【ラブリー・エンジェル】 P14 (兄弟X拓…と思う )
★☆★☆★
ぷッ…ぷるるぅ〜っ
眠っていたハズの拓海から、声ともつかぬ不可思議な音が聞こえて、啓介は顔をあげた。
「あ!たっくみぃ〜、起っきしたのか〜?」
啓介は遊んでいたゲームコントローラーをぽいっと放り投げて、拓海の元へと駆けつける。
「コラ、啓介!もう使わないならちゃんと片づけろ。」
行儀の悪い真似をすると、すぐ涼介からの叱責が飛ぶ。
「えぇ〜!後でいいじゃん、そんなの。」
「後でって言ってたら、お前、やらないだろう?今やるんだ。」
「…ちぇ!わーったよ。」
ビシッと指を突き立てられて言われて、ブチブチ文句を言いながらも啓介はTVの元へ戻り、涼介はというと、寝起きの拓海の隣をちゃっかり陣取ってしまっていた。
ひょいっと柔らかな体を抱き上げて、広々としたソファに深く腰掛け、腕の中の拓海をそっと撫でてやる。
「おはよう、拓海。よく眠れたか?」
涼介が拓海専用の優しい笑みを浮かべて話しかけると、拓海はまだやや眠たげな顔で涼介をジッと見つめてきた。やがて、自分の頬を撫でる涼介の指が気になったのか、小さな手で捕まえようとする。
「あ〜、うー。うぁ、…ふぁ〜うーうー」
赤ちゃん語で話しながらキャッキャッと笑い、手足をバタつかせている。
拓海のご機嫌な様子に、涼介の笑みは尚も深まった。
「ああーっ!!兄ちゃん、ズルイぞ!俺が片づけてる間に拓海取るなんて!」
「・・・啓介。拓海は物じゃないんだぞ!そういう言い方するなって、いつも言ってるだろう?…な?拓海。」
「う〜。うぁ〜ぷぅ」
タイミング良く出た拓海の声は、涼介への返答なのだろうか?
速攻で近寄ってきた啓介の影が前をよぎると、拓海は翳されている啓介の手を捕まえようと、もぞもぞとそちらに体を動かした。
「お、こっち来るか?よーっし、拓海。来い来いっ♪」
涼介に拓海を独り占めされて、やや拗ねていた啓介だが、拓海の仕種で機嫌は一気に浮上する。
涼介も拓海が啓介の方へ行こうとしているのを察して、素直に委ねる。もちろん、落とすなよという警告も忘れない。
2人とも本当は、拓海が笑顔で居てくれるならどちらの腕の中でも構わないのだ。叶うなら、自分の腕の中だとなお嬉しいというだけで・・・。
ぷっ、…ぷるるるるぅ〜
啓介の腕に抱かれた途端、拓海はまた、起きた時と同じ『音』を発した。
唇を閉じたまま息を吐き出し、ぷるるぅ〜と音を鳴らすのだ。
「何だよ、拓海ぃ〜。俺んトコ来た途端そりゃねぇだろー。・・・ヤなのかなぁ?」
拓海が自分の腕の中を嫌ってるのでは?と思い、啓介はシュンと項垂れた。
その姿が耳と尻尾が垂れた犬のようで、涼介はクスッと声をたてて笑ってしまう。
「ひっでぇよ!兄ちゃんまで〜」
「悪い、悪い。…でも、お前の顔がおかしくて…」
涼介は堪えきれずにクックッと笑い続ける。
「チェッ!・・・なぁ拓海。笑ってくれよぉ!…な?な?」
見本を示すようにニカッと笑いながら懸命に訴えてくる啓介に、拓海はニコォと笑み崩れてキャッキャッとはしゃぎだした。
「うわっ!…かぁーわいい〜っ!!」
余りの可愛らしさに、もう離さないぜ!と言いながら啓介がぎゅうっと抱きしめると、又、ぷるるる〜という音が出た。
「・・・なんでだよぅ〜」
それはもう情けない声を出して拓海を見る啓介に、涼介が助け船を出してやる。
「違うって、啓介。お前を嫌がってるんじゃなくて、たぶん、痒いのさ。」
「痒い?」
「ほら。ちょっと拓海、かしてみろ。」
腕に取った拓海をきちんと抱き直して、涼介は拓海の唇に指を当てた。
すると、拓海は自然と口を開く。赤ん坊は口元に持ってこられたモノは、とりあえず銜えてみるものなのだ。
すかさず涼介は指を口の中に突っ込んで、開かせるように動かした。
「───!!んんっ!…うー、うぅ〜!!」
途端に拓海が不満そうに唸って、首をイヤイヤと振ってしまう。当たり前だろう。
「なっ、何すんだよ、兄ちゃん!イヤがってんだろ!!」
「いいから。…ほら、見てみろ。白いの、見えるだろ?」
「え?……あ!歯?…もしかして。」
啓介が視線を移したそこには、ピンク色の固まりに埋もれて、ほんの少し小さな白い歯が顔を覗かせていた。
「そう。生えてくる頃らしいな。だから、口の中が痒くてあんな真似するんだろう。」
言いながら、涼介は口の中に入れていた指を引き抜いた。でも拓海の不満顔は直らず、ふぇっ…と今にも泣いてしまいそうに歪んでいる。
「ごめんな、拓海。」
涼介はちゅっと拓海の口元に口づけて、溢れてしまった唾液を嘗めとった。
すると拓海は機嫌を直して泣き顔を収め、大きな瞳をパチパチと瞬いた。
「じゃ、もうちょいしたら、ちゃんとした飯食えるようになんのかなぁ?」
啓介はワクワクしながら、兄に尋ねた。
「ん?…どうだろ?野菜の柔らかいのとかイケると思うけど。ミツさんに言っとかないとな。」
「なぁなぁ。…じゃ、おやつとかもあげれるかなぁ?」
食事当番は、ハッキリ言って拓海から『この人から食べちゃダメ』レッテルを貼られてしまっているみたいだが、おやつならどうだろう?
子供なら誰でも大好きな甘いおやつ。それなら自分からでも食べてくれるかも…と、啓介は期待しているのだ。
「プリンとかゼリーとか、少しずつな。」
ベビー食品売り場に色々並んでるのもいいけど、どうせなら自分が作ってやろうかな?と、涼介の頭の中ではあれやこれやと楽しい想像が駆けめぐっている。
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