【Flower】 P4 (啓X拓) 可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!
居間に入るよう促されて、1歩進んで啓介は足を止めた。ちゃぶ台と小さなTV。飾り気のない部屋は、女手の無さの現れだろう。でも、暖かい。気温とかじゃなくて、生活感のようなモノが伝わってくる。拓海の印象にピタリとはまるその雰囲気に、啓介は口元を綻ばせた。
「啓介さん?」
「・・・なあ。お前ん部屋は?」
「え?」
「俺、お前ん部屋、行ってみてぇ。」
一体何が楽しいのか、何だか嬉しそうな顔で啓介にそう言われて、拓海は疑問符を掲げた。
「はぁ?」
「・・・ダメならいーけど。」
「いや、別に・・・。でも、俺ん部屋、TVとか何もねぇけど?」
「いらねぇよ。お前が目の前に居んのに、TVなんか…。じゃ、いいんだな?」
「はぁ…まぁ…」
何だかやたら嬉しそうな啓介に拓海は戸惑った。
何がそんなに嬉しいんだろう?と、疑問でいっぱいだが、お茶なんて別にドコで飲んでも一緒だし。
「じゃあ、階段上がってすぐんトコだから・・・」
先に行ってるように啓介を促して、拓海は台所へ向かっていった。
★☆★☆★
「・・・なんか、アイツらしー部屋。」
入ってすぐ、啓介はプッと笑った。
居間と同じく、飾り気のない部屋。適度にちらかってるソコには、あの居間と同じような暖かさがある。ココで拓海が育ったのだと、実感できる。
着込んでくたびれた学ランが吊ってあるのを見つけて、啓介はそっとその袖口を掬った。コレを着て学校に行っている拓海を想像してみると、眠そうにして授業を受けてる彼が目に浮かぶ。きっと自分の想像は間違えていないだろう。
突っ立ってるのも変な感じで、啓介はベッドを背もたれにして腰を下ろした。枕元には最近出た、車の雑誌が置いてある。
初めて会った時には、全然、車に興味を示さなかった、秋名のハチロクこと藤原拓海。
べらぼうに速いクセして、自覚がなくて。しまいには、車なんか別に好きじゃねーと言っていたあの頃には、きっとこんな本、手にした事もなかっただろう。
自覚が欠けてるトコは相変わらずだが、拓海は確実に変わってきている。もう手が届くまで近くに、彼は近づいて来ている。いい傾向だぜと、啓介は小さくそう言った。
本を置いて顔を上げると、部屋の大きさには少し不釣り合いな大きな窓が視界に入った。
いつも、この窓の外側に自分が居た。この窓を見上げて、電気が灯るのを見てから帰った。でも今日は、自分がこの部屋に電気を灯した。それが何だか嬉しくて、啓介は微笑した。
・・・窓見ながらニヤニヤって…俺も大概、変だよなー。
自分で言ってたら世話ないけど、恋する身としては、ささいな発見が嬉しいのだ。
啓介はそのまま窓から視線を離し、又、首を巡らせた。拓海が上ってくる気配も無いし、もう少し部屋を眺めていよう。
───この些細な好奇心が、啓介の仇となった。
ソレを見た時、何だかこの部屋にそぐわないな…と思った。
カラカラに干涸らびた花。ドライフラワーというヤツだろうか?普通、男の部屋にあるモノじゃない。拓海にそんな趣味があるとも思えない。
はて?と首を傾げて、啓介はジーッとソレを見た。そうして、気づいてしまった。気づくべきではなかったと、後で嫌になるくらいそう思った。
頭を金槌で殴られた程のショックとはきっとこんなのを言うのだろう。動かない脳で人ごとのようにそう思った。
その花を、無造作に縛ってあるリボン。そのリボンは色褪せていたけれど、啓介には見覚えがあった。その時、自分が言ったセリフまでハッキリ脳裏に蘇ってくる。
『アニキ〜〜。ヤメロよ!んな気障な真似さぁー』
どこかの花屋で、啓介は呆れたように兄にそう言った。兄は静かな微笑を讃えただけで啓介には何も答えなかった。程なくしてやってきた店員に、これで如何ですか?と示された花束を涼介は手にとって確認する。相変わらずの完璧主義に又、呆れた。
『ピンクのリボンはヤベーんじゃねえ?』
啓介は笑いながらそのリボンを手にとり、兄にからかうようにそう言った。涼介は『そうか?』と小さく言い、啓介の言葉を気にした店員が『同じモノで水色もありますけど?そちらになさいますか?』と声をかけた。結局そっちも見せて貰ってから、水色で贈る手配をした。一風変わった、高橋涼介から藤原拓海へのダウンヒルバトルの挑戦状。
ありありと、その情景を思い出して、啓介はまた、もう1度、枯れて逆向けに吊されているその花に目をやった。
そう。アレは間違いなく、あの時、涼介が拓海に贈ったあの花だ。
・・・な、なんで・・アレがまだココにあんだよっ!
拓海に贈られたモノなのだから、拓海の部屋にあってもおかしくはない。でも、とうに枯れ果てた花を置いておく必要がドコにあるのだろう。
・・・そんな理由、一つしかねーじゃねぇかっ!
ドクドクッと自分の心臓が脈打っているのが聞こえる。自分がパニクってるのが判って、啓介は無意識に煙草に手をやった。
灰皿を…と手を伸ばして、ココが拓海の部屋だと思い出す。煙草を吸わない拓海の部屋に灰皿などあるワケもなく・・・。
ちっ…と軽く舌打ちをして、啓介は火を点ける前の煙草をグシャッと折ると目にしたゴミ箱の中に放り投げた。
もう1度、見たくはないのに、啓介は吊されたバラへと視線を向けた。何度見ても、結果は同じなのだが。
───花としても美しさを失ってなお、大切に飾られ続けている花。
その理由を『大切な人からの贈り物だから』と判断してしまった啓介に、罪はないだろう。ましてや彼は知らないのだ。この花を、拓海の父親がこの場所に吊した事など。
『拓海ー。コレ、キレイに枯れてっから、吊しとけ。お前が花もらう機会なんて一生に1度くらいだろーからなぁ』からかうように言って、文太は悪戯心からこの花を拓海の部屋に飾ったのだ。拓海がソレを取らなかったのは、面倒くさかっただけで。
だが、そんな親子のやり取りなど思いもしない啓介が、拓海が自分で飾ったのだと思いこんでも仕方ない。
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