【ラブリー・エンジェル】 P15 (兄弟X拓…と思う )

「ホントか、兄ちゃん!よかったなぁ、拓海。俺!俺!おやつは俺が食べさせてやるかんなー!」
 予約、予約!とばかりに、自分を指さして懸命に訴える啓介だが、拓海の返事はと言えば・・・。

…ぷぅッ…ぷるるぅ〜

「・・・今度のはイヤって合図なんじゃないか?」
「うわっ!イジワル言うなよなー、兄ちゃん!」
 人の悪い笑みを浮かべて茶化す涼介に、啓介はムゥッと拗ねた。

「…でも、ホントもうすぐ言葉覚えるかもな。」
 楽しみでならないと言葉の端に匂わせる涼介に、
「え?しゃべるのか?拓海が?」
 啓介もワクワク顔に戻ってしまう。
「分からないけど、最近、よく声出してると思わないか?」
「…声って、あーとか、うーとか…アレのことかぁ?」
「そう。」
「…あれじゃ何言ってんのか分かんねーよッ。兄ちゃん、分かんのか?」
「分かるわけねーだろう?…でも、声出す練習してるんじゃないのかな?拓海なりに何か言ってるんだよ、きっと。」
 その言葉に、2人して拓海の顔を覗き込むと、赤ん坊はまたウトウトと瞳を閉じかけてる。
「あ、…又、寝ちまいそう。」
 なんて言ってる間に、拓海はスウッと眠りの世界に旅立ってしまった。
「・・・早いな。さすがは拓海だ。」
 赤ん坊はよく眠るものだが、それにしても拓海はもの凄く眠る。
いささか寂しいと思えなくもないが、これも拓海の成長の為である。
涼介はニッコリ微笑むと、拓海の眠りを邪魔しないようそうっと指先だけで、ピンク色の可愛いほっぺを撫でたのであった。

★☆★☆★

「いっただきまーす」

 元気良く挨拶をして、啓介はもの凄い速さで夕食をかきこんだ。
ここ最近、毎日こんな様子で、隣に座る涼介は眉間に皺を寄せる。
「啓介。もっと落ち着いて食え。ちゃんと噛まないとダメだろう?」
 目の前には、めずらしく母が座っているのに、何故、自分がこんな注意をしなければいけないのか・・・。
だが、目の前に視線を移して、涼介は眉間の皺を強くするだけだった。
 だって目の前には、啓介と負けず劣らず、大急ぎで箸を動かす母がいるのだ。
「…母さんも!…ったく、いい年して何やってんだか・・・。」
「涼ちゃん!女に年のコト言う男はモテないわよっ!」
「それは大いに大歓迎だね。煩いのが減ってくれれば、人生に潤いが出来るな。・・・ほらほら、よそ見してたら零すよ、母さん。」
 その年で人生語るな!…と言いたい母だが、涼介の注意にハッと気づく。危うく、みそ汁を零すところだったのだ。
「・・・涼ちゃんってホントかっわいくなーい!何でこうなっちゃったのかなぁ」
「そりゃ、母さんの息子だからでしょ。やっぱ。」
 くそ生意気なことを言いながら、涼介はもくもくと食事を続ける。
周りの2人に注意をしているものの、涼介自身も彼にしてみればハイペースで食事をしているのだ。

 皆、忙しいのか…というと、別にそういうワケではなく、本当にもうすぐ、拓海がしゃべり出しそうな感じなのだ。
『あー』『うー』以外にも発声することが出来るようになっていて、『な〜ッ…ん、むぅ〜』と何とか言葉を出そうとしている様子が見られるようになった。
ミツなど『あらまぁ、あと一歩ですねぇ』と呑気に笑って、そんな拓海を見守っている。
 だが、朝・昼は家に居ない彼らにとって、拓海と会う時間は休みの日か朝・夜の数時間しかない。
1番に名前を呼んでもらおうと思ったら、やっぱり、可能な限り拓海の傍についているしかないのである。

 そんなこんなで慌ただしい食事も終わり、3人はぐるりと拓海を取り囲んでいた。
狭いベビーベッドから出して、毛足の長い絨毯に直においた子供用布団の上に拓海を乗せている。
 最近、伝い歩きまで出来るようになった拓海は、ベッドから出してもらうと、あっちこっち自由に動き回っている。
 手を差し出されるとその中へポスンッとやってきて、いい子だね〜と誉められると極上の笑顔を見せてくれるのだ。
 ハッキリ言って、高橋家の動くおもちゃ状態なのである。

「拓海ちゃん。こっちこっち〜♪」
 笑顔で母にそう呼ばれて、拓海はハイハイでそちらに向かった。
そして例にもよって、ポスンッとその手の中にダイブすると、顔をあげて一言。
「…ぅ…たくぅ〜…」
 しばしの沈黙の後、3人からどっと歓声があがった。

「しゃ、しゃべった?今、しゃべったよなっ!!」
「ああ。…自分の名前から覚えるとはな…」
 嬉しいんだけど、ちょっとだけ残念という涼介の口調である。でも、きっとコレで良かったのだ。他の誰かを1番に覚えられたら、ショックだったかもしれないし。
「ま、考えれば当たり前よねー。だって、自分の名前って1番よく耳にするんだもん。ねー、拓海ちゃん。もう1度、言えるかなぁ?」
 拓海、拓海と言いながら、母は腕の中の赤ん坊に頬ずりした。
すると、拓海は嬉しそうに笑って、覚えたばかりの単語を連呼する。
「たぅ〜…たくぅ〜」
 どうやらまだ、『み』は言えないらしい。

「母さん、一人じめすんなよ。」
 拓海と同じくハイハイで隣の母に近づいた啓介は、拓海をその手から奪い取った。
「ああっ!啓ちゃん、ヒドイ。何すんのよッ!」
 母の苦情は聞く耳持たず、啓介は自分を指さして懸命に拓海に訴えていた。
「拓海!拓海!俺は?俺の名前、言ってみて。」
「う〜…お?…おぇ?」
 拓海は九官鳥のように、言われた言葉を繰り返すコトを覚えたらしい。
「啓介!啓介だよ。言ってみ?ほら。け・い・す・け!」
あと1歩とばかりに、啓介はセンテンスを区切って自分の名前を覚えさせようとした。

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