【ラブリー・エンジェル】 P5 (兄弟X拓…と思う )
(SCENE2 天使の正体)
ムスッと拗ねた表情をしながらも自分の言葉に頷いた啓介の頭をクシャッと撫でて、涼介は手を離した。
「・・・えっと、じゃあ、私はコレで・・・。」
お役ご免とばかりにパトカーを運転してきてくれた警官が母に向かって挨拶しているのを耳にして、涼介は振り向くと口を挟んだ。
「すいません。ちょっと待って頂けますか?」
「ヘ?・・・あの・・・?」
毅然と言い放たれて戸惑う警官をヨソに、涼介は又、啓介に向き直った。
「啓介。あの子、ドコの子なんだ?」
啓介の知り合いの家の子なら、何の問題もない。
だが、成り行き上それは無いと思った涼介は、警官の出番があるだろうと呼び止めたのである。
一方、そんな事情を何も知らず、てっきりあの赤ん坊はこの2人の妹か弟だろうと思いこんでいた警官は、驚いた顔を子供達に向けた。
「え?…って、あの子、君たちの兄弟じゃないのかい?」
「知らねーよ。だって、俺が行く前からアソコにいたんだよ。」
啓介が兄へ答える言葉に、警官も母親も話が見えず、首を傾げた。
「啓介。…詳しく話せるな?」
そう言って顔を覗き込んできた兄に、啓介はコクリと頷いた。そこで、涼介は顔を上げて、まだ分からないという顔をしている警官に視線を向けた。
「申し訳ないですが、もうしばらくおつき合い願えますか?…どうやら弟はあの子を拾ってしまったようなので。」
至極、冷静な表情と声でキッパリ告げられた涼介の言葉に、大人達の方が動揺した。
「ええっ?ひ、拾ったって…ええ〜と、じゃあ…」
「ちょ……ちょっと涼ちゃん?」
どういうコト?と続けようとした母親の言葉を片手を軽く振ることで止めて、涼介は淡々と告げた。
「母さん。とにかく、落ち着ける所へ移動しよう。ここじゃ、話も出来ないから。」
あくまで落ち着いて言う我が子を見て、高橋家の母親は小さな溜息をついた。
(・・・ほんっと可愛げないわっ!一体この子、誰に似たのかしら?)
絶対自分じゃないハズ!…と心の中で思いつつ、冷静さを取り戻した母親は息子に了承の意を示した。
「そうね。…じゃあ、こちらへ。すいませんが、息子の言う通りもう少しおつき合い願えますか?」
「あ…、は、はい!承知しましたっ!」
まだ動揺しているらしい警官に一声かけて促すと、歩き出した母に続いて全員がその場を後にした。
★☆★☆★
小さな部屋に収まって飲み物を一口飲むと、全員が啓介の顔を見つめた。その視線を受けて頷くと、啓介はコトのいきさつをポツリポツリと話し出した。
「俺、学校行くのに近道しようとして…あそこ、通ったんだ。公園が出来る予定のトコ…。」
ココでチラリと啓介は涼介の顔を見た。あの場所への出入りは涼介に止められていたのに入ってしまったので、バツが悪い…という顔だ。涼介は仕方ないな…と苦笑して、先を促すように頷いてみせた。
「それで?」
言葉にして促したのは、母親と警官である。
「…そしたら、奥の方から泣き声が聞こえたから…誰か転んで困ってるのかと思って行ったんだ。」
「そこにあの子が居たのね、啓ちゃん。」
「だ、誰かその子の親らしい人は居なかったかい?」
「誰もいねぇよっ!一人ぼっちで泣いてたんだ!」
警官の言葉に何故か立ち上がって怒鳴り返した啓介を落ち着かせるように、涼介はその肩をポンポンと叩くと、立ち上がった弟にもう一度座るよう促した。
「啓介、続けて。」
落ち着いた兄の声につられるように、幾分心を静めて、啓介は話を続けた。
「…俺も……誰か居ないのかなって探したけど、誰もいないし。…で、でも、あんな小っこいの独りぼっちになんてしとけないだろう?だから、アイツの母さん来るまで傍に居てやろうって思って……俺…」
「偉いわ、啓ちゃん。」
母親は微笑んで、向かいに座って俯く息子の頭を軽く撫でた。
ガキ大将で、少々、ぶっきらぼうなところもあるが、基本的に啓介は心優しい子供なのである。飼えないと分かりつつ捨てられた猫や犬をつい拾って来てしまうのも啓介だったし、近所の子供達にも結構頼りにされているのだ。
「え、偉くなんかないっ!…お、俺がっ…」
母親の言葉を強く否定して、啓介は涙ぐみながら怒鳴った。
「啓介?どうした?」
「お、俺がっ…眠くなって寝ちまったから…だからっ…。俺がちゃんとしてたら…。もっと早く兄ちゃんトコ連れてったら良かったんだ!そしたら、あんなに…」
ぐったりと弱ってしまった赤ん坊の姿をマザマザと思い出して、啓介の瞳から涙が零れた。
見られまいとゴシゴシと顔をこする啓介に、大人達は一瞬困ったような顔を浮かべる。
涼介はフッと小さく笑うと、手を伸ばして背をポンポンッと叩いた。啓介を励ますときの涼介のクセである。
「お前はよくやったよ。啓介。頑張ったな。」
「…え?」
兄の意外な誉め言葉に、啓介はその秀麗な面を見あげた。
「よくやったさ。啓介が見つけなければ、今頃あの子はまだアソコで震えていたかもしれないだろ?あの子が一人じゃ可哀想だと思ったから、お前は傍にいてやったんだろう?」
涼介の言葉に、啓介は頷いた。そんな弟に、涼介は微笑んだ。
「じゃあ、お前は間違ってないさ。」
「でもっ……ぐったりして死にそうになってるじゃねぇか!……俺じゃなくて兄ちゃんだったら、きっともっと何とか出来たのにっ」
悔しそうに言う啓介に、涼介は苦笑して、もう一度、ポンポンッと背を叩いてやった。
「そんなことないさ。それに、俺だったらあんな場所は通らないぞ?…まあ、アソコ通ったのは誉められたコトじゃないけど、今回はお手柄だよ。啓介。」
「でもっ…でも、どうしよう。アイツ、死んじゃったら…俺、どうしよう…」
いつかのヒヨコのように、動かなくなってしまったら・・・。
そう考えると怖くて、啓介は必死でその恐怖を振り払おうと俯いた頭を振った。
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