【勝敗の行方】 P3 (兄弟×拓)→なつきVS高橋兄弟…別名、ちむのリベンジ(笑)
                      1700+1800Hit 雲丹さんリクエスト分

 しばらく両端から支えられつつ、不安定な滑りをしていた拓海だったが、持ち前の運動神経のおかげだろう。すぐに1人で自由自在に滑れるようになった。
・・・この間、約10分弱。
どうやら兄弟には少々もの足りなかったようで、少なからず残念そうな顔つきだ。
・・・もっとも、その表情の変化は、緒美にしか分からない程度であったが。

 ・・・ぜーたくなのよ!もう!次は緒美の番なんだからね。

 そう勝手に決めてしまうと、緒美は1人で滑れるようになった拓海の横にスイッと並び立った。
「拓ちゃん、スゴイよ。もう滑れるようになったんだネ!上手いよー!じゃ、緒美と一緒にトラックを廻ろうよ!」
 とっておきの笑顔でそう言うと、緒美はリンクに大きく描かれた楕円を指差した。
自然と拓海がそちらに目をやると、大半の人が円上を廻って滑っているのが目に映る。
緒美の笑顔には何故かいつも逆らえない拓海は、「うん」と軽く頷いた。

「やったー。じゃ、緒美と拓ちゃんはゆっくり廻るから、涼兄達は先行ってイイよ。せっかくスピード用の靴、履いてるんだし。」
 早く行けとばかりに、緒美は並び立つ従兄弟2人に手を振った。
緒美の言うとおり、涼介・啓介が履いているのはスピードスケート用の靴である。
当然、通常のフィギアスケート靴よりスピードが出るシロモノだ。
(ごめん、あんまし知らないの、突っ込まないでねぇ〜(>_<) )

「あ・・・すいません。オレ、手間掛けさせちゃって・・・あの、もう1人で平気です。
緒美ちゃんも居るし・・・2人とも滑って来て下さい。」
 ペコリと頭を下げながら拓海にまでそう言われては、兄弟も行かないワケにはいかない。
「・・・そうか?・・じゃ、人にぶつからないように気をつけるんだぞ?」
 言いながら、涼介は畏まってる拓海の頭をポンポンと軽く叩いた。
───気にするな、というコトだろう。
「緒美〜。お前、勢い余ってぶつかるフリしてコイツを押し倒したりすんなよ?」
 啓介は軽いジョークを緒美へと飛ばした。
「ふーんだ!そんなコトしないよーだ!・・・啓兄じゃあるまいし!」
 それに対する緒美の最後の1言はなかなかキツイ。
どうやら、2人で拓海を独占していたので、かなり機嫌を損ねているようだ。

 ・・・ココはひとまず緒美に譲るか。
 又しても目と目で会話した兄弟は、「じゃあ」とばかりに軽く手を振って2人の横を通り過ぎると、スウーッとまるで流れるようにトラックの輪の中へと紛れていった。
・・・もちろん、ドコからか勝手に集まってきた現地FANを引き連れて・・・である。

「すげ・・・何かいっぱいついて行ったなぁ。」
 あいかわらずモテる2人に、拓海が感心したようにそう言った。
「ホント・・・皆、ダマされてるよ〜!そりゃ、顔はイイけどねー。」
 ま、ウルサイのが纏めて居なくなってラッキーだけど…緒美は声を出さずにそう呟いた。
「え?!・・・そんなコトないよ。2人ともホントにカッコイイと思うけど…」
 緒美の言葉をやんわりとだが否定するようにそんなコトを言う拓海に、緒美は苦笑した。
「拓ちゃん・・・ホントのそう思う?」
 尋ねてくる緒美に拓海はコクンと首を縦に振った。
「そっか…。私はあの2人を見慣れてるからなー・・・でも、拓ちゃん。そのセリフ、2人の前では絶対言っちゃダメだよ?」
 拓海の顔の前に人差し指を突きつけながら緒美は言う。
「?・・・何で?」
 もちろん、そんなコト言われなくても、恥ずかしくて直接本人に言う気などないが、拓海は緒美の言葉の意味するトコロが分からなくて、首を傾げてみせた。
「何ででも!・・・その方が拓ちゃんの身のためなんだからネ。」
 どうやら、彼女はとことん自分の従兄弟達を信用していないらしい。
「う……うん。まぁ・・・言わねーけど……。」
 ますますワケが分からないが、緒美の迫力に押されて拓海は頷いた。
「よし!・・・それじゃ、私達も廻りに行こーよ。」
 緒美は満足したようにそう言うと、拓海をリードするようにスイッと前に滑り出た。
拓海ももちろん、後を追う。
───端から見るとまだ初々しい恋人同士のようにも見えなくない2人であった。

 そんなこんなで、結局おいしいトコを全部かっさらった緒美と、おいしいネタになってしまっている拓海は、しばらく仲良く滑っていた。
 緒美はどちらかというとおしゃべりなタチで、少し口下手な気のある拓海にとっては、いつもなら苦手とするタイプだ。だが、不思議と緒美とは話していても余り疲れない。
おそらく、何となく従兄弟2人に似ているトコがあるので、免疫が出来てるのだろう。

「緒美ちゃんって……何か話しやすいなー。オレ、女の子ってちょっと苦手なのに。」
 ポロリと拓海がこぼしたそんなセリフに緒美は一瞬驚いて、そしてすぐに嬉しそうな笑顔になった。
「そーお?ウレシーな。じゃ、もっとお話しよーよ。ネ?」
 ホントに嬉しそうに、弾んだ声で緒美がそう声を掛けると、拓海はらしくないコトを言ってしまった自分に照れてしまい、スイッと少しスピードを上げて前へと滑り出た。

 ・・・うーん、やっぱ拓ちゃんってカワイーなぁ。

 あのクセのある従兄弟達がメロメロになっているのも頷けるというものだ。
緒美がそんなことを考えて拓海の姿を目で追っていると、隣をものすごい勢いで通り過ぎる男が居た。
そのまま進むと、後ろから拓海を撥ねてしまうようなコースである。

「あ!…危ないよ!拓ちゃん!!」
 大声で叫びながら緒美はその後を追ったが、もちろん追いつくはずもない。
緒美の声に振り返った拓海に、ドンとその男はぶつかった。
 拓海は一応避けようとはしたのだが、とにかく相手のスピードが早すぎる。
2人はベシャッと派手な音をたてて、氷の上へと転がる結果となった。
正面衝突じゃない分、まだマシだというモノだろう。

「あっ・・・ってて・・・腰打った。」
「拓ちゃん、大丈夫?ヘーキ?どっか痛い?」
マシンガンのように問いかけながら、緒美は起きあがる拓海の元へと駆けつけた。
「・・・ん、大丈夫みたい。・・・緒美ちゃんはヘーキだった?」
「緒美は転んでないって!ヘーキじゃないのはあっちじゃナイ?」
緒美は、拓海にぶつかって無様に転んだままの人物をくいっと親指で指差した。
「わ・・・大丈夫ですか?」
拓海は急いでその人物の元へ滑り込むと、手を貸して体を起こしてやった。
                     
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