【Flower】 P8 (啓X拓) 可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!
★☆★☆★
「こないだは、悪かったな。」
2人っきりの車内で、啓介は不意に拓海に声をかけた。まずは先日の詫びを入れる。
「…別にいいけど。…理由くらい教えて下さいよ…」
拓海はむぅっと唇を尖らせて、ぼそっと啓介に答えた。怒ってはいないけど、このままってのも気分が悪い。
「理由・・・かぁー」
「かぁ…って、何だよ、それ!理由もなく怒ったわけじゃナイんだろー?俺、訳分かんねぇよ。」
苛立ったような拓海の言葉に、啓介は苦笑した。
「ごまかしてる訳じゃねーって。そう怒んなよ。あん時、俺さ…嫉妬したんだよなー。」
思いも掛けない啓介の言葉に、拓海は一瞬聞き間違いかと思った。
「はぁ?」
「お前が兄貴の花大事にしてんのが、何かこう・・・すっげー悔しくてさ。カッコ悪ぃ真似しちまった。」
「・・・花?」
「そう。…あの花見てさ・・・頭ん中、グチャグチャになってた…」
「花……って何のコト?それ。」
そう。拓海は思ってもいないのだ。あの枯れた花に啓介が不機嫌になった原因があるなんて。だから、花の存在なんてもうすっぱりと頭の中から抜けていたのである。
返ってきた拓海の台詞に、啓介は一瞬、その絶妙のコントロールを乱した。
キキキーッと派手な音を立ててよろける車をなんとか制御し、入り組んだ場所に車を止める。
FDが向かったのは、初めて出会った秋名の峠。…と言っても、今日は走る事が目的なワケじゃないから、別に頂上まで上る必要もない。
ふぅっと1息吐いてから、啓介はポクッと軽く拓海の頭をはたいた。拓海はキョトンとした顔を啓介に向ける。
「お前ん部屋に飾ってあんだろーが!兄貴の花が…。アレの事だよ、アレの!」
…ったく、相変わらずボケてやがんぜ。と小さくごちて、啓介は車を降りた。拓海は叩かれた頭をさすって、啓介に習って車を降りる。
「……分かんねーよ。…そんで何で啓介さんが怒るんだよっ!」
叩かれた上にアホだのボケだの言われて、拓海はちょっと不機嫌だ。
「…お前、人の話聞けよ…。怒ったんじゃなくて、妬いたんだよ、俺は。
あんな枯れた花大事にするくらいお前が兄貴の事好きなのかと思ったら・・・自分でもびっくりするくらいショックだったんだ。」
「は?…俺が?…涼介さん?……て、ええっ!ス、スキって…何それ?!ちょ、ちょっと待っ…」
啓介のセリフを身振り付きで理解して数秒後、拓海は一気に真っ赤に染まってワタワタと慌てふためいた。
「ち、ち、ちっ…違いますよ!それ、違うー!!大体、アレ飾ったの、ウチの親父っすよ?」
「・・・へ?」
思いっきりカッコ悪い相づちである。啓介は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になり、しばらく2人は何も言葉が出なかった。
「・・・お前の親父が兄貴の事好き…てこたぁねーよなぁー…まさか。」
しばらくして、啓介は頭を抱えて、脱力したようにその場にしゃがみこんでしまった。
そして何が可笑しいのか、そのままクックッと肩を震わせて笑い出している。
「…げっ…気持ち悪ぃ…それ…」
一方拓海は、ギャラリーの女の子よろしく「涼介さまぁー」と言って両手を組んでいる文太を想像してしまい、うっぷと口元を抑えた。しばらく夢にでも見そうな、恐ろしい想像である。(私の夢には出てこないでくれっ!)
「大体、なんでそんな風に思うかなー」
理不尽な誤解だ!とでも言うように唇を尖らせた拓海に、啓介はすっくと立ち上がった。
「だってお前、兄貴の前だと借りて来た猫みてぇに大人しいし、顔はポーって赤くなるし。・・・俺が兄貴の話したらすげぇ嬉しそうにすんじゃねーか。」
「……そ、そんなことねーです!」
「あるだろ!」
強く言い返した啓介に、拓海もムッと目を吊り上がらせた。
「ないよ!」
「ある!」
「ないっ!」
「絶対あるっ!!」
・・・こうして2人は息が切れるまで『ある』『ない』を繰り返した。
「…すぐ…涼介さ…の…話す…の…け、啓す…さ…じゃ…ないかー。」
はぁはぁと息をつきながらそう言って、拓海はぶすぅと思いっきりむくれた。
「それは……」
ソレは、拓海が喜ぶと思ったから。啓介が1番好きな、あの笑顔が見れると思ったから。そう言おうとして、やっぱり止めた。これ以上言っても水掛け論になるし、言いたい言葉は他にあるから。
───伝えたい、気持ちがあるから。
「・・・じゃあ、ホントに兄貴の事、好きなワケじゃねーのか?」
拓海より一足早く息を整えた啓介は、急に真面目な声で尋ねた。
「好きじゃないってワケじゃ…。でも、そんなんじゃないっ。……それに男同士なんだし、普通そんな風に思わないだろー」
付け足した言葉は、嘘だ。だって、それなら、啓介へと向かうこの気持ちは?
いつだって彼の一挙一動に、上に下にと絶え間なく揺れているこの気持ちは何だと言うつもりなのだろう。拓海はきゅっと唇を噤んで、俯いた。
(・・・啓介さんのバカ!アホ!間抜け!何でそんな事言うんだよっ!)
怒鳴ってやりたかったけど、涙声になったら嫌だから。拓海は心の中で啓介へ悪態をついていた。
だから、気づかなかった。手が触れるほど近くに、啓介が近づいていた事に。
「じゃあ…俺が言ってイイか?」
何を?と聞く前に、拓海は体ごと啓介の腕の中に居た。あの日の夜のように。
「!けっ…啓介さ…!!」
拓海が驚いて顔を上げようとしたのを、啓介は強い力で封じた。
流石に顔を見ながらってのは気恥ずかしい。啓介にとってもなけなしの勇気なのだ。一歩間違えれば、もう会えなくなる程気まずくなってしまうだろう。
「俺・・・俺も、男だけど。……お前の事、好きだ。」
それでも、今まで言えなかったのが不思議なくらいストレートに言葉が出た。多分もう、心は一杯一杯だったのだ。言いたくて言えなかったこの言葉で。
「好きだ」
もう1度、耳元で囁くように言って、自分より幾分細い体を力一杯抱きしめてから、啓介はそっと拓海の体を解放した。
でも、今度は拓海の方が離れない。ぎゅっと啓介の上着を握りしめていた。
<< BACK NEXT
>>
|