【勝敗の行方】 P6 (兄弟×拓)→なつきVS高橋兄弟…別名、ちむのリベンジ(笑)
                      1700+1800Hit 雲丹さんリクエスト分

「ところで藤原?これはどうしたんだ?」
涼介が拓海の顎を人差し指で跳ね上げると、その顔をくいっと横に向けた。
 首なので拓海には見ることが出来ないが、緒美が覗き込むとほんのちょこっとだけ切れて血が固まっているのが目に映る。
「あ!拓ちゃん!ココ、切れちゃってるよ?」
痛くない?と緒美が声を掛けた。
「あ・・・あの、私、……!」
 絆創膏持ってます…と言おうとしたなつきは、思わぬ光景を目にして二の句が告げられなくなった。
 なんと、涼介が拓海のその傷をペロリと嘗めたのである。
「!!」
・・・な・・・何?!今のは・・・。今の、何なの〜っっ!!
なつきは驚いて声も出せずに、その光景から目が離せない。

 拓海は照れて真っ赤になっているのだが、
「涼兄!ダメだよ、嘗めるだけじゃ・・・。」
「フロント行けば薬くらいあんじゃねぇ?行こうぜ。」
残りの2人はいつもの事…とばかりに慣れたモノである。

・・・そ、そういう問題なの?!…大体、何故拓海くんが怒らないのよ〜!
 なつきは全く疑問に思わなかったらしい2人の発言に、なおさら頭を悩ませた。
なつきが1人、う〜んと頭を悩ませてる内に、4人はスーッと出入り口へと向かった。
 あぅ、いつの間にか皆いない!・・・と、とにかく、追いかけなくっちゃ!
ハッとなつきが気づいたときには、自分1人だけがポツンとリンクに立っていた。
 おそらく、先程の啓介の言葉通りフロントに向かったのだろうと、急いで追いかけるなつきであった。

 なつきが追いついた時には、拓海の手当はほぼ終わっていた。
緒美が仕上げとばかりに大きな絆創膏をぺたんと貼り付けているトコロだった。
「ありがと、緒美ちゃん。涼介さん、啓介さんも有り難うございました。」
 初めに目の前の緒美へと礼を述べ、続いて兄弟を仰ぎ見て礼を述べると、拓海はニコリと笑顔を見せた。
 ち・・・ちくしょー!出遅れたわ!
なつきはおもわず女の子らしからぬ言葉を胸の中で叫んだ。
 それにしても…?となつきは、また首を捻ってしまった。
拓海の態度があまりにも学校での態度と違う。
あんな風な笑顔は…もしかしたら初めて見るかもしれない。

「さて、それじゃ、そろそろ移動して、飯でも食いに行くか。」
 涼介のその言葉に、拓海はほんの少し表情を曇らせて
「え?!・・・で、でも・・・。」
 ちらりとリンクの方を少し振り返って見た。
「また連れてきてやっから、んな顔すんじゃねぇよ。」
名残惜しげな拓海の様子に一早く気づいた啓介が、ぽんと拓海の頭に手を置いてそう言うと
「そーだよ。緒美がまたチケット持って来るから・・・ネ?」
緒美が啓介の反対側を陣取って、可愛い笑顔でそう言った。
拓海はコクンと縦に首を振って、そしてまた先程見せた笑顔を顔に浮かべたのだった。

 ・・・ど・・・どーしてなの?拓海くんっ!
自分には決して向けたことのない笑顔を、緒美みたいな女の子ならともかく、美形とはいえ何故男に向けるのだろうか?
なつきは何だか悲しくなってしまいながら、それでも負けるモノかと両手を握りしめた。
 ううん、大丈夫。拓海くんだってきっとなつきのことスキなんだから、もっと仲良くなったらなつきにもあんな風に笑ってくれるハズよ!
 あんたその自信は一体何処から・・・と言いたくなるようなセリフを胸の中で呟くと、なつきは拓海の側へと駆けていった。

「拓海くん、大丈夫?!」
「あれ?茂木・・・何処にいたんだ?今から飯食いに行くけど、お前どーする?」
 ずっとさっきからすぐ側で4人を見やっていたなつきの気持ちにはとんと気づかずに、拓海はケロっとした顔でそう言った。
「もちろん、一緒に行かせてほしいんですけど……」
 なつきはツレない拓海に脱力しながらも、4人の中で行動を仕切っていると思われる涼介をちらりと見上げた。
 なつきが研究を重ねた『男どもがなつきに弱くなる角度』である。
もちろん、そんなモノは全く涼介には通じない。
「ああ、構わないさ……でも悪いが、俺達の車は狭いから少しの間、我慢してもらう事になると思うけど。」
 涼介がフッと笑いながらそう言うと、
「い……いえ、そんな!連れていってもらえるだけで充分です!」
なつきは赤い顔でピンと背筋を伸ばすと、ブンブンと手を振りながらそう言った。
 ・・・あ〜ん、照れさせるつもりが私が照れちゃったよ。もー。
 そんな勝負を涼介に仕掛けるとは、なつきもなかなかイイ根性である。
もっとも、高橋涼介という人物について、なつきがもう少し知識を持っていたならば、絶対やらなかったであろうが・・・。


───チリンチリンッ

 レストランのドアのカウベルの音が軽快に鳴り響いた。
ちらりとそちらを見やった店長であるオヤジの目がキラリと光り、何かを合図するように近くに居るウエイトレスへと頷いて見せる。
すかさずそのウエイトレスが、営業スマイルを貼り付けて来客した拓海達に挨拶をした。
「いらっしゃいませ。3名様……いえ、本日は5名様ですね?」
 いつも訪れる3人に、今日は女の子が2人くっついている。ウエイトレスはすぐに人数を言い直した。
「お席にご案内いたします。こちらへどうぞ。」

 なかなか応対の良いファミレスである。
じつは、この店は3人が打ち合わせでよく使う場所なのである。
つまり常連客だというワケだ。
 ……だが、この3人への応対がやたら丁寧なのは、何もそのせいばかりではない。
ウエイトレスが3人の魅力に取り込まれて……というだけでもない。
 実はある『店長命令』が出ているのだ。もちろん、この店特有の。

 この3人、どこがどうというワケではないが、何となく雰囲気が異様なのである。
店長は初め顔を曇らせた。3人が来ると、ウエイトレスは何故か大喜びで仕事がおろそかになりがちで、ウエイター達も何だか複雑な顔をして落ち着かない様子だ。
 どうしたんだと尋ねても、皆、別に…と言葉を濁らすだけで、若者達の気持ちは全くわからんと首を捻ることしきりだった店長だったが、ある日重大な事に気が付いた。
 それはお客の数……というより、売上金である。
この3人が入ると、何故だか店の中はたちまち女性客で一杯になり、売上金が跳ね上がるのである。

 店長は「金がすべて。お客様は神様だ。上客は大切に!」がモットーである。
なかなか商売上手なこの男、何がどうなってそうなっているのかはよく判っていないが、とにかくこの3人には丁寧なサービスを続けるよう密かに従業員に指令を出していた。
 あの3人が来れば、売上げが伸びる。店長には、理由はそれだけで充分なのだ。
そういうワケで、ものすごくサービスが良い。
 いつ来てもいいように、わざわざ、良い席を空けているくらいだ。
もちろん、外からよく見える場所である事は言うまでもないだろう。


 そんな店の思惑などそっちのけで、窓際の6人掛けの関に案内された5人は、交互にメニューを見ながらあれやこれやと注文をした。
拓海を挟んで男3人が並び、女2人と向かい合わせに座るという配列である。
 ・・・なんで狭いのに男3人で並ぶかなぁ?
 拓海と向かい合わせになれたのは嬉しいが、何となく面白くない。
しかもその場の話題も、車がどーだか、こーだかで、なつきにはさっぱりである。
もっとも、さっぱりなのは隣の緒美も同じようで、なつきと目が合うと小さく肩を竦めて
「いつものことだよ。ま、見てれば割と楽しいんだけど……ネ。」
と小さく声を掛けてきた。

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