【Flower】 P5 (啓X拓) 可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!
・・・アイツ……もしかして、アニキの事、そんなに好きなのか?
───拓海が涼介の事を好きなのかもしれない。
この疑問は、実はいつでも啓介の心の奥にあった。あったけど、見ぬ振りを決め込んでいたのだ。気にして動けなくなったら嫌だから。
涼介と目が合うと、拓海は頬を染めて俯いてしまう。恥じらうようなその仕種は、啓介にとって珍しい光景じゃなかった。冴えた月のような美貌を持つ涼介に対して、そうなってしまう人は多い。それは啓介にとってあたり前の光景で気になるような事でもない。但し、拓海の場合は、ほんの少し、啓介の胸に痛みをもたらした。
でも、啓介は涼介に取ってかわりたいワケじゃなかったから。全然羨ましくないと言ったら嘘になるけど、どこか遠巻きに憧れるような、あんな風に思って欲しいワケじゃないから。
だから自分は自分で居ればいいと思ったし、拓海が段々、自分に惹かれている……ような気がしていたのだ。ついさっきまでは・・・。
「はぁー…ちょっと…マイッタ。」
溜息と共に、言葉も出た。ちょっとどころか、かなりのダメージだ。
ふと物音がして、誰かが上ってくる気配がした。拓海だ。こんな顔してたら、変に思われる。そう思ったけど、荒れた気持ちはどうにも出来なくて、啓介は顔を戸口から逸らした。
「すいません。待たせて…。親父の奴、ポットの電源抜いてて…」
ガチャガチャと音を立てて、何も知らない拓海は何時も通りの声と姿で啓介の目の前に現れた。置かれた盆の上のカップから暖かそうな湯気が上がっている。
それを目にしても、言葉をかけられても、啓介は拓海の顔をまともに見る事が出来なかった。乱暴に問いつめてしまいそうな自分が、恐かった。
・・・そんな権利もねーだろう?
自嘲気味に自分に言い聞かせて、グッと啓介は拳を握って感情を堪える。
「…啓介さん?あの…」
何も言わず、顔を上げない啓介を変に思って、拓海は問いかけるように啓介の名を呼んだ。戸惑っているのが判る。暖かかったハズの部屋が、いきなり寒くなった気がする。
「わ、悪ぃ。何でもねー。…貰うな、コレ。」
カップを手に取って、砂糖も入れずに啓介はそれを煽った。苦い。当たり前だ。
だが、味なんて、どうでもいい。そんな事に構ってる場合じゃナイ。啓介はそのまま、ゴクリと何度か喉に送り込む。その間、2人の周りは奇妙な沈黙が続いていた。
拓海も啓介の様子がおかしいと思った。でも、何でもないって言われて突っ込める程、押しが強い方ではない。啓介が黙り込んでるから、いつもなら弾む会話も無くなって。
拓海は自分用に入れたカップに口を付けて、啓介の様子を窺っていた。
「あのさー」
ふと、啓介から声をかけられた。
「アレ…アニキがやったヤツ?」
はぁ?っと拓海は一瞬、首を傾げた。アレと言われても判らない…と思ったが、この部屋に涼介から貰ったものなど1つしかないのですぐに気が付いた。
「はぁ…そうですけど。アレが何か?」
一体、あの枯れた花が何だと言うのだろう。
花を贈る意味など、とんと興味もなければ思い当たりもしない拓海には、啓介の様子がおかしい理由がアレにあるとはとても思えなかった。
100%間違いないと判ってたけど確認した自分が、啓介は何だかイヤだった。そして何とか他の理由を…と思ってる自分もイヤだった。
「・・・・お前、花…好きなんか?」
「え?」
「……だから、花だよ、花!」
指をさして、少し乱暴な口調で尋ねる。
「・・・はぁ。別に特にってワケじゃねーけど・・・キレイとは思うけど。」
拓海はワケが判らなくて、とにかく思った通りに答えた。一体、啓介は何がどうしたと言うんだろう?
「ふーん」
喉の奥から絞り出すような思いで、何とか相づちだけ打って、啓介は出されたコーヒーを乱暴に胃の中に納めた。でも、面白くないという態度は抑えられない。
「啓介さん?」
「俺……帰る。…コーヒー、サンキューな。」
そう言って立ち上がる啓介を、拓海は慌てて追った。
「ちょっと…啓介さん、一体どうしたんすか?」
店先で、腕を掴んで引き留めた。どう考えても、さっきから啓介はおかしい。
聞くまで帰さないと思って掴んだ手は、思いの外強い力で啓介から掴み返された。
拓海が驚いて目を見張ると、啓介は何かを堪えるような、どこか苦しそうな顔をして拓海を見つめていた。ぐいっと力を込めて引き寄せると、一瞬だけもの凄い力で抱きしめる。
「………ゴメン。またな。」
驚きで動きが止まってしまった拓海を解放して、啓介は耳の傍で掠れた声でそれだけ言って、FDに乗り込むとすぐにエンジンをかけて走り去って行ってしまった。
「・・・何だぁ?・・・もう、変な人だなぁ。」
拓海には分からない。啓介はなんで急にあんなになってしまったんだろう。
・・・虫の居所、悪かったんかなー?
それだけとは、思えない。そう言えば、花がどうとか?
啓介が去った道路を見ながら、思い出してみる。でも、やっぱり判らないものは判らない。一体アレが何だと言うのだろうか?
「・・・言ってくんなきゃ、判んねーよ・・・」
拓海の呟きは、風に浚われて消えてしまった。
───寒い、寂しい、1日の終わり。
こんなハズじゃなかったのに。楽しく過ごして幸せだったから、この終わりは余計に寂しい。
「・・・啓介さんの…バカ!」
ワケわからない事で何だか怒って帰ってしまった啓介にそうごちると、拓海は部屋へと戻っていった。
★☆★☆★
「はぁー…俺ってなんか情けねー…」
情けないにも程がある。逃げ出すように、帰ってしまった。
荒れたままで家に帰るワケにもいかず、啓介は手頃な場所で車を停めると、深く紫煙を胸の中に吸い込んだ。もう、精神安定剤になっている、手放せない煙草。拓海に会ってから、吸う数は増える一方だった。
風に流れる煙を目で追いながら、啓介はさっきの戸惑う拓海の姿を思い出して、胸の中がチクンと痛んだ。これは罪悪感だろうか?
しゅんと困ったように眉を下げる・・・あんな表情、させる気なんてこれっぽっちもなかった。なかったけど、あの時は自分の気持ちに精一杯で、拓海の気持ちも考えてあげられなかった。
「俺…最悪。めちゃめちゃカッコ悪ぃー。」
こんなのでは、拓海を振り向かせるなど、夢のまた夢である。
余裕の無い、自分がイヤだ。どうしてもっと上手く、立ち回れないのだろうか?
・・・アニキほどじゃなくてもいいから、も少し要領よくてもいーのに。
知らずのウチに、又、兄と自分を比べてしまった自分にげんなりして、啓介は大きく息をついた。
・・・ダメだッ、今日はもう寝よ。
───こんな日は、眠るに限る。
上手くいかない1日を、啓介はいつもそれで終えていた。
思い立ったらすぐ…とばかりに、啓介はFDの乗り込むと超特急で家へ帰った。すぐ10分後には、ベッドの中に潜り込んでふて寝を決め込む。同じ頃、拓海も又、部屋でふて寝を決め込んでいるとも知らずに、啓介の1日は終わりを告げた。
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