【恋の予感】 P10 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)

・・・悪いな、啓介
───だが、しかし、涼介にも譲れないモノがある。
 あのハチロクを初めて見たあの日から、胸の奥に灯った熾火を消せない。
そして、間近で見てなおさら、その炎は広がってしまった。
走りたい、競いたい、アイツと自分のどちらが、より速いのか…それが知りたい!
───これはもう、走り屋の性というモノであろう。

「アイツに、バトルの挑戦状を出した。」
 簡潔に、涼介は告げた。案の定、啓介は驚いた顔1つ見せなかった。

・・・ついに・・・か。
 いつかは来ると判っていた日。
涼介と拓海のバトルを、全く見たくないと言えば嘘になる。
「そうか。・・・で、いつヤるんだ?アニキ」
「来週の土曜だ。」
「そうか。判った。」
 固く真剣な態度を崩さぬまま、啓介は返事をして涼介の部屋を出た。
そんな啓介を、涼介は苦笑しながら見送っていた。

 パタンと閉めた自室のドアに凭れて、啓介は目を閉じた。
「来週の・・土曜・・か。」
 苦く1言、呟く。
・・・なんか、一気に夢から現実に引き戻されたみてーな気分だぜ。
「ま・・・来るべき時が来たってやつだな。」
 大きく溜息をついて、啓介はベッドにダイブした。
もう、今日は寝てしまおう。明日、拓海に言う台詞は、ホントはずっと前から決めているのだ。
「後は・・・言えるかどうか・・だよなー。」

 啓介は脳裏に拓海の姿を思い浮かべながらそう呟くと、そっとその両目を閉じた。


───翌日

「よお。」
 片手をあげて挨拶をしてくる啓介は、いつもより何だか元気がない。
「?おはようございます。・・・啓介さん?どうかしましたか?何だか元気ないみたいですけど・・・?」
 戸惑ったようにそう言う拓海に、啓介はニッと小さく笑ってみせた。
心配してもらえるのは嬉しいが、今はそれを手放しで喜んでいる場合じゃない。

「・・・アニキからバトルの挑戦状…届いたろ?」
 啓介は真剣な顔で拓海を見つめながら、そう言った。
「はい。昨日スタンドの方に…。」
「受けるのか?」
 啓介のその問いかけに、拓海はコクリと首を縦に振った。

「そっか…。やっぱ、やるのか。…ま、そーでなくっちゃな。」
「啓介さん?」
 心の中で何らかの葛藤をしているらしい啓介に、拓海が呼びかける。
啓介は、ふぅーっと大きく溜息をついて、また真剣に拓海の顔を見つめた。

「啓介さん?どーしたんですか?」
 啓介は恐らく自分に何か言いたいことがあって、そしてソレを言えずにいるのだと拓海は感じた。だから、促すように又、呼びかける。
「・・・悪ぃけど、今度のバトル・・・オレはアニキの応援するから。」
 拓海の言葉に促されて、苦い顔で何だか苦しそうに一言、啓介は拓海にそう言った。


・・・わざわざそんなコト言うなんて・・・やっぱり面白い人だなぁ。
やはり、啓介は誠実な人なのだ。
「?・・・んなの、当たり前じゃないですか。」
 あっけらかんと拓海は啓介に答えた。その顔には、笑みまで浮かんでいる。
啓介にしてみれば、予想もしなかった反応であった。

「え?」
「啓介さん、赤城の人なんだし・・・それに、涼介さんの走りが啓介さんの目指す走りなんでしょう?」
 拓海は戸惑う啓介に、ニコリと笑う。
「藤原…」
「だから…啓介さんが涼介さんを応援すんのは、当たり前だと思いますよ。オレ。」

 拓海のその言葉に啓介は驚いて、一瞬おいて嬉しそうに微笑んだ。
「藤原…サンキュな。」
「何で礼なんか言うんですか?」
 きょとんと拓海は不思議そうなカオだ。
・・・ホントの分かってねーなぁ。
 啓介はそう思いながら、もう1度繰り返した。
「何でもイイから…サンキュな。」
「はぁ…ま、いいけど。変な人だなぁ。やっぱ。」
 拓海は分からないという顔をして啓介の顔を見つめていた。

「藤原・・・うちのアニキは、速いぜ。」
 兄の応援をすると言ったそばから、もう人のこと気にしてる。
そんな啓介に微笑みながら、拓海は彼の言葉に答えた。
「知ってます。こないだGT-Rと走った時、何となく解ったから。…でも、オレも負けるつもりで勝負する気ナイですから。」
 その拓海の言葉に、啓介は驚いた。
いつか兄が啓介に言った言葉と全く同じモノだったからだ。

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