【ラブリー・エンジェル】 P17 (兄弟X拓…と思う )
(SCENE4 天使との約束)
いつも一緒にいよう。
たくさん話して、一緒に遊んで。
眠っている時も、夢の中で一緒にいよう。
★☆★☆★
高橋一家の溺愛を一身に受けて、拓海はスクスクと成長した。 もちろん愛らしい笑顔はそのままに。
もうすぐ5つになる拓海は、今や可愛い盛りである。危なっかしかった足取りも、すっかり安定してきて、駆けっこだって結構早い。
表情も増え、たくさんの言葉を覚え、挨拶だってちゃんと出来るようになった。
ただ、抱き癖がついてしまって、かなり甘えん坊になってしまった事は、まあ、この場合仕方ないだろう。なんせ家族全員、拓海を見るとまず抱き上げてしまうのだから。
『あまり甘やかしてくれるな』と、時々様子を見にくる実父の文太など少し渋い顔をしている。もっとも可愛い我が子に笑顔でまとわりつかれては邪険にも出来ず、結局同じように抱き上げているのだから、文太だって同罪だ。
そんな中でも兄弟2人の拓海への溺愛ぶりは凄まじく、ご近所でも評判の仲良し3兄弟になっていた。
赤ん坊の頃からあんまり皆が甘やかすものだから、ミツは多少の不安も覚えていたのだが、そこはそれ、この家にはしっかり者の涼介がいる。
おやつを買いにいく時も、一つだけな?と言いきかせ、ちゃんと拓海に選ばせている姿に心配性の彼女も一安心していた。
拓海も長兄の言う事は絶対…と幼いながらも理解しているのか、余り我が儘を言って困らせたりしない。元々、物に対する興味が薄いらしく、暇さえあれば寝てるか、座ってぼぅ〜っと遠くを眺めているような大人しい子供なのだ。
でも、啓介が帰ってくると途端にドタンバタンッとはしゃいで家中に埃をあげる始末である。高い高い〜と持ち上げて貰ったり、こしょばしあったりと、忙しい毎日だ。
そんな風に、何事も問題ナシ。日々順調!…と言いたいところだが、一つだけ問題があった。
拓海の可愛らしさには、家族のみならず近所の人達もメロメロだったが、兄弟のバリケードがあまりに厳しいのだ。
他人が拓海に構えるのは、お手伝いであるミツが公園に遊びに連れて出ている時くらいで、それ以外は、兄弟がぴっちりガードしていて指1本も触れさない。
当然の事、保育園通いなど以ての外。拓海の世話を他人に任せるなんて絶対ダメだの一点張りだった。
だから拓海には同年代の友達がいないのである。
流石にこのままでは可哀想…と、ミツが必死に兄弟を説き伏せて、次の春から幼稚園に通わせることになっている。
でも、そんな事くらいであの2人が拓海の自分の手元から放すとはとても思えない。
人見知りになったらどうしましょう…と、老婆の心配は尽きないのであった。
★☆★☆★
「アニキ〜!ちょっと待ってくれよーッ!俺、メシまだだよー!歯も磨いてねぇ〜!」
パリッと身支度を済ませて通学用の鞄を手にスタスタと玄関に向かう涼介の背を見ながら、啓介は朝食のパンを求めてキッチンに飛び込んだ。
余談ではあるが、啓介は最近、涼介のことを『アニキ』と呼ぶようになった。
啓介曰く、『男っぷりを上げるには、まず言動から!』…ということらしい。
何故、そんなコトをする必要があるのか?とか、今の様子を見ても上がったようには思えないが?…とか、色々言いたい事もあるけれど、これも弟の成長の一過程である。
少々生意気な気もするが、まぁ不満という程でもないし……と、涼介は啓介の好きにさせていた。
「あと5分早く起きろって何度も言ってるだろう?同情の余地はないぞ。」
涼介は後ろで慌てている啓介を振り返りもせずにピシャッと言うと、今度は春の日差しを思わせるような微笑で足元にいる拓海の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、行って来るよ、拓海。いい子にしておいで?」
玄関でミツと一緒に待っていた拓海の頭を、涼介はポンポンと優しく叩いた。
「うん!行ってらっしゃ〜い、涼兄ちゃん」
拓海は覗き込んでくる兄の首にきゅっと抱きついて、舌ったらずな声で挨拶をする。そんな拓海を抱きあげて、涼介は心から満足そうな笑みを浮かべた。
日向の匂いがする紅茶色の髪に頬ずりすると、リンゴのように紅く染まっている柔らかなほっぺに軽いキスまで贈っている。
相変わらずの溺愛ぶりに、隣に立つ老婆は苦笑した。
まるで新婚夫婦のよう…と思わずにいられないミツだが、余計な事は言わない。何しろ、この『朝の挨拶』を言い出したのはミツなのだから。
拓海が来てからというもの啓介ならず涼介まで、拓海の傍をなかなか離れようとはせず朝がルーズになってしまった。それを何とかするために、彼女が考えた苦肉の策が『朝の挨拶』なのである。
幼い拓海を朝早くから起こすのは気がひけるが、自慢のご兄弟を毎日遅刻させるわけにもいかない。そんな時、ミツが考えに考えた台詞がコレであった。
『これから毎日、拓坊ちゃんとお見送りしますから、もう5分早くご用意を!』
ちなみに決められた時間に遅れると、拓海はミツに取り上げられてしまう。
これでは守らないわけにもいかず、涼介は毎日きちんと決められた時間の5分前には玄関に辿り着いて、愛する末弟とのスキンシップを堪能していた。
一方、早起きにめっぽう弱い啓介は、つい寝坊してこの始末である。
「俺も〜!俺も行くってーッ!」
今度は洗面所へ駆け込む啓介に呆れた視線を送り、涼介は無情にも拓海を抱いたまま玄関のドアをくぐった。
「待ってくれって言ってんじゃん!」
叫びながら、啓介は猛ダッシュで玄関を飛び出し門をくぐる。そこには、拓海をミツに手渡す兄の姿があった。
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