【Flower】 P3 (啓X拓)  可愛い話を書きたいのー(>_<) 頑張るっす!

(SCENE 3 花束の理由 )

 ほどなくして、2人を乗せた車が、藤原とうふ店の前に到着した。
いつもならまだ店に電気が灯っている時間だが、今日はもうシャッターが降りている。
ハチロクの姿もない。きっと文太が又、飲みに出たのだろう。

 ブレーキ踏んで、ゆっくりと車が店の前に停止した途端、二人は同時に小さな溜息をついた。
いつもより楽しかった分、いつもより何だか寂しくて・・・。

「・・・着いたぜ。」
 一呼吸置いてから、啓介はいつもと同じ言葉を掛けた。
時計の針は、夜の9時30分を回っている。そろそろ拓海は就寝時間だ。
 今では啓介も拓海が早寝早起きなのは知っているし、夜に走りに行かない事だって充分承知だ。

・・・これ以上、引っ張り回せねー……よなぁ。

 この後、ホントは秋名を流そうかと思っていた。
でも、さっき拓海が1回欠伸をかみ殺したのに、気づいてしまったのだ。
眠いのだろう。そんな彼を無理に引っ張り回すのは気が進まなくて、啓介は諦めた。

 走りに行くのなら、又、誘ってみればいい。それでなくても、今日は偶然、長い時間一緒にいられたラッキーな1日なのだから。
───そうやって、自分をムリヤリ納得させて、啓介は拓海に帰宅を促した。

「藤原?」
 到着の声をかけても無反応な拓海に、啓介はもう1度、声をかけた。
「あ…はい。すんません。」
 ハッと気づいたように顔を上げて、拓海は助手席のドアに手をかけた。でも、小さくドアをあけたトコロで、又、動きを止める。

「あの…啓介さん。コーヒー…飲んでいかないっすか?」
 ためらうように、拓海は啓介に声をかけた。言ってから、自分らしくない…と自分で思ったけど。
「えっ?」
 啓介は、驚いたように拓海を見た。拓海はもう啓介には背を向けていて、顔は見えない。
「今日の晩飯の礼に…っても、ウチ、インスタントしかねーけど。…啓介さんさえ、よかったら……。」
 驚いたまま声をなくした啓介に、拓海は振り向き加減でもう1度、声をかけた。

───もう少し、一緒にいたい。
 沸き上がってくる、この感情。それはとても簡単な言葉だけれど・・・。
でも、そんな言葉、普通はなかなか口から上手く出てこないものだ。ましてや拓海のような口下手なら、ソレは尚更で。

「いいのか?……でも、お前、もう眠いんじゃねーのか?」
「そんなコト、ねーっすけど?……啓介さん、ヤならいいけど・・・。」
 遠巻きに断られたと思って、拓海は心持ち拗ねた表情になった。啓介は慌ててそれにかぶりを振る。
「バーカ、んなワケねーって。・・・んじゃ、ちょい邪魔さしてもらうかー。お前ん家、入ったコトねぇしな。」
 啓介は何度か拓海を自分の家に招いたコトがある。でも、拓海の家には入ったことがない。いつも店が開いているし、何考えてるか分からない拓海の親父は何だか苦手なタイプなのだ。

 話にのってきた啓介に、拓海は小さく、嬉しそうに笑った。大きな目を少し細めて、口元を小さく綻ばせる。嬉しいと思ってる事が見ればすぐ判るような、素朴な笑顔。柔らかい印象である彼によく似合ってて、頬ずりしたくなるほどに可愛い。
 時々見せるこの笑顔は、啓介のツボにかなりハマる。啓介にとっては何でもないようなコトで、拓海はこんな表情を見せる時がある。逆に、見たいと思って拓海が喜ぶようなコトをしてみても、見られる確率はかなり低い。逆に怒らせてしまうコトだってあるくらいだ。
 つまりいつだって不意打ちで訪れる、啓介にとって”幸福”な出来事なのだ。

───その小さな花のような素朴な笑顔をさせたのが『自分』であるという事。
 その事実が、いつでも啓介に言葉では言い表せない幸福感を与える。それと同時に、
『他の奴にもこんなカオ、しょっちゅう見せてんじゃねぇだろーなー?』
という余計な心配も与えてくれる。これは勝手な独占欲。でも、恋したら、きっと誰だって持つ感情だろう。

「じゃ、車、ソコ入れて下さい。」
 いつもはパンダトレノが収まっている車庫を示してから、拓海は軽い足取りで助手席を降り立った。
「え?…でも、帰ってきたら邪魔に…」
「ヘーキ、ヘーキ。あのクソ親父、出たらなかなか帰ってこねーから。」
 言いかけた啓介を、拓海は手を軽く振って制すると、腕の動きで、もう1度、車を車庫に入れるように促した。
「ふーん。」
 小さく相づちを打って、啓介は拓海の言うとおりFDを停めた。拓海は鍵を開けようと既に啓介には背を向けている。
 ・・・全く頓着してねーな。
 『父親はなかなか帰らない』その言葉に、多分、いや絶対、それ以上の意味など無い。拓海にソレを期待する方が無駄なのだが・・・。判っているけど、啓介はドキッとしてしまった。ほんのちょっとの期待が、顔を覗かせる。

 ・・・ま、いっか。
 そういう意味で意識してほしいという気持ちは常にある。でも、今みたいに自然に傍に居られるのも悪くない。それに、もう少しの間、一緒に居られるのは本当なのだから。

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