【Flower】 P7 (啓X拓) 可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!
啓介は、色鮮やかな花に隠れるように置かれている、丸い花に目を止めた。白くて素朴な花。飾り気はないがよく見ると可愛いソレは結構、拓海のイメージに合うような気がした。
「おっさん、これは?」
「ん?ああ、そりゃ、菊だよ。」
啓介が指さしたのは白いスプレー菊。中央は黄色く、丸みを帯びた小さな花びらがその周りを囲っていた。
「え?菊って…あの菊かぁ?全然違うだろー」
1枝に1輪だけ咲く細い花びらのジジババくさい花。それが啓介の菊に対するイメージだった。
「コレも菊だよ。スプレー菊って言ってな。間引きせずに育てるとこうなるんだ。最近では食卓とかでも楽しめるように改良されてこんなのも出てきてなぁ。」
世の中、何事も進歩してんなぁーと親父は豪快に笑った。
「ふーん・・・新しい菊ってトコか?」
「ま、そんなトコだが、コレは地味すぎるんじゃねぇのか?兄ちゃん。女ってのは幾つになってもこう……」
また長くなりそうな親父の話を、啓介は手を振ることで止めた。
「いいんだ。・・・目立たないけど新しいっての、何かアイツらしーしな。」
そう言って静かに微笑んだ啓介に、親父は花のうんちくを言う口を閉ざした。
(・・・なかなかイイ顔してんぜ、兄ちゃん)
言葉は何てコトないものだったが、相手を想う啓介の気持ちは花屋の親父にはよく判った。愛しくてどうしようもない。そんな恋の手伝いに自分が精魂込めて育てた花が役にたてる。
(くぁーッ!花屋冥利に尽きるじゃねーか!オイ)
デカイ図体してこの親父、かなりのロマンチストらしい。(笑)
ジーンと一人、体を震わせて感動していた。
「コレでいいから、全部くれ!おっさん、悪ぃけど超特急で頼むぜ!」
そんな親父の心中など露ほども知らない啓介は、ノロノロしている花屋にハッパをかけた。実は内心はかなりイライラしている。拓海が眠ってしまったら、タイムアップだ。
「…まあ、兄ちゃんがそう言うなら、コレでいくか。よっしゃ、まかしときな!」
親父はドコか楽しげにその花を取り出すと、短めに茎を切り始めた。
「いやー…若いっていいねー。兄ちゃんの彼女は大人しいタイプなのか?」
「あん?彼女なんていねーよ。それより早くしてくれよ、おっさん!」
イライラしてるらしい啓介に小さく笑って、茎を切り終えた親父はなにやらゴソゴソと奥の方を探っていた。
「何言ってやがる。イイ人にやる花なんじゃねーのかい?」
「別に…渡したいダケさ。・・・それに俺はまだ、気持ちも伝えてねーからなぁ。」
無駄話を止めるつもりがないらしい親父に肩を落として、啓介は又煙草を銜えた。
燻る煙を啓介は目で追って、自分の台詞に溜息をつく。
そう・・・まだ、気持ちを伝えてすら、いないのだ。
「諦めんのは……早すぎるよなー」
言うつもりのなかった言葉が口をついて出てしまって、啓介は気恥ずかしさに視線をそらせた。
そんな啓介に豪快に笑って、親父は小さめに纏めた花束…と言うより、どう見ても新聞紙の固まりのようなソレを啓介に向けた。
「その通りだ、兄ちゃん!頑張んな。…でも悪ぃなー。ウチはこんな店だから、綺麗なラッピングとかねぇんだよ。せめてと思ってキレイな紙に包んだんだけどな…コレでいいかい?」
そう言って渡された花束は、カラーで真っ青な空が描かれた新聞紙で包まれていた。たぶんドコかの会社の広告ページだろう。
派手なリボンもカードも何も無い。でも、素朴な花の愛らしさは変わらない。
何より、不器用そうなこの親父の気遣いが、嬉しかった。この暖かさは、拓海の家で感じたあの暖かさと、きっと同じモノだ。
「十分さ。そんなん気にするヤツじゃねーし。…サンキュー、おっさん。」
ニカッと笑って、啓介はその花束を受け取るとFDの中に戻った。すぐにアクセルを踏んで、車をすすめる。ミラーを見ると花屋の親父が帽子を振っているのが見えて、啓介は口元に笑みを浮かべた。
★☆★☆★
啓介が藤原豆腐店についたのは、それから5分後。拓海の部屋を見上げると、まだ電気がついていた。
少し考えてから、啓介は小さな石を拾うと、拓海の部屋の窓に向けて投げた。もちろん力は加減して。
「てめぇーっ、おいコラ樹!石はやめろって・・・っ!」
すぐに窓開いて、拓海が怒鳴ってきた。が、すぐに豆鉄砲をくらったような顔に変わる。樹だと思って怒鳴った先には、啓介が苦笑して立っていたのである。
「…け…けーすけさん?」
「よう!」
軽く手を挙げて挨拶して、啓介は手で来い来いと招いた。
拓海はすぐに窓を離れて、慌ただしい音をたてて家から転げ出てきた。それでもきちんと父親に声をかけるトコが拓海らしい…と、啓介は苦笑した。
「悪ぃな、夜中に。」
「それはイイけど…啓介さん、石は止めて下さいよ。ガラス危ねぇだろー!」
むぅっと口を尖らせる拓海に、啓介は小さく笑った。
「悪かったな。もうしねぇって…それよりさ。…ちょっと付き合ってくんねぇ?」
啓介はFDを指さして、拓海にナビに乗るよう促した。
ツイッと顔を上げて、拓海はじっと啓介を見た。探るようなその視線に啓介はニカッと笑って見せた。その顔はいつもの啓介で、先日の面影はドコにも無い。何かを吹っ切ったようなサッパリした笑顔だった。
「……いいけど。」
一体何がどうなってるのか分からないが、拓海は頷いて啓介に同行した。
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