しだけヒントを与えた。
涼介なりの今日のバトルの礼であり、何より涼介こそが拓海の成長を見てみたいと思ったからだ。
───走ったことのない道を走る。
いつもと違う道。そして、そこで出会う様々な走り屋たち。
そういったものを利用し、より高みへと昇っていく事を拓海は覚えるべきなのだ。
拓海は走り去ったFCのテールランプをずっと見つめていた。心の中に残った彼の最後の言葉を何度も頭でリフレインさせながら。
───拓海の胸の中のモヤモヤは、やはりこのバトルで消えてしまっていた。
「アニキ…」
家に戻り、啓介はほんの少しためらって、兄の部屋を訪れた。
涼介は初めてバトルに負けたのだ。流石にショックを受けているかもしれない。
今日はそっとしておいた方がいいか?とも思ったが、やはり話を聞きたかった。
涼介が話したくないようなら、あっさり引き下がろうと決めて、啓介は涼介に声をかけた。
「ああ、啓介。お帰り。」
ガクリと拍子抜けする程に、涼介は普段通りであった。
啓介はぽっかり口を開けて、そんな涼介を眺めると…
「どうした、啓介。変な顔してるぜ、お前。」
くすくすと自分の様子を笑う兄は、何とも楽しそうである。
「ア…アニキ?」
もしかして壊れたか?と一瞬思って、啓介はもう1度涼介に呼びかけた。
「…負けたよ。啓介。初めて俺はバトルで負けた。」
涼介は笑いを収めて、そう小さく呟くと、突っ立ったままの弟に座るように促した。
「悔しくないんかよ……アニキ。」
拍子抜けした啓介は、まず涼介を見て思ったことを口にした。
「ん?…そうだな。悔しくないって事は無いさ。…でも、満足してるからな。」
フッと笑った兄は本当に嬉しそうだ。
「いい勝負だった。…やっぱりあのハチロクはいいな。」
「アニキ」
一言呼びかけて、啓介はじっと兄を見た。
「・・・そっか。よかったな。」
そして兄の表情に1点の曇りもない事と見てとると、ニッと兄に笑いかけたのだ。
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