【ラブリー・エンジェル】 P8 (兄弟X拓…と思う )


「実はね、…私達も考えてたのよ。あの子、引き取ろうか?って・・・ね?あなた。」
「ああ。まあな。」
「・・・なぁに冷静なフリしてんのよっ!」
 プッと吹き出して、母親は隣に座る父親の背中をバシンッと音を立てて叩いた。
「あのね!お父さんなんかすっごいのよ〜!病院で暇さえあればタクミちゃんのトコ、行っててネ。…まあ、そりゃあなた達も一緒だったけど。
もうその時の顔ったら、あなた達の比じゃなかったのよぉ!ニヘ〜ってしちゃって顔の筋肉、緩みまくりよ!
おかげで居場所が分からない時も探し出すの楽だったわぁ〜」
 ゲラゲラ笑いながら意外な父の行動をバラす母に、父は照れて横を向いていた。

「でもね。私達はこの通り、毎日仕事で忙しいわ。あの子を預かるとなると、必然的に世話をするのはあなた達になるの。赤ん坊の世話っていうのは、大人でも大変なものなのよ?」
 分かってるの?という目で、母は2人の息子を見た。
「俺、ちゃんとする!絶対、大丈夫。」
 意外にも、涼介より啓介の方が先に答え、涼介も驚いて啓介を見た。
「今までみたいに、毎日、学校終わってから遊び回ることなんて出来ないんだぞ?啓介。」
 不在がちでも、流石は父親だ。息子達のことはちゃんと知っている。話をする機会が少なくても、行動範囲くらい把握しているのだ。
「平気だよ。友達とは休み時間だって遊べるじゃん。タクミが家にいるなら、俺、絶対兄ちゃんより早く帰ってきてタクミと遊んでやるんだ!」
 もう啓介の頭の中では、これからの楽しい日々がくるくると巡り巡っているらしい。ニコニコと満面の笑顔である。
「言ったな?啓介。・・・じゃあ、勝負だぞ。」
 その言葉で、涼介も両親に了承の意を告げる。

 涼介としてはハナから自分が世話を買って出るつもりだったので問題ない。啓介が言い出したことは涼介にも予想外だったのである。
「んじゃあ、決まりだ!やったぁ!タクミはウチの子だ。」
 飛び跳ねて喜ぶ啓介をよそに、涼介は話を詰めはじめる。この辺りが抜け目のないところだ。ドコでこんなワザを身につけてきたのやら・・・。
 しっかりしたお兄ちゃんと言えば聞こえがいいが、あまりにも子供らしさに欠けている。
「ミツさんにはどう説明を?俺達も昼は学校だから、あの子を連れているわけにもいかないし。」
「・・・え〜と・・・ごめんね。実はミツさんにはもう先に相談してあるのよねー」
「・・・なんだ。俺達は後回し?実の息子なのに?」
 チクチクとした嫌みを言いながらも、涼介の顔は穏やかな笑みを浮かべている。あのミツがタクミの世話を嫌がるはずもない。答えは聞かなくても分かりきっていた。
「いいじゃん。そんなの、どうでも。…タクミがウチに来るんだから。」
 啓介はもう、タクミが来るなら何だっていいらしい。

「あーっ!…じゃあ、女子に遊び方、訊いとかなきゃなぁ。…俺、女の遊びなんて知らねーしなぁ〜」
「・・・・・・え?」
 啓介のその言葉に、他の3人は顔を見合わせて次男を凝視した。
「なっ…何だよ、皆で変な顔して。女ってのは男とは違う遊びすんだろう?」
「・・・まあ、違うと言えば違うけど・・・・」
 たった1人の女性である母は呆然と呟いた。
「…って言うか、啓介、お前・・・」
 涼介は目を閉じ、眉を潜めて大きな溜息をついた。
「根本的に間違えてるようだな。」
 ふんふんと頷いて父が全員の言葉を締めくくった。
「・・・だから何だよ!皆して、気持ち悪いなぁ。ハッキリ言えよ!」

「啓介。・・・あの子は男の子!」
 3人は同時に啓介に向かってハッキリそう断言した。
「へ……おと…?…ええっ!た、タクミって男なのかぁ?」
 啓介は大声で叫んでから、ウソぉ…という顔をした。
「男なのか?…も何も、名前からしてそうだろう?」
 タクミという名前から、涼介は「匠」「拓己」「琢巳」などが頭に浮かび、まあ男だろうと思っていた。両親の方は治療にあたった病院関係者なので当然、知っていた。
「なんでだよ!ミで終わる名前って言ったら女だろ〜?緒美だってそうじゃんか。第一、タクミはあんなに可愛いんだから!」
 啓介はタクミの『ミ』は従姉妹と同じ『美』だと思いこんでいたので、すっかり女の子だと勘違いしていたのである。
「まぁ間違えちゃうほど可愛いってのは分かるけどネ。男の子よ、間違いなく。母さん、見たもの。」
 ズイッと人差し指を立てて啓介に言い聞かす母親を見て、涼介は大きな溜息をついた。
・・・見たって何を?と突っ込まなくても分かるが、いきなり下ネタはやめろ、あんな小さな子の事で・・・。
 この人ってホントに女なのだろうか?と、実母に対して疑いを抱いても、この場合、涼介に罪はないだろう。

「啓介。男の子だとダメなのか?」
 そう尋ねてくる父に啓介は首を大きく横に振った。
「なんで?そんなの全然オッケーだよ。あー、よかったぁ。俺、女の遊びなんかつまんねぇって思ってたんだよなぁ。ま、タクミとならソレでも楽しそうだけどさ。」
「お前の場合、女の子でも男の遊びを教えてそうだけどな。」
 そうすると、さぞかし腕白な女の子になったことだろう。あの子が男の子でよかった…と涼介は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。
「やったぁ。じゃ、サッカー出来るな。よっし!俺、もっと上手くなってタクミに教えてやろーっと。」
「啓介。あの子はまだ赤ん坊だぞ?そんなのはずっと先だ。」
「わ、わかってるよぅ…」
 いちいち言わなくても…と口を尖らせた啓介は、いささか残念そうな顔だ。
本当は分かってなくて、すぐにボール遊びするつもりでいたのだろう。そんな啓介の様子に皆でくすくす笑った。
「な、何だよー、笑うことねぇだろう?・・・ちぇっ!」
「まあまあ。…じゃ、明日、皆であの子を迎えに行きましょ。いろいろ買わないといけないしね。忙しいわよー!荷物持ち、ヨロシクね!」
 その母の言葉に、涼介・啓介は嬉しそうに頷く。
一人だけが、
「・・・お、俺だけ、出張?・・・」
と肩を落としてイジけていたが。(大丈夫か、高橋クリニック!)

そういうわけで、次の日には高橋家に愛らしい天使がやってきたのである。




           << BACK                NEXT >>



             NOVEL TOP                TOP